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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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ブリッヂス復旧の日々

「いやいや冗談ス」

「冗談スじゃないが」


 相変わらず人を食ったような態度のイトルスだったけど、何処か苛立ちを隠せない感じがその動きやしぐさから見え隠れする。何に苛立っているのだろうか。自分の手柄の少なさか僕の指揮能力の低さか。


「ちょっと外で話そう。ここはあまり落ち着く様な場所じゃ無いし」


 僕がそう促すとイトルスは頷いたので席を立ち移動する。シブイさんには近くにあった毛布を掛けて僕らは砦から出る。町の中も二十四時間体制で復旧をしていて眠らない町みたくなっていた。ブリッヂスは例の海竜戦やつい最近の戦いを教訓に木材を運んでくるのではなく近くの木を切り倒し利用している。


蜥蜴族には自然信仰は無いので皆遠慮なく木を切り倒し作業していた。大分川からこちらまで見通しが良くなり、敵なりモンスターなりが来れば分かるようになって安心だ。ブリッヂス王は兵を率いる将としては凄いと思うけど、見た目通り防衛戦は苦手なようでブリッヂスの守りの部分はスッカスカに等しい。


それを分かっていたからこそあれだけスムーズに首都に入れた。僕としてももう少しブリッヂスに注視すべきだったと反省する部分で、それもあって伐採を近くから間隔を開けつつして貰っている。先ずは見通しを確保しつつ復旧し、出来れば堀なども作りたい。


「閣下、先日の戦いはすみませんでした」


 人気のない場所にあった切り株に腰掛けるとイトルスがそう言って来た。あの戦いは全てにおいてミズリュウが上回っていただけの話だ。こちらの陣営は付き合いがまだ浅く若いし出来立ての軍だからあれが精一杯。相手もそれを見越しての進軍だと思っていると告げると肩を竦めて溜息を吐く。


「普段あれだけ軽口を叩いておきながら結局閣下頼りで情けない限りっス」

「竜が出て来たのだから仕方ない。正直デュロスがあっさりと引いてくれたのも良かったし、反乱蜥蜴族と竜騎士団(セフィロト )が同士討ちを始めた幸運もあった。あれが無ければブリッヂス王の指揮と竜騎士団(セフィロト )の統率の取れた動きの波状攻撃でブリッヂスは陥落してたんじゃないかな。まぁ何はともあれ運が良かったんだよ皆のね」


「エルフの里方面も結局はハイアントスパイダーたちやミツバチ族がルナさんの要請に応じて救援に駆け付けてくれたからこそ立て直せましたし、イザナさんも後手後手で自分もミズオも慌てて上手く動けませんでした。それなのに終われば閣下が責任を取る為に首都に行かれたと聞き」


 項垂れるイトルスを見て微笑ましい気持ちになる。僕の重臣としてしっかりと状況を見て客観的に反省出来てるだけでも素晴らしい。責任を取るのは上司の役目だしほぼ半ば自暴自棄だったから褒められたものじゃないよと告げると


「それでもですよ。僕らは閣下に対して取っていた態度に見合わない仕事しか出来ませんでした。それを謝罪したかった」

「おいおい止めてくれよ明日から急に畏まられても気味が悪い」


 茶化して笑わせようとしても空笑いするだけで大分落ち込んでいるようだ。司令官の感情が下にも伝染してしまうというのは何かの本で見た覚えがある。なるべく出さない様にしてたつもりだけどやっぱりイトルスみたいに表に出てたのかもしれないなぁ……反省点だし勉強になる。


「それについては俺からも謝罪したい」

「……何ですか急に。明日は雪でも振るんですか?」


 スラックスのポケットに手を突っ込みながらイザナさんが町の方から現れ、僕とイトルスの近くの切り株に腰掛けた。


「言い訳をするのも嫌だが自戒を込めて言う。直接指揮をし蜥蜴族と戦うのも初めてだった上にミズリュウの覚悟を見誤り、更にこれだけ多民族が集まり良い勢い流れで居るからそのまま押し切れると何処かで思っていた部分もあった」

「それは皆同じです。良い流れで来たからこそそこを突かれてしまった。だけどそれは狙って突かれたものではないですし、ミズリュウの運が良くてあちらに都合良く嚙み合った結果だと思います。そこから挽回出来たのが大事じゃないですかね。結局少ない死傷者で済んだ訳ですから次に繋げましょう」


 ソウビ王に言われた言葉を今回の件に当てはめて早速使ってみた。完璧なんて無理だし初陣で失敗をリカバリー出来て結果勝てたのだから、ダメな部分は修正して次回に繋げるしかないと今は思うしそれを支えてくれる人たちが居る訳だから頑張らないといけない。


 指揮を執るものとしてどんな状況であれ最後の一人まで付いて来てくれる人がいる限り、勝つ為に戦わなければならない責任があると告げるとイザナさんは改めて頷く。


「人は誰かに話すと頭の中と心が整理出来ると言うが本当だな。一人で居るのも良いが成長に関してはこの方が早い」

「確かにそうっスね。御蔭様でちょっとだけスッキリしました」


「そりゃ良かった。まだまだ完全にスッキリしてのんびり過ごすには時間が掛かりそうだからね」

「ブリッヂス王とミズリュウか」


 ブリッヂス王にもう反乱を起こす気はないけどミズリュウはそうじゃない感じがしている。素直に軍門に降る振りをして逃亡する可能性が今のままでは大きいので、個人的には時間を掛けて話して行くしかないと思っていた。出来ればどんな形でも良いから味方として加わって欲しいと望んでいる人材だから。


「難しい話だな。だが突破口はある」

「ブリッヂス王による説得ですね」


 そう、ブリッヂス王が言うのが一番確実ではある。だけど自分と共に汚名を着てくれた男に対して敵に降れとは言えないし、命を賭けて拳を交えた相手に言わせてはいけないと思ったので僕は御願いはしない。そして今完治していないブリッヂス王にも会わせない。後遺症で以前と変わらない状態は無理だとしても、それに近い状態に戻せたら会わせたいと考えていた。


「俺たちはお前の考えを尊重する。作戦としては上手くないがな」

「まぁ僕らが上手く生きれたらこんなところに居ませんし、それで良いんじゃないっスかね」


 イトルスの言葉に僕もイザナさんも声を上げて笑い、イトルスも笑う。種族も信じるものも違う者たちの寄り合い所帯になっても何とか上手くやってこれた。焦らずに不器用なりに出来る方法でやって行くのが僕ららしい。


それから僕らは少し雑談をした後で砦に戻る。勿論イトルスは目覚めたシブイさんに怒られ逃げる様に偵察任務に戻る。イザナさんからも相手は特に動きも無いと報告を受けたので、僕が話の出来る状態になるのを待っていたようだ。


 復旧の序に改装もしつつ更には中間地点の住居地区の建設もチェックしながら日々は過ぎて行く。首都からは新たに都市ブリッヂスの北に渡河計画を練るよう言われそれもこなす。職務に忙殺されながら過ごしていたある日の午後。ブリッヂス王が面会を求めたいと言っていると聞いて時間を作り会いに行く。


戦いの直後に比べ大分顔色も良くなり後遺症は直らないものの少しずつ改善しているようだった。


「久しいな」

「御無沙汰してすみません。どうもやる仕事が多くて」


 何処かゆったりした構えのブリッヂス王は貫禄が凄くて王様ってこういう感じだなと思うほどだ。傍から見れば年を考えても王様と下っ端に見えるだろうなと思いながら椅子を持って来てブリッヂス王の居るベッドの近くに座った。


「だろうな。オレはこの都市に何もしていない。本来ならすべきだったと今は思うがあの当時はそんな頭も無かった。人間の国が大きく成長するのに焦りエルフの里が崩せると聞き、迷いながらも野心に身を中途半端に任せてしまった。今思えば酷いものだ」

「王様としてのジレンマもあったでしょうから、自分も同じ立場なら同じようになっていたかもしれません」


「まさか」


 自嘲気味にブリッヂス王は小さく笑う。難しい判断だったのは人間側の僕から見ても分かる。ソウビ王はエルフの里が崩れるなら抑えブリッヂスをもゆくゆくは抑えようとしていたのは誰が見ても明らかだ。それでもなるべくエルフの里はエルフの里のままになるよう協力を要請したのも事実。


カイテンはカイビャクとのいざこざも抱えていたから南を攻める気は無かった。ブリッヂス王からすれば目の上のたんこぶだったエルフが上手く崩れて取れれば儲けしかない。ただ動けばカイテンとは対立するのは分かっていた。国を抱えながらそれが出来るか人間族の国が今どれほどが分からない中で攻めるのは勇気が要るけど攻めなければジリ貧だ。


色んなしがらみがありつつもギリギリまで踏ん張って見極めようとした。僕と言う計算外が無ければ上手く行ったかもしれない。

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