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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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エルフの里で忙しない人たち

里に着くと長老たちが土下座してお出迎えしてくれたので急いで駆け寄り立ち上がらせる。涙ながらに自分たちの不徳の致すところだと言う長老たちを慰めつつ御付きの子たちに家で休ませるよう指示を出す。


「如何なさいます? 閣下」


 泣き叫ぶか嫌味を言うかしかされない僕。閣下と言う言葉に対して過剰に反応するのも思う壺だと思ってスルーしエルフの里の代表たちと閣下と僕を呼んでくださるシブイさんと会議。僕としてはエルフ族の処遇に人間族の僕が過剰に口を出さない方が対等な付き合いが出来るんじゃないかと思うのでお任せしたいと言うと、また仰々しい感じで頭を下げられ心配りがどうとか言いながら涙を流し感謝された。


「蜥蜴族はどうします?」

「断固処断すべきです。エルフの里に夜分遅く断りもなく武器を携帯し近付きその上我らの恩人である勇者殿をエルフの者たちを唆して襲うなど決して許されるものではございません! 我らの責任でこ奴らと共に処分させて頂きたい!」


 食い気味に来た上に涙乾くの早いなぁおい。人間族と同じかそれ以下と考えているのかエルフの時と違い即刻処断と強い口調で言う。


「処分とは言うが今戦争を起こされてもエルフの体制が崩れたままでは敵うまいよ。となれば我々が矢面に立たなければならないのでそれは無理でしょうな」

「では如何に!? 勇者殿の御付きの方の発言とは思えぬお言葉! 国の宝であり英雄ではないのですか!? その方の命が狙われたとなれば例え最後の一人になっても相手を根絶やしにせんと向かわなくて何の義がありましょうや! 我らは勇者殿を護る為なら例え体制が崩れて居ようとも蜥蜴族共を一人残らず殲滅すべく戦います!」


 凄いな怒髪天を衝くって感じでびっくりー。エルフって沸点以外と低いのなぁ。それは置いても明確に敵意を露わにして攻撃して来たのなら対処はしなくちゃならない。首都への報告は絶対に欠かせないので迂闊には動けない。シブイさんに視線を向けると笑顔で頷いた。となると首都へは早馬で報告を出しているだろう。


問題はその後だな。ソウビ様の温情を無視してこの行動は滅ぼしてくれと言わんばかり。蜥蜴族は温厚で一度怒らせると不味いとは聞いたけど、ソウビ様も怒らせたらそれ以上に怖い気がするんだよなぁ。乗り込んだ時点でよく温情を掛けたし堪えたなって思ったからタダでは済まないだろう。こちらの出陣も考えに入れとかなきゃならない。


「今回の件は俺の独断だ」

「だとしたらブリッヂス王は部下の統率すら取れない王に値しない男だってなるけどそれで良いの?」


 僕がすかさず突っ込むと悔しそうに俯く。そんなの当たり前の話だ。戦争になるかもしれないのは子供でも分かる。それすら分からせられず口火を切るような行動を部下にさせた時点で無能の誹りは免れない。


「俺たちの首を斬ってブリッヂス王に送れ。お前たちにも情けがあるならそれで収めてくれ」

「馬鹿な」


 人の命を狙っておいてその相手の情けを問うとかどういう思考回路してるんだか。取り合えず夜も遅いし蜥蜴族やエルフの罪人たちは一人ひとり隔離して監視出来るような態勢を整えてテントに帰り就寝した。


「閣下、失礼します。首都から使者が参りました」


 寝床に就いて直ぐのような気がしたけど目を開けると外は明るかったので少しは寝れたようだ。体を起こして但州国光月花を手にしテントを出るとシブイさんの後ろにジョウさんが部下を連れて来ていた。まさか重臣の中の重臣であるジョウさんが来るとは。これは間違いなく戦争か?


「すまんな康久朝早くに起こして」

「いえとんでもございません。ジョウさんには遠路はるばるお越し頂いて恐縮です」


「私に敬語はいらん。ゴールド帯のランクで言えば上だが身分としてはお前の方が上だ」

「そう言う問題では御座いません。敬意を払う相手は分かる心算です」


 そう言うと豪快に笑う。そして会議に使っている家に案内し状況を報告させて貰う。


「ゴールド帯とは言え蜥蜴族とエルフの密偵を一人で切り伏せ且つ使者も出さんとはな。陛下もお喜びだったぞ?」

「別にそんな。偶々運が良かっただけですよ。相手も調子が悪く気負っていたのでしょう」


 僕の言葉に豪快に笑いながら頷くジョウさん。とても機嫌が良いみたいで正直ホッとしている。まだまだエルフの里の復興は始まったばかりだから何とかして戦は避けたい。あの王様からしてタダでやられる訳も無いだろうしソウビ王は二度も唾を吐かれたのだから許さないだろうから望み薄だけど。


「取り合えず今使者を立てて向こうに訪ねているところだ」

「それはまた……何と言うか」


「意外か? ソウビ王が怒り狂っていると?」

「いえそうじゃないんですけど、二度も唾を吐かれてますからね」


「まぁあの方の腹の内は分からんが今のところ冷静だ。が、三度吐くなら迷い無く一人残らず殲滅するだろう。私が来たのはまぁそう言う話だ」

「と、申しますと?」


「奴らは間違いなく唾を吐く。そして戦となるならお前と私で露払いをする。私は蜥蜴族を根絶やしにする心算は無いしあの方を一つの種族を根絶やしにした残虐な王にする訳にはいかない。その為にはソウビ王の溜飲を下げる程度に収めねばならん」

「でしたらこのミズオという蜥蜴族を」


「そんな木っ端の命など要らん。寧ろ生かしておく最後までな」


 側に連れて来られていたミズオは悔しそうに俯く。そう言う話ならこちらとしても最小限の犠牲で済ます為に全力を尽くすしかない。女性も子供も老人も無抵抗の人たちを斬るなんて誰もしたくない。それをしなければ禍根を残し恨みの連鎖が止まらないからと言うのは分かるけど、斬る方としては堪らない。


ミズオはこんな状況になるとは考えなかったのだろうか。何処かで友好国だから何とかなる、人間如きに遅れは取らないと踏んでいたのだろうか。冒険者ギルド制度を布き人間族の増強に努めて来た成果が今形になり精強となったのが分からないんだろうな。エルフもそうだったし。


「取り合えず使者には終わり次第こちらに来るよう伝えてあるので待たせて貰うぞ」

「心得ました。ではこちらの家をお使いください」


「お前はどうしてるんだ?」

「私は外でテント生活をしています」


 そう答えるとジョウさんは豪快に笑った後有難くお借りしよう大将格がうろついては邪魔だろうからなと言って部下の人たちと共に待機した。ミズオたちはまた一人ひとり隔離して監視下に置かせ、僕はテントに戻る。使者が来るまで大して時間は掛からないだろうからその間にエルフの里の雑用をしようと長老たちの家へと向かう。


「面倒な話になりましたな。こんな忙しい時期に戦など」

「元はと言えばあの蜥蜴族共が悪いのです。我らの先祖に恩こそあれ人間族だけでなく宗教団体まで連れ込むとは。エルフの里が健在であればいの一番に滅ぼしに行ったものを」


「まぁエルフの里に危害が及ばない様こちらで対処します。エルフ族と私たちは同盟関係になりましたからね」

「有難きお言葉……! 一日も早く復興させ勇者殿の立派な家を建てたく思います!」


「頑張りましょう皆さん。康久殿は首都には帰れんでしょうからここが起点となるかもしれませんし」


 シブイさんの適当な言葉に長老たちは盛り上がる。僕はシブイさんを睨みつけるも口笛を吹きながら視線を逸らした。何て勝手な話をするんだと思いつつ、権力関係の話で首都には戻らない気はしている。


ただこれはチャンスと言えばチャンス。広く地域を調べて個人的には世界樹を見つけて星の意思と疎通を図りたいし、出来ればデラウンに行って師匠の無事を確認したい。首都に閉じ込められてはそれが出来なくなるから有難い。


「康久殿もやる気ですから皆さんドンドン作業を進めましょう。戦もさっさと終わるでしょうから忙しくなりますぞ」

「然り然り!」


 慌ただしく書類を抱えて外に出て行くシブイさんと長老たちと控えていた兵士たち。僕そんなやる気に溢れる顔してんのかなぁ。そうだとしたら顔に出ないようにしないといけないと思いながら椅子を傾けて天井を見る。

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