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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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イザナさんと朝の視察と

「しっかしあの人役に立ちそうですか? 何か見た目チャラいんすけど」

「言動で言えばお前もチャラいのだが同類じゃないのか?」


「嫌ですよあんなのと同類なんて。見て下さいよ僕の見た目の清廉さを」

「清廉と言うか垢ぬけないだけだ」


 それからどう言うのが垢ぬけてるのかと言う話になりシブイさんの独特なセンスがそうなのかと問うと本人は自分らしさだと言うし、結局誰一人として都会らしいファッションとかおしゃれが全く分から無いので不毛だと言う結論に至った。


「しかし閣下、これで戦力がまた一つ増強されましたな」

「そうだね。エルフの里からも若い人材を首脳部に入れるから人は多いほど良い」


「ほ、本日付で閣下の御側に侍りまっすイルヴァです。よ、宜しくお願いしぁす!」


 さっきから何とか会話に入ろうと機会を窺いつつ真面目に仕事をしつつ頷きつつと大変な感じになっていた若いエルフのイルヴァ君。若いって僕と同い年なんで言い方が変だけどうちは平均年齢が高いからつい若いと言ってしまう。


ちなみに自己紹介はもう何度もされていたけどそれくらい緊張しているのだと皆理解している。僕も一回だけやったバイトの初日を思い出しその度に胃が痛くなるけど、イルヴァが慣れるよう彼の心情を理解し笑顔で終わるまで聞いていた。


「落ち着けイルヴァ。閣下の寝首を掻こうとするならそれではダメだ」

「何ていう酷い濡れ衣を着せようとするのですかシブイ様! 酷すぎる!」


 椅子から立ち上がり半泣きで抗議するイルヴァ君。面接に来ていた人物たちがあまりにも強烈で普通に真面目に受け答えし熱い思いを語ってくれた彼が印象に残り過ぎて採用した。他の個性豊かな人たちも数人採用したけど色々任せられるのは今彼が一番かなと言う意見で一致したから会議所で事務作業を一緒にさせて研修してもらっている。


「冗談に決まってるだろイルヴァ君さぁ君如きが閣下の寝首を掻けるなら僕がやってんだよとっくに」

「な、何ていう……謀反を口にするなんて冗談にしては酷すぎますよイトルス様!」


「冗談ではないイルヴァ。この御仁ならやる」

「ミズオ様まで……閣下の重臣はその気概が無いといけないのですか!?」


 皆が真面目な顔で頷くので僕が慌てて冗談はやめてくれと言うとイルヴァ君は疲れ果てた顔で椅子に座り直した。冗談じゃないのが怖いところだけどねイトルスの場合。


「イルヴァ君は仕事はどうかな? 何か困った問題は無いだろうか」

「いえ御座いません。こう言っては何ですがエルフからこれを取ったら今のところ何も残りませんから……治水も人間族の皆さんにして貰っているし医療も保育もお世話になるばかり。エルフでもこんな状態でよくも自分たちこそが至高などと言えたなと呆れる声が出ております……」


 仕事に戻ると復活するのかキリッとした表情で答えたものの、最後はまた暗い表情になってしまうイルヴァ君。リアクションデカイけど結構打たれ強いところが凄いなぁと感心している。それに彼は珍しく人間族だとか蜥蜴族だとかで人を判断しない人物だったのも登用した理由の一つだ。


「フン、辛気臭いな」


 ご満悦なイサナさんが入って来て入り口の壁にもたれ掛かりながら腕を組みつつ声を掛けて来た。


「あれ、もう良いんですか?」

「飽きた」


 ご満悦な表情で飽きたって言われてもなぁ。今日の所はってのが付きそうだけど。


「で、お前たちは何をしてるんだ?」

「見ての通り事務作業ですよ聖人様」


 シブイさんの言葉に対して鼻で笑いながら近付いて置いてあった紙の束を手に取りサッと読んで戻した。


「提案書意見書に案件、契約書と出生届と納出庫確認書か。エルフの知恵では無いなこれは」

「元々荒れてましたからね今はしっかり管理してるんです。その方が分かり易いでしょ? 何となくじゃなくて」


「そうだな人間族の進化は凄いな。エルフも開けた世界で揉まれていればと思わんでも無いがその御蔭で読解力や書記、計算力が高くなった。互いに刺激し合いより良いものになれば良るよう願う」

「効率が悪いとは言わないんですか?」


「作業ややり方に関して効率が悪い点は指摘したが、お前たちの方が優れている部分もある。俺は一旦世捨て人となった身だから改めて今を勉強しつつ、お前たちを助けよう」

「具体的には何を?」


 そう問われるとイザナさんはポッケから折りたたまれた紙を取り出し書類の上に広げた。そこには細かくマッピングされていて更にブリッヂス王が居る辺りまで調べられている。そしてイザナさんは最小限の被害であの恐竜染みた男を倒すと宣言した。


ブリッヂス王が閉じこもって居る首都ブリッヂスの南にある地帯は沼地が所々在り、その沼にはグロイアスアリゲータという胴体よりもデカイ口を持つ生き物が生息しているので迂闊に攻めれば犠牲が増えるようだ。


王はそれを当然事前に知っていてその方面に逃走したらしく余裕で英気を養っていると言う。ミズオは目を真っ赤にし瞳孔を開いて怒りを露わにした。


「俺はこの辺り一帯の知識は当然あるし何処に穴があるかも知っている。それを用いて胡坐を掻いているブリッヂスの猛獣を生け捕りにしてやる算段だ」


 自信満々なイザナさんに対して僕らは黙り込む。武勇を頼りにブリッヂスを統治して来た男と言われてはいるけど僕は今回の逃げ足からして決してそれだけの男では無いと思っている。それを生け捕りなんて都合良く行くとは思えない。


「どうやら信じられんようだが今はそれで良い。だが何れは奴をどうにかせねばこの地域の安定は無いのは間違いなかろう? それにあの男がすんなり明け渡して大人しくしているとも思えんからその時が来たら披露しよう。それとすまんが俺の寝床は何処かな」

「あ、すいませんこちらにどうぞ!」


 イルヴァがいち早く立ち上がり案内するべく先に会議所を出てイザナさんがその後に続く。要人が来た場合に宿泊してもらう施設は予め決めてあるのをイルヴァはしっかり覚えていたようだ。


「予習がしっかりできてますな。これから先が楽しみだ」

「一方未知数の御仁は如何なさいますか?」


「何の根拠も無く生け捕りにすると言ってる訳じゃ無いしね。それにこの地域にずっと住んでいた知識や経験は役に立つ。蜥蜴族にもアドバイスしてたんだし」


 まだ来たばかりだから本人も言ってたように今を学びつつ合わせてその実力を見せてくれるんだろうなと期待している。それから少ししてイルヴァが戻って来たので皆でワイワイ会話しつつ書類を整理したりしてその日は終了する。


翌朝寝床を抜け出し朝靄が掛かる中を治水の確認と鍛錬を兼ねて散歩に出掛けた。治水事業には兵士のみならず冒険者も雇用しており雇用をねん出しようしていた国としても願ったりな状況だった。更に襲撃された川岸の村の宿泊施設を利用してもらっているので川岸の村の人たちも潤いこの近辺は賑わいを見せている。


事業の進みが早いのも人数と資金が掛けられるからこそだ。でなければこんなに早く進む筈が無い。重機も無い魔法や魔術(ミシュッドガルド )も無い世界でこれだけ順調なのだから人の力の凄さを感じる。


「総大将が寝床をこっそり抜け出すなどあまり褒められた行動では無いな」

 

 前方で腰に手を当てて立っているシルエットが見えて何となくイザナさんだと思ったけど当たった。立ち姿からして主張が凄いなぁ存在感あるわ。


「朝から視察ご苦労様です」

「嫌味か?」


 二人で連れ立って治水事業の成果を見ながら歩く。最初の方は綺麗な掘方をしていたけど段々と荒くなっていく。これはある程度仕方のない状況だ。ワンダーマッシュも近くに居て警護されつつの作業になるので完全に安全とも言い難い。


「良い良い。綺麗にしたいのであれば後の世に任せろ。こんなところに無駄な労力を割くほど暇ではないし綺麗に掘ったところで自然の水が相手。無駄になる可能性の方が高かろう」


 天候も流れも完全には読み切れては居ないし人の都合で川を作るのだから粗削りなのも仕方ない。微調整などを加えて行くのを前提として考えている。

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