修行の終わり
続く二日目三日目も同じような鍛錬が続く。こちらがギルド長の呼吸が分かってきたように、ギルド長もこちらの呼吸が分かってきたのでずらされすかされる。攻め手のパターンが増えているような気にさえなった。
「そりゃそうだわな」
「ですよねぇ」
干し肉を齧りながらギルド長と焚き火を囲み、お湯を沸かしつつ疑問をぶつけて見た。
「簡単に言うならお前に合わせてキチンと対策した、成長したから適当に出来ないっていう話で」
「はい」
「実戦ならそんな暇なくやられている。鍛錬は出来ればした方が良い。相手に勝る為にあらゆる手段を習得し蓄積させれば、それ以外でやられた時不慮の事故と諦めも付く」
「まだ会ってそんな時間経ってないですけど、ギルド長に似合わない感じの言葉ですね」
「そうか? この年になると全盛期と違ってありあまるパワーもない。だけれど名声だけは無駄にあるから刺客も来るしなぁ。のんびり余生とはいかんから鍛錬を怠らないんじゃ」
「ギルド長みたいな凄く強い人でもずっと終わらないんですね」
「生きている限りは誰でもそういう物を持っている。それこそ苦悩も人其々尽きたりはしない。じゃがな、ワシの師匠は良い話をしてくれた。そういう億劫な時こそ空を見ろ、と」
「空、ですか」
「そうじゃ。この広大な空に比べたらワシらは小さいもんじゃ。自らを律し心を空に溶かしてみれば小ささも気にならん。人を悪戯に殺めたり騙したり犯したり心を暗くすれば空の雄大さにさえ気付くまい」
そう言えば僕もこうして空を見ているけど、引き籠もって鬱々としてた時は空なんて見てなかったなぁ。
「心を空に預け、あるがまま流れるまま身を任せる。どうにもならなかったり混乱したり考えすぎたりしている時は、そうしてみると得るものがあろう」
確かにどうにもならない時とか考えすぎたり混乱したりしてドツボに陥ってる。そこまで行ったら一旦頭を空にして流れに身を任せてみると、打開できるかもしれないなぁ。
「さぁ腹が膨れたら軽くもう一度流し鍛錬をした後、体を良く伸ばして就寝じゃ」
「はい!」
更に四日目五日目と過ぎて行く。夜に話を聞いたお陰か、頭がクリアになって段々ギルド長に投げられるまで時間が掛かる様になってきた。そして六日目
「おっ!?」
ギルド長が体を寄せた僕を投げようと腰を掴みに来た手を取り、体を横に向けて取った手を下に引き回転させた。勿論流れでやった為上手く投げられなくて、ギルド長が頭から落ちそうだったので危ないと感じ直ぐ手を離したけど、ギルド長は体を倒れながら回転させ逆に僕を投げた。
「こらこら手加減をしろと誰が言ったか」
「手加減じゃ有りません。あんなめちゃくちゃな投げだし怪我したら困ります。何か掴めそうなので」
そう正直に言うとギルド長は口を大きく開けて笑った。
「なるほどなまだ鍛錬したいから怪我してもらったら困ると」
「いいえそんな……ことあります、はい」
ギルド長は収まった筈の笑いが再びこみ上げてきたのかまた豪快に笑う。後もう少しで何かつかめそうなのは事実だ。何か体の中に引っ掛かってる。それが取れれば力を出せる気がするんだ。どんな力かは分からないけど。
「良かろう。気が済むまで付き合ってやる」
「お願いします!」
と気合を入れたは良いものの、ギルド長は完全に本気モードになり捌けもせず仕舞いには後ろに下がってしまって六日目七日目が過ぎて行く。
「ギルド長!」
八日目の朝、テントに誰かの声が届き瞬時に寝袋から出て体を起こして警戒する。
「安心せよギルドの使いじゃろ」
隣で寝袋に包まっているギルド長も目を開き、寝袋から出てきた。
「粗方準備は整いました。予算も成立し講習も始められます」
「随分と時間が掛かったの」
「ええまぁ。ヴァンパイアは初めての案件でしたので。例の傷を負った我が兵士が助かったものの、その裂傷の為兵士を引退せざるを得なくなったのが効いたようで……」
リュクスさんとは違った金髪のイケメンが苦い顔をしてギルド長に告げる。鎧は着てなくシックなストールを肩に掛け御洒落で高そうなスラックスとシャツに身を包んでいた。
「そうか、なら鍛錬はここで一区切りと行こう」
「はい」
「博士のお言葉通りなら相手は傷が癒え近日中に襲撃が始まるだろう、と」
「じゃろうな。もう直ぐ山の動物も砂漠の者たちも寒さに凍える時期。こそこそやるならまだしもそれらを利用したいなら今じゃろうな」
「我々にとっても出来れば今のうちにケリを付けたいですね。冬はまた別のが暴れだしますから」
二人は厳しい顔をして上を見る。何が来るのか分からないけど、僕の居た世界と違って人間が他の動物を恐れているのは分かる。




