内通者とか建設とか
何故内通者が割れたのか。それはとても単純な理由だった。元々彼らは蜥蜴族と言うかコモドさん以前の王族から嫌われていて、今その王族たちは僕に恭順の意を示している。特にコモドさんが王になってからは不満が募りトランジに移動したりと権勢を振るえない感じで分散し、王族だぞ! みたいなのも今となっては完全に無くなったに等しくなっていた。
王族の厚遇をと言う陳情もあったし今も偶に直訴してきたりもするけど僕は能力があれば誰であれ起用し厚遇すると布告も出してると告げてお帰り頂いている。これに関してはイザナさんが今後直接国のトップにアポも取らずに上司やそれに類する者も通さなずに来る行為に対しては罰則を設けると布告を出した。
納得いかないという話を聞いて居たらそれだけで日が暮れるし、納得いかないなら自分で自分を変えるしか無いと思う元引き籠りの経験上。幸いまだこの世界はかなり自由な方で軍関係者や教徒でなければ自由に行き来出来る。
「で、要求は何かな」
「要求……」
ミズリュウの一族との内通者でブリッヂス在住の女性トクさんは何処かぼんやりした人物だった。見た目も薄いベージュを基調とした柄のワンピースにサンダルと派手では無く、髪型も腰位まであるロングのストレートヘア。
肌も蜥蜴族の標準と変わらないしそばかすの辺りに進化の名残があるのも変わらない。だからこそ誰の目も気にせず相手も気にしないから彼が内通してる等思いもしなかったのだろう。話によればブリッヂスの内情はつぶさに伝わっていると言う。
僕の問いに首を傾げているので僕も首を傾げてしまった。この人雰囲気やその他諸々ぼんやりとした人ではあるけど中身までそうだとは思えない。ブリッヂス王権勢下だけでなく名乗り出るまでずっと内通していたんだし。
名乗り出たとなれば要求がありこちらに与するつもりがあると思っているんだけど……こちらに条件を提示しろって話かな。
「貴女も見ての通り今ブリッヂスは種族が入り乱れて居るし何だったら蜥蜴族も敵対者同士が混じっている。思考する動物が入り乱れてるから色々行き違いはあるだろうし、それに関してこじれたのなら裁決を下す機関も設けた。僕としては帰順して頂けるなら住居の建設もしたいと思ってるんだけどどうかな」
トクさんは右に傾けた頭を今度は左に傾ける。何か違うのかなこれは。他に思いつくところと言えば……ブリッヂス王の謝罪かな。
「元ブリッヂス王に対して謝罪なりが必要であるならそれに関しては話してみるけど」
その言葉を聞いて漸く頭を通常の位置に戻してくれた。プライドの高い蜥蜴族が一度拗れたのであればその原因を正すしかないのかな。
「冗談ではない!」
「ミズリュウ殿、お控えを。閣下の御前です」
テーブルを叩きながら立ち上がり声を荒げたミズリュウをテグーさんが窘める。怒りで手が震えながらも目を瞑り着席した。それを見てトクさんはにこりと微笑む。怖いなぁ根が深すぎるよ。
「ただ申し訳ないけど貴女がたの要求をすべて飲むつもりは無い。そちらが条件を提示せずにこちらとも交流を絶つのであれば残念ながら戦う他無いのだが」
ミズオの言葉に再度トクさんは首を傾げる。振出しに戻ったな。要求としては拗れた元である王族からの謝罪が先ず第一で、それ以外特に無いって見た方が良いだろうな。僕の統治者として仕事などに期待を持って来てくれた訳だし。
「トクさん、僕としては貴女の内通する相手の一族の辛さが想像でしか理解出来ないけど、それに対して出来る限りさせて貰うつもりです。それが僕の方針です。是非お相手の方に伝えて頂きたいのですが宜しいですか?」
僕の言葉にトクさんは微笑んで頷く。どうやら納得いってくれたらしい。ただミズリュウとミズオの発言が影響しないか心配ではある。トクさんを見送った後イザナさんからミズリュウとミズオは今後暫く重要な席に同席させないと言われて二人は凹んでいた。
「一旦そこは保留として後はゴブリンやコボルドですな」
「この近辺で生息しているとなるとその生態も気になるね。どうやって何を食べて生きて来たのか」
「ゴブリンが人の都合に合わせるとは思えませんね」
「蜥蜴族ならあるいは」
テグーさんの言葉に皆押し黙る。ゴブリンやコボルドを手懐けられたとしてどうなるのか。ゴブリンに関しては以前イスルで戦った時、人と相容れる者ではないと確信に近いものを持ったけどそうでない可能性もあるのか?
「予断を許さんのは間違いない。本能のまま生き誰構わず襲い掛かり犯して喰うのがゴブリンだ。甘い期待を寄せるのなとは言わんが足元を常に確かめろ?」
イザナさんの言葉に皆頷く。今までのどの兵より不気味なミズリュウの一族そしてトクさんの存在。トクさんにこちらの意向は伝えたので後は返事待ちとなり、それ以降は南蜥蜴兵は南側の橋の建設工事に取り掛かる。
シブイさんたち建築チームがミズリュウたちに指示を出してルートを決める調査を始めた。底なし沼では無いのは間違いないから杭を立てやすいけど、グロイアスアリゲータの生態も大事にしたい。特に人を好んで襲ったりはしないので共存出来るなら共存したい。
「一応直線が理想ではありますが、グロイアスアリゲータの寄り合い所というかそう言うのが丁度ぶつかりまして……中々長い工事になりそうです」
直線が一番早く工事が終わり少ない資材で完了するんだけどどうやら無理そうだと判明し、早速迂回したルートを作成。少しずつ杭を立てて橋を作りしながら進んでいく方針になった。但し杭を打ってみないと正確な深さが分からないので、想像以上に深かった場合は更に曲げなければならない。
時間が掛かると判明し早速資材を作りつつ建設に取り掛かった。暫くすると例の中間地点の建設が形になって来たと聞いて見学に向かう。沼地側に壁を作りグロイアスアリゲータの侵入を防ぎつつギリギリまで家を作っていた。
そう多くない戸数だけど何れは拡充しエルフの村とブリッヂスを繋ぐ感じにしたいなと思っているので、一旦区切りとしてここに住居希望者を募ろうかと思う。
「そう言えば例の提案はどうっスか?」
イトルスに聞かれ陛下からの答えを伝える。それを聞いてイトルスは早速首都に飛び交渉に動いた。シブイさんやイザナさんからくれぐれも問題を起こさない様に念押しされて。
「棲み分けが出来るだけでも大分落ち着くんじゃないですかね首都も」
「であろうな。乱を起こすかもしれない相手を腹に抱えてはな」
「こっちで受け入れれば双方に利になりますし、こちらは誰かが動けば他も動いて違う者たちに叩き潰されるっていう良い緊張関係に入る訳ですから問題ありませんな」
シブイさんの嫌味に皆苦笑いする。うちは色んな事情が入り組んでいて逆に反乱を起こせないし僕と言う一点で結びついている状況だから、皆互いに気を使いながら生きているマンション住まいに似ている。
違いがあるとすれば行き過ぎた勝手は処分されるというところくらいだ。裁決機関による申請して来た揉め事に関する報告資料があるけどゴミ出しとか音の問題とか元の世界と似たような問題が出て来ていて、ここファンタジー世界じゃないのか? と思ったりもする。
まぁ狭いところで意志を持つ者たちが集まればそれだけ問題は起こるよなぁ。世知辛い……。
「兎に角受け入れを含めて申請者のチェックも始まるので上はそちらに頭を切り替えてくれ」
「人が居ないと仕事に境界もありませんな」
「越権がどうのと言うのは恵まれたところの話だ。俺たちには望むべくもない。テグー、ミズリュウたちの作業の進捗状況を見て随時報告を」
こうしてエルフの里とブリッヂスに中間地点の入居者募集の張り紙が出されると、作業などで来ていた冒険者たちも応募して来てくれ大盛況で嬉しい悲鳴を上げる。




