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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カイテン防衛編

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平和な二人

僕とミコトはその後釣りをするべく町を散策して歩く。ミコトはそのままで僕は黒のスラックスに白シャツに黒い羽織そして雪駄というラフな格好で出かける。英雄として認識されてるのは軽鎧を着て武器を携帯している僕なので、割と一般の人には私服だとバレない。


顔は目立って良い方ではないのがこういう時とても便利だ。のんびりと首都の店や露店を見つつ見張っているだろう人間たちにはしっかり見られるように動く。ここ暫くを思うと平和過ぎて欠伸が出そうになる。


「ほら見て気下さい! これ私たちの作品なんですよ!」


 ファンシーな雑貨屋に入るとミコトが満面の笑みで人形を僕見せて来たので欠伸を抑えて両手に取り見ると明らかにミコトをデフォルメした感じの人形だった。視線を移すと他にも華さんだったりアルミだったり更にはアジスキも居る。


元々イスルモモンガの人形を作ったのが始まりだから動物は分かるけどついにミコトたちまで仲間に加わるとは……。


「これさぁミコト人形の人気が上がるとミコトの徳もあがるの?」


 ミコトは微笑みながら首を傾げる。分かってないでやってるのか天然だなさては。まぁ今の文明ではテレビも無いし地味な人気の上がり方しかないだろうから早々問題にはならないだろうし良いか。


「あれこれは?」


 お店の人が作ったのか”新商品入荷!”と言う紙が貼ってある箱を見るとそこにはまた可愛らしい笑顔で笑うルナが居た。ミコトはそれを手に取り自分の人形と並べて微笑んだので僕も釣られて微笑む。


もうルナも仲間だもんな僕らの。これなら悪い月読命には徳や信仰が集まったりしないから良いだろうし、離れた場所に居るルナの力になれば良いなと思わずには居られない。


 僕らが暫く雑貨を見ていると店主の女性が出て来てそこから暫く店の奥でミコトと話し込んだので僕はお店の外のベンチでのんびり寛ぐ。ホント首都は建物も僕らの町より立派だしお店も多いし人も色んな格好をしていて人種も交じり合い流石って景色が広がっている。


僕は生まれは都会だけど育ったのは田舎の方だから最初この景色に酔いそうになったのがとても懐かしい。戦乱を超えて今こうして見ると酔うより先にどうしたらこんな町に出来るかなと考えを巡らせてしまう。


これだけ人が多いと紛れ込むのは楽でも不審な行動を取れば直ぐにバレそうだ。特に五年前の竜神教(ランシャラ)以降この首都に住む人々は敏感になっている。僕としても早く引き上げたいと思っていて、あまり長く僕が滞在していると住民の皆が不審に思うだけでなく不安を抱く恐れもあるからだ。


なのでなるべくここに来る時と出る時はしっかりした皆が認識しやすい格好で出て行っている。もう少し掛るようなら誰かに変装させて一旦首都を出した方が良いのではとすら思っていた。


「閣下」


 人二人分くらい離れた横にあるベンチに一人のエルフが座り僕を見ずにそう呟いた。僕は気付かぬふりをして変わらず前を見ながら上半身を倒して両肘を両膝の上に置き気付いたと言う合図は送った。


「委細承知」


 それだけ言ってお店の人に御茶を頼んで飲み干し代金を置いた後去って行った。イザナさんはミッツさんと手紙を渡した蜥蜴兵双方からの報告を受け取り実行してくれたようだ。正直現場で指揮を取れないのは心苦しいけど僕以外の皆が居るから安心して任せてのんびりさせて貰う。


この件が終われば重臣たちにも交代で長期休みを取るように出来れば良いなと思う。過労で倒れたりは皆しないよう健康管理は徹底しているけどそれでも無理はしてるのは分かってるので何とかしないといけない。必要なのは人材でそれが集まってくると毎週休日を入れたりも出来るから何にしても人が必要だ。


「康久さんお待たせしました!」

「全然問題無いよ」


 ミコトが慌てて出て来たので笑顔でそう答える。これで首都の捜索のみに集中出来るし派手に釣りはするけど具体的な動きはなるべくひっそりしなきゃいけないので基本のんびりミコト孝行するくらいだから問題無い。


それから二人で夕食の買い物をしてから家へと戻る。荷物は多くなった分は配達で頼んだけど、僕の住所を聞いて僕らより先に家に付き台所に置いてくれたと後で知る。


かなりのんびりとブラブラしたつもりだけどいつの間にか空は夕焼け色に染まり鳥が寂しげに無く時間となった。コウテンゲンは軒先などに灯りがともされ始めると人が徐々に減り始めるがそれでもブリッヂスに比べれば大分賑やかだ。


「おうお帰り」


 玄関前の階段に帽子を被りポンチョを着た男、クニウスが腰掛けていて僕らを見かけると加えていた葉っぱを取りポケットに入れて立ち上がった。それに合わせる様に両脇に付いて居た兵士も立ち上がる。めちゃくちゃ警戒されてて笑いそうになったのを笑顔で抑え込み連れ立って家に入る。


ミリーが滞在している貯蔵庫にも顔を出し様子を窺うも本を読みながらリラックスしている様子だったので安心して警備の兵士に礼を言いながら居間へと戻る。


「何かお手伝いしましょうか? 奥方」


 クニウスの言葉に笑顔でお断りしてミコトはキッチンへと入っていく。僕も重い物を動かす時などは手伝うけど味付けには手を出さない。ミコトにはミコトの味付けがあるし僕はそれが好きで手を加えたくないからだ。


「さてさて今日も一日ご苦労さん」

「そっちもね。で、何か動きは?」


 首を横に振りながら帽子を脱ぎつつテーブルに備え付けの椅子に座るクニウス。帽子は自分の膝の上に置く辺り中々行儀が良いなぁと感心する。そしてポンチョもゆっくり埃が立たないよう脱いで椅子に掛けた。クニウスは見た目に反して良いところの子なのかもしれないな。


「まぁ来る時は一気だからこっちが毎日神経尖らせる必要も無い。警戒はかなりの動員数でやってるしそこが首都の強みでもあるから疲れすぎないこったな」

「ソウビ王の方は?」


「お前さんの奥方と義姉が帰ってこないのが答えだろう。何かあった時の為に城に滞在している。流石王族と言うべきかこういう時の対処は流石だ」


 それを聞いて華さんに感謝してもしきれない。僕は所詮功績で王族になったけど華さんは生まれながらの王族で王位継承権もある。何かあれば直ぐに人手を出して貰えるよう王の側に控えているのだろう。


「取り合えずオレは他所で寝泊まりはするがここに御馳走になりに来るから宜しく」

「何でだよ」


「お前さんは気に入らないだろうが毎日出入りしてないと何かあった時にだけ来るとそれだけで疑われるんだよぉ。オレだって出来れば勝手に動いて必要な時だけ接触したいもんだがね」


 ホント相性が悪いのか癇に障るけど言ってるのは正しい。


「クニウスは元王族か何か?」

「何だ? 突然」


「いやぁダラダラ歩いてると見せかけてるのがわざとらしくてさ。所作とかに何て言うか気品? みたいなものが漏れ出してるんだよね偶に」

「具体的には?」


「帽子とポンチョの脱ぎ方それにテーブルの付き方」


 背もたれに体を預けてはいるけどだらしなく座れずに背が伸びているし、何か汚くなり切れないところが見えて気になっていた。


「そりゃお前さんのオレに対する印象がアップしただけの話じゃないのか?」

「確かに前はただ嫌な奴でそう言うところにすら頭が回らない程だったけど大分冷静になってるのもあるし、僕がどうと言うよりクニウスの方に何かあったんじゃないのか? 僕に対して好印象というか例えば自分と同じような環境になったとか」


 そう答えると首を竦めて体を沈めてだらしなく座る。相手がクニウスだから遠慮無く言ったけどデリケートな話なのは違いないのでそれ以上は止めておいた。この後沈黙はミコトから手伝いの声が掛かるまで続き、声が掛かって僕が席を外すと言うとどうぞと答えて沈黙は終了。


戻ってくるとクニウスの首都情報が始まりミコトもそれを聞いて盛り上がる。僕らは殆ど首都に居ないから何処が流行ってて何処が美味しいっていう情報は有難い。兵士の人たちにも聞く訳にはいかないし。


 僕はミコトの手伝いをすべく隣で鍋を抱えて下ろしたり物を出したり切ったりと動き、ミコトの料理が完成すると僕とクニウスは兵士の人たちにも順番に料理を取りに来るよう声を掛ける。恐縮はしていたけど作ってしまったから食べて貰わないと捨てるしかないと言うと皆遠慮しつつも取ってくれた。


「いやぁ美味いねぇ! さっき首都のどこの店が美味いとか言ったがこれは参ったよ!」


 クニウスはとても美味しそうに丁寧に平らげ御代りまでして喜びの声を上げる。兵士の人たちにも御代わりをどうぞと言うと皆並んでくれ準備した分は全て完食となる。ミリーもお腹一杯で幸せそうに寝たと言うし僕の家に居た人たちは幸せな夜を過ごせたようで何よりだ。

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