思惑の町を離れ帰宅
「テグーさん何か御用で?」
地上に出た僕らをテグーさんが部下を連れて待ち構えていた。相変わらず偉そうなのは生まれから来るものなのか元々の性質なのか。僕は苦笑いしながら問うと身を翻し歩き出した。仕方ないので付いて行くと、町の一角にある家の中にテグーさんは入り椅子に腰掛けた。
僕らは立って向き合い言葉を待つ。しかしこの状況でこの気概。テグーさんが最初から王だったら戦争になってただろうな。ある意味ブリッヂス王は蜥蜴族存続の為に正しい選択をしたのかもしれない。
「お前たちはミズオを捕えているようだが」
「あのー、貴女は自分の立場が分かっているのですか? 勇者様に対してその口の利きよう……お許しがあれば私が成り代わって切り伏せるところです」
「やってみるか? 非力なエルフ」
アルミの言葉に挑発で返すテグーさん。華さんは飛び掛かろうとするアルミを手を横に広げ制止すした。
「テグー殿、我々は征服者ではありませんので貴女がた蜥蜴族とは穏便に済ませようと努力しましたし康久殿もその御一人。カイテンの英雄にしてエルフの里の救世主であり今や王族の一員としてこの地に派遣されています。これ以上無礼があるなら四度唾を吐いたという事実と蜥蜴族が滅びる他無いという現実を思い知るのですが宜しいのか?」
アルミさんに変わって華さんは冷静に事実を淡々と述べる。普通一度でも唾を吐いたってそれで御仕舞なのに四度も吐かれて許したら対等な関係は永遠に成立しない。今ですら甘すぎると他から見れば思うだろう。ただそれだけ人材不足が深刻という話なんだよな実際。
「人間族がやれると?」
華さんが諭そうとしたけど今度はそれを僕が止めた。もう何を言ったところで意味が無い。エルフと同じくらい頑固で自尊心が高いのは理解した。だからここの統治もままならないのだと言う状態も。
この手の人には事実だとしても受け取る本人にとって否定寄りの諭し方であればしても全く無駄だ。自分は正しいけどお前は間違ってるの典型なので基本相手するだけ疲れる。
「で、ご用件は何でしょうか。仕事があるので帰らないと支障が出ますんで無いなら帰らせて頂きますが宜しいでしょうか?」
やんわりとなるべく馬鹿にしたようにならないようにしつつも子供に言い聞かせるように言ってみると、少しして空気が大分マシになった面倒臭い。
「……ミズオの件だが出来れば逃がして欲しいのだ」
何と言うか自分は今まで短気だと思っていたけど割と我慢強いのかもしれない。後ろでうちの子たちが怒りのオーラを出しているのを知りつつ僕は表情を崩さない。
「僕を殺しに来た相手を逃がせとおっしゃるのですか?」
「そうだ」
面白いなぁある意味凄い人物だこの人。まぁ自分の親の王が国民を置いて一目散に逃げた場所に居続けて更に上に立って指揮を取ろうとするくらいだから当然と言えば当然か。ジョウさんはそういう姿勢も蜥蜴族全体に嫌悪感を増すべく起用したのかもしれないと今思った。
「それは無理ですね。自分は王族の一員でもありますし南部地方指令補佐でもありますから」
「このような事態になったのだからミズオを捕えておいても意味はあるまい?」
話聞く心算も無いようだ。ジョウさんよくこの人と話してられるなぁと感心してしまうし胃に穴が開かないか心配になって来たよ。
「御話と御用向きはお伺い致しましたのでこれにて失礼させて頂きます」
笑顔で会釈しその場を後にする。何やら後ろで非難轟々だけど付き合いきれない。急いで町を出てから
「さぁ気分を変えて散歩を楽しみつつ帰ろう!」
「おー!」
カラ元気で盛り上げミコトもそれに付き合ってくれたものの、華さんとアルミはとてもイライラしているオーラをまき散らしながら歩く。分からんでも無いけどあの手合いを真面目に相手してたら一週間で絶命してしまうよって言いたいけど、二人とも僕を思ってそうしているのだから二人がなるべく気が軽くなる様に別の部分に気持ちを向けられるよう道に生えている花などを観察しつつ帰る。
ミコトも一緒になって盛り上げてくれて何とか帰る頃には二人ともいつも通りに戻ってくれた。三人に夕食の準備を頼んで僕は一度長老たちの家に向かいシブイさんたちにブリッヂスでの話を伝える。ここは情報本部でもあるのでしっかりと客観的にあるがままを伝える必要がある
「……おのれ蜥蜴め」
んだけどまぁアルミと同じ反応になるよなぁ。でもここをマイルドに伝えると嘘になって蜥蜴族が今誰がトップでどういう思想かを事前情報として持てないからダメだ。寧ろ情報本部なんだから冷静になって欲しいなぁこの人たちに。
「なるほどね中々骨が折れたようですな」
「気苦労が絶えないよ。今度はシブイさんに頼みたいくらいだ」
「殴り合いになっても宜しければ喜んでお引き受けいたしますよ」
笑顔で言うシブイさんに対して苦い顔をした後溜息を吐く。この人も長老たちより冷静だけど元は武闘派だからなぁ。それに僕を出しに楽しい経済圏を作るべく邁進してるから障害になりそうなら容赦なく潰しに行きそうで怖いところもある。
「気苦労を分かち合える人材が急募だ」
「奥方たち……も中々難しいようですね」
「そりゃそうだよ身内に目の前で唾吐かれてるんだから冷静で居られないだろ? ミコトも大分我慢してくれてたし」
「では閣下を餌に釣りをしている小生が一番の適役」
「冗談はその言葉だけに収めて欲しいね。いの一番に殴りに行きそうなのに」
「これは失敬。となるとやはり現地登用に関してそろそろ具体的に動いた方が良いかも知れませんな」
「そうなるね。南部地方指令補佐なんて仰々しい肩書まで付けられたんだから扱き使われるのは目に見えてる。個人的にはエルフの里にずっと腰を据えて復興とか諸々したいけど難しいかもしれない。シブイさんの副官としてって感じで一時採用を」
そう言うと僕の目の前に紙の束が置かれた。置いた主を見ると例のエルフの里で皆に人間族と交流をと言ってた長老だ。笑顔で待っているのでその紙の束を見るとどうやら人材のリストアップをしてくれていたらしい。
流石データマンのエルフだけあって戸籍もしっかりしていたし、得意不得意まで細かに記されている物が図書館にはずらりと保管されていた。で、今ここにあるのがこの束となると大分絞り込んだんだろう。
粛清とかもあって減りはしたものの、ここ数日新生児も生まれている。それに関してエルフのお医者さんだけでは間に合わずイリョウに早馬を出してお医者さんを招き仮の病院を高速で建てた。世界樹に如何に寄りかかっていたかが痛いほどわかると長老も言っていた。
「凄いねこれは。シブイさんは?」
「私はもう目を通しました。長老とは何時も細かい調整をしてますから自然と目ぼしい人たちには会ってますしおさらいって感じなんで早かったですよ。後は閣下のみ」
「へぇえっと。だから嫌なんだよあっち行けこっち来いってのはさ。落ち着かないんだ仕事も気持ちも……ってなにこれ」
よく見るとそれはほぼ女性ばかりだった。ちなみに女性の登用に関しては華さんとミコトに一任してあり男の目で見るよりも掛け値なしの能力で判断してくれると思ってそうしている。それを二人が知らない訳が無い当然ながら。
「何これとは」
「僕は女性士官の登用に関しては華さんとミコトに一任してるのは知ってると思うけど」
「当然」
「じゃあこれは?」
長老とても笑顔。僕は冒険者として野宿をしたりして生きて来たから料理だって洗濯だって水汲みだって自分でやるし、家事は分担してる。今はミコトたちもエルフの婦人会とかと交流したり病院の視察だったり物資手配書を作成したりと忙しいから家事を手伝ってくれる人って話なのか?
「血筋的にはとても高貴な言わばエルフの貴族ですな」
「それは凄いねエルフの血脈をしっかり受け継いでいるなんて」
「困った話ではありますが貰い手がありません」
「僕はエルフの結婚相談所を開く心算は無いんだけどやった方が良いの?」
僕の言葉に長老たちやシブイさんだけではなく外や中の警護の兵士にまで溜息を吐かれた何でだ。
「だから言ったでしょ? この朴念仁閣下にこんな回りくどいやり方は無駄だって」
「朴念仁とは失礼な」




