足りないパーツ
ブラヴィシの真の目的が何かが分からない、か。確かにその行動は無軌道のように見え今生神を演じているのもただの暇つぶしなのかもしれない。ただそれだけなら僕がここに来る必要は無い筈で。星の意思に会う為にこの星のデラウン近くの砂漠に降り立ったのだから、やはり竜神教と関係があるのは間違いない。
ラティは今頃何をしてるんだろうか。星でも見ながらのんびり御茶でも飲んでいると良いんだけど。竜神教に居る以上は安全だとは思うけど一日も早く取り戻す為にここで功績を積んでいる。
「以前人間族の町を襲撃したと言う報告を受けましたがどうやら想像以上に竜神教がこの辺りにも染み出しできたようですね。あれらの土地から出ないで人間族の繁殖に勤しむのだと考えていましたが」
恐らく狙いはギルドそのものだろう。ギルドの本体はあくまでカイテンでありソウビ王だ。使い勝手が良いから取り入れたんだろうし、なんならそれを丸ごと欲しいと思っても不思議じゃない。ただ狙いが便利なだけなんだろうか。ジョウロウ様の話から想像するブラヴィシという人物が便利というだけでカイテンとカイビャクの関係を悪化させるとも思えない。
「竜に知り合いでも居れば良いのですが生憎とブラヴィシ以外敵にも味方にも居りませんので」
そう言われて世界樹のところで会った竜を思い出す。それをジョウロウ様に話すと残念だと言った。どうやらその時には既に竜神教によって隔離されていたようで知らなかったらしい。知って居たらブラヴィシの件について文句を言いたかったと。僕がブラヴィシの話をした、正確には竜神教のだけどそれを伝えると満足そうに頷く。
「出来れば竜同士睨み合い殺し合ってくれたら最高なんですけどそんな奇跡に期待するより妾たちで出来る手段を増やしていくのが一番でしょうね」
「そうですね……こうやって竜神教はこっちにまで手を出して来ましたから」
「誰が旗印になるにせよもう竜神教との戦いは避けられない。妾も覚悟を決めました。さ、陽が暮れないうちに参りましょう」
意味深な言い方をしてジョウロウ様は再び歩き出す。蜥蜴族を唆しハイアントスパイダーも捕らえた。意思疎通が出来る出来ないは関係無く捕獲し始めている。無差別に攻撃を仕掛け状況を混沌へと導いているのがとても気になるけど今はジョウロウ様の言う通り出来る手段を増やすのが先決だと思った。
暫く森を進むとやがて木が他と比べて少なくなっているエリアに辿り着く。近付いてみると木の上に簡素な小屋がずらりと並んでいるのが見えた。
「急ごしらえですが何とか住まいのようなものは出来ました。スズメバチ族を捕獲する罠も復旧させて彼らが攻めて来ても撃退する用意も整っています」
ジョウロウさんは森の奥を指さすとそこにはクモの巣がありスズメバチ族が引っ掛かっていた。早速この辺りを調査しているとは。
「この動きからしてそう遠くない内にミツバチ族を襲撃するかもしれません。如何致しますか?」
そう問われて僕は考える。ハイアントスパイダーの女王であるジョウロウ様とは意思疎通が出来るから安心してるけど数が足りない。元々ハイアントスパイダーとクロックベアとでスズメバチ族を抑え込むと言うか拮抗状態になっていた。
ミツバチ族も弱くは無いけどスズメバチ族には敵わない。となるとハイアントスパイダーだけが頼りなんだけど戻って来て間もない。頑張って整備してくれたのは分かるし凄いけど完全ではない。となると結論は一つだ。
「ミツバチ族の方の警護をお願い出来ますか? 一刻も早くクロックベアを開放出来るよう頑張ってきます」
「心得ました康久様それにミコト様もどうか御無事で。是非状況が落ち着いた暁には改めて交流を深めましょう」
ジョウロウ様と握手を交わし僕らは一度ミツバチ族の村へと戻る。陽が傾いて来たので僕らが危なくないようにとハイアントスパイダー二匹の背中に乗って移動する。ジョウロウ様は特別な存在らしく他のハイアントスパイダーは人型には成れないようだ。
「じゃあ勇者殿、あっしらはこれで!」
「警護の者は追々参りますので!」
元気に右前足を上げて手を振るハイアントスパイダー二匹。立てれば僕らより少し小さい位の背丈だけど中々パワーもありそうだ。僕らも感謝を述べつつ見えなくなるまで手を振り見送る。早速ミツバ様に報告すると目を潤ませながら感謝された。
ただこれで完全に安心ではなくやはりクロックベア救出が必要だと伝えると是非お願いしますと頼まれその間頑張って耐えてくれるようこちらも頼んだ。作戦の決行は明日の朝。ミツバチ族の兵士にソウビ様宛とジョウ将軍宛、それにエルフの里宛の手紙を渡し朝届けるようお願いする。
「いやぁ大変ですなぁ康久様は!」
皆とハイアントスパイダーの村についてと明日の作戦について話すべくテントに入ると何食わぬ顔をして僕らのテントの中に居るウザい生き物であるイトルス君。まだ体に糸が巻き付いていたので仕方なしに嫌々だけど但州国光月花で切り口を入れる。とても嬉しそうな顔をして藻掻きだし暫くして糸が取れると外へ出てストレッチを始めたのでテントの入り口を固く締める。
「良いの? あれ」
「仕方ないよ鬱陶しいもん」
「あー、ね」
ルナは納得して食事の配膳を皆と一緒に始める。僕はと言えば書類が山積みになっていたので急いで目を通す。華さんとアルミがある程度分けて分かり易くしてくれなかったら地獄だなこれは。更に言えばシブイさんもある程度必要最低限に減らしてくれているからこの程度何だなと思いつつ溜息を吐いて処理を始める。
「ほうほう成程。相変わらず大変ですなぁ康久様は」
何処から入り込んだのかイトルス君は僕の書類を横から覗き込み頷いた。ちなみに但州国光月花の柄頭は勿論イトルス君の顎に付けた。
「そう言う雑務を効率的に捌ける人材は如何ですか?」
それで黙るかと思いきや柄頭に顎を乗せながら喋るイトルス君。コイツ本当に良い根性してるよなぁこっちが絶対斬らないという謎の信頼を寄せて喋ってるんだから。僕が好ましく思うところは全く無いのに凄い自信である。
「雑務を効率的に捌くだけでなく気に入らない奴も裁きそうだからいらない」
「康久様の政敵を隅から隅まで消して差し上げますよ?」
ニヤニヤしながら喋るイトルス君が非常に鬱陶しいので柄頭でぐいと上に上げて退くように顎でやるとそのまま脇に座り出した。もっと普通の良い人材は居ないのかこの世界に。正しく人材難そのものだ。
王族の特権とやらでそういう人たちを搔き集めて僕の仕事をほぼ渡してやって貰いたいくらいだ。……なるほどだからカイテンの貴族は暢気に竜神教の乱がまた起きないかななんて寝言を言ってられるんだなと気付く。
人材も領地も早い者勝ちでもう満足な暮らしが出来るからこういう辺境の地にはこないんだなぁ。そのうち董卓の乱が起きるんじゃなかろうか僕は董卓になりたくないけど。
鬱陶しい人材押し売りを適当にあしらっていると御飯の時間になり皆で食事を頂く。イトルスが居るのであまり話したくは無かったけど明日の朝からクロックベア救出に出掛けると告げ話をする。
「そうなると康久様はデュロスと対面する訳ですな。これは楽しみだ」
「何が楽しみなのよ」
「いやだってデュロスと康久様は因縁がありますから、彼が康久様を見つければ腹を空かせた大型狼のように涎を振りまきながら突撃してくるでしょう」
嬉しそうに語るイトルスを殴りたくなったけど堪える。因縁て初めて会うはずなのに何で因縁出来なきゃならないんだ?
「おや分からないって顔してますね。仕方ないなぁ教えて差し上げましょう。彼はあの第十騎士団団長デュマス君の兄君なのですよ」
あーなるほどねオッケー理解把握最悪だ。アイツ自分の信心がどうとか言ってたけど縁故採用なんじゃないのか?
「因みにデュロス君は竜神教と弟が何よりも大事なんですよ?」
「康久がここに居るって知ってるの?」
「僕は義に厚い人間ですし同僚にも正直で親切な人だと評判ですから」
面白そうだから真っ先に伝えたと解釈する。こうなったらもう一度コイツを糸巻きして貰って餌にして釣るか。
「じゃあさ、アンタまたデュロス君に康久がこの先の所で待ってるって伝えて来てよ」
「嫌ですよもう裏切ったのバレてるし」
「あらそう。ならコイツもう用済みじゃない? 情報も取れないし」
ルナの言葉に頷き但州国光月花の柄に手を置く。
「待った待った! クロックベアのところまでどうやって行くんです!? 僕が居た方が便利ですよ!? ルナ様とミコト様には嘘つきません! 必ず護りきりますから!」
要するに僕には嘘つくって話だな宜しい斬る。
「お、落ち着いてください! ルナ様とミコト様を護衛する人間が居た方が良いんじゃないですか?」
「寧ろお前が先陣を切りなさいよ」
「あ、えぇ……」
何処も意外でも何でもない提案をルナにされてがっくりするイトルス。まぁ護衛より鉄砲玉の方が必要なので二択だなと言うと、覚悟を決めたのか了承し先陣をイトルスそれ以外はこないだと同じで決定する。
腹が決まったのか多少申し訳なさげに食べていたイトルスは偉そうにおかわりを何度も要求した。




