拗らせた人たち
「参ったわね。拗らせた大人程面倒な物は無いわ」
「そうだな。とは言え国の大事、国民の身の安全が掛かってるとなれば最早昔馴染みも無い。私は覚悟を決めた」
デラックさんは腰に携えている剣の柄に手を添え空気が張り詰める。相手の狙いは読めたけど何処で何をしているのかまでは分からない。護るだけでなく攻めていかないとジリ貧になってしまう。
「取り合えず私と華はお父様の所へ行くわ。流石にこんな事態になったのなら報告しないと……私たちも王族の一員だし」
「ライラには」
サスノさんがボソッとその言葉を口にし場の空気は重くなる。暫くして
「直接伝える前に事態が表沙汰にならなければそれで良い。サスノ、全力で止めるぞ」
デラックさんが強い口調で決意を口にサスノさんも目に炎を宿したような強い目をして頷き外へと出て行く。リュウリン女史と華さんを見送った後、僕とミコトは久し振りに二人でゆっくりのんびり朝食を頂いて町へ繰り出す。
「さてどうしたもんかね」
「占ってみます?」
「どんな占い?」
「花びら占い」
二人で噴水広場のベンチに並んで座りながら視線を遊ばせていたけどいまいち良い案が浮かばなくて呟いた僕にミコトがそう提案した。真面目な顔のミコトに笑顔で頷き花を籠に入れて売り歩いている少女に声を掛けてその籠の花を全て購入し代金を多めに払って頂く。
何度も頭を下げながら走って去って行く少女を見送ると、ミコトはその籠の黄色い花を一輪取り出して花びらを一つ一つ撫でて行く。全て撫で終えた後、口付けをして空へ軽く投げた。黄色い花はミコトの膝の上に右側に頭を向けて落ちる。
僕たちはその方向に視線を向けるとその方向からこちらへ向けてスキンヘッドの強面の男がローブに身を包んだ状態で歩いて来た。
「あれまぁ」
「お久し振りです!」
僕たちは一度見合った後その人物に声を掛けるこれまた懐かしい顔に出会うなぁ今回は。目の前まで来たので立ち上がり手を差し出すと、スキンヘッドの強面の男こと元暗闇ギルドのミッツさんは苦笑いしながら手を握り返してくれた。
「全く困った御方だ。こんな堂々と居られちゃ近付き辛い」
「この近くに美味しいケーキ屋さんがあるんですよ! そちらに行きましょう!」
ミコトの提案で僕らはそのケーキ屋さんに移動する。むさい男二人と美少女がケーキを食べている姿は中々衆目を集める。でもなぁ僕もミッツさんも甘いものがとても好きなんだ困った話だけど。
「ったくこんなに注目されたらダメじゃないのか?」
「いやもう歩いてるだけで変装も無意味に近いし諦めましたよ。で、どうですかそちらは」
今はバイキングタイムなので食べては持って来てを繰り返し少し落ち着いたので話を始める。ちなみにミコトはまだ食べたりないらしく取りに行って戻ってきてケーキをほうばっている。
「康久殿の依頼通り暗闇ギルドを色々突いてみましたが案外根が深い、と言うかソウビ王の御蔭で根が深くなったと言うべきでしょうな」
「だろうねぇまぁそれも覚悟の上だろうけど」
「王の密偵とも何度か会いましたんで色々情報交換もさせて貰ったり便宜を図ってくれたのは礼を言います」
「いやいや当然でしょうこっちが頼んでるんだから。経費の方も細かく出してくれて助かります。うちはしっかりかっちり人が見てるから」
うちの財務大臣ことシブイさんは今頃くしゃみをしているだろうな。ミッツさんとは対面では無いにしても手紙などで色々やり取りをしていてその度に経費の処理をしてたんでシブイさんに突っ込まれ事情を説明した。
うちの隊は現在は僕の資産を切り崩してるから僕の家の財務大臣はシブイさんとミコト、それに華さんの三人だから隠し事は出来ない。
「早速ですが貴方がここに来ているとなれば事情はある程度御存じとして話しますが、暗闇ギルドは没落貴族共の資金を使ってならず者を搔き集め、首都の水門から侵入を試みているようです。勿論指導者はオルランド。それと以前名を馳せた冒険者のギャラック・ゴリオとミリー・ゴリオ」
「あの二人兄妹?」
「違いますよ夫婦です。康久殿は知らないかもしれませんが彼らは以前に貴族を誅殺してます。ミリーの妹を拐かし弄んだ挙句、なんで貴族が悪いんですけど貴族の称号は基本戦や業務の功労者に与えられるもので言わば国の重鎮ですからね。リュウリン様たちも法に則り証拠を突きつけ正式に処分に入ろうとした矢先だったんですがその前に殺してしまい結果リュウリン様たちも関与を疑われてしまい王族の資格諸々をはく奪されかねなかった。それを救ったのがギャラックとパーティを組んでいてその時は孤児院の手伝いをしていたライラ、現在の第四王妃です」
ミッツさん曰く、ライラ王妃は薬師として初めてゴールド帯に入った稀有な冒険者でありその才能からソウビ王に何度も国に協力するよう言われていたけど世界を回って知識を得て多くの人を救いたいと言う思いを伝えて断っていたようだ。
彼女の功績には故マウロ先生も舌を巻いていて度々会談を持ち知識を互いに寄せて新たな治療の模索をしていたと言う。事件の話を知ったライラさんはソウビ王に謁見し国に協力する代わりに彼らの罪を軽減して欲しいと頼んだと言う。
それに対してソウビ王は難色を示したものの、貴族側にもライラ王妃の患者が多く王妃となれば優先して見て貰えると言う思惑が重なり多くの賛同を得た。証拠もありリュウリン女史たちの関与の疑いも晴れたので皆の意を汲んだ上で裁判を行い、ギャラックとミリーは所払いにそれ以外は嫌疑不十分で不起訴、被害者貴族は御取り潰しで終わったようだ。
「更に最悪なのは今回の首謀者側に被害者というか加害者? の貴族の身内も居るんですわ」
「……もう逆恨み八つ当たり出来るなら誰でも良いんだな」
加害者と組んで王や首都の国民を攻撃しようなんて訳が分からん。もう恨みに頭を占領されて泊れないんだろうな。そうなったらもう僕らが止める他無い。
「取り合えず自分は暗闇ギルドをマークし続けます」
「お願いします。川岸の村にエルフの兵士が居る筈なんで彼らと協力してください。それとブリッヂスのイザナさんにも連絡を。僕たちは首都で警戒を続けます」
「心得ました御二人とも御無事で」
ミッツさんは席を立ち一礼すると去って行った。僕は御茶を飲みミコトは満足するまでケーキを頂いた後店を出る。中々ヘビーな話で整理を付けるのに時間が掛かってしまった。事情があったにせよ殺人を犯しその尻拭いを押し付けた形になった上に夢まで奪ってしまった負い目から逃げられず、誰かの所為にしなければ生きていけないんだろうな。
「一旦家に戻ってミリーさんに御話聞いてみますか?」
ミコトの提案に頷き一度家に戻る。警備の兵士がびっしりと付き完全に穴が無い状態になっていた。皆に敬礼した後中には居ると、足を投げ出しソファに座る男が居る。
「暢気で良いなぁ」
「そうでもないぜ? オレも色々と探ってたんだ」
僕たちが向かいに座るとクニウスは姿勢を前屈みにして帽子を取る。ボサボサの頭を掻きむしりながらその探った話を聞かせてくれた。暗闇ギルドと連携しているのは竜騎士団の第九第十師団で間違いなく、デュマスデュロス兄弟が指揮を取っているのも間違いないようだ。
本部から帰還するよう再三にわたり指示を受けるも使者を斬り殺し連絡を絶った。そしてクニウスを通して僕に対処を頼んで来たと言う。
「デュマスデュロス兄弟は僕に恨みがあるしね仕方ない。何て言うか恨みを持った人間しか居ないなぁ今回の事件は」
「まぁそんなもんだろ未熟な社会体制の今はそう言うのが起こすテロが一番確実に権力を取れるしな」
「で、そのデュマスデュロス兄弟は今どこに?」
「調べた限りはいつも通りの東側の湖から来るようだ」
それを聞いて残念だと思う他無い。東側の調査をもっと早くドンドン進めて居ればその手を防げたけど今となっては後の祭りだ。気になるのはゴブリンやコボルドの多い地域を何故竜騎士団は渡って来れるのか。
「ゴブリンやコボルドに主義主張はない。美味しいか美味しくないかだけだ」
「あれらと会話出来るのか?」
クニウスは微笑むだけだった。その感じからしてそう言うのがあっちに居て交渉してるんだろうな。なるほどそれが掴めれば東側の開拓もかなりスムーズになりそうだ。




