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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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エルフの里へ向けて

「まぁ言うは易しですけどね。森を切り開けばそれだけこちらの町が襲撃される機会も増えますから。それにエルフのような連中が居れば開発をさせるだけさせてその後権利を主張し居座るのも十分に考えられます」

「その対策として僕が行くと?」


 口を開きながら満面の笑みを浮かべ満点回答と言いたげなシブイさん。個人的には道具として利用されるだけなのは嫌だなぁ何か考えないと。


「その顔は何かお考えがあるようですな」

「さてどうだか。僕の人気は首都とエルフの里限定だからねぇ」


「……私の仕事振りを御覧頂ければその御心内何れ話したくなるでしょう」


 疑ってるとしてもそこじゃないんだけどね。敢えてそれは言わず僕はシブイさんに向き合う様に荷台に背を預ける。エルフの復興は表向きで警護で常駐しつつその周辺の調査と開拓にあると考えている。エルフの厄介さからしてそのまま彼らを取り込むなんて考えて無いだろう。


後百年くらいしたら当然のように交じり合うだろうからそれ以降の問題は次の世代に任せるとして、僕としてはエルフを滅ぼさずに良い感じで自然と混ざり合えるような切っ掛けになれるのが仕事だ。いきなり考えは変わらないだろうし見下す気持ちも思考も同じ。


個人的には周辺の開拓をしつつ、病院や市場を招致したいなぁ。人間族の文化とかを見せて出来れば相手にも見せて貰って自然と高め合えれば最高だ。向こうは長年籠って研究してただけあって知識欲はとてもあるだろうから、物や武力より不思議を提供すれば興味も湧くと考えている。


「承知承知」

「何が?」


「いやはや聞いたところによるとかなりの武闘派だそうですがなかなかどうして」

「人の思考を読んだ気にならないでください」


「小生目や口よりも雰囲気で物を言う方と長い付き合いがありましてその癖でしょうな」

「なるほどシブイさんの出世の速さが分かる気がします」


 そう言うと楽しそうに笑う。具体的に指示を出す前に上司のやりたいものを感じて実行してきたからこそ僕よりも年上ではあるけど重臣の中では若くして経済担当になったんだろうなと思う。僕みたいな鈍感な人間からすると羨ましい限りだ。


「そうであるなら話は早い。私としても占領作戦よりも占領後の仕事に興味がありますし、戦わずに手に入れられるのであれば極上。これまでの貴方の戦いぶりや結果を見ればそれを目指していると分かりますからな。私としては今回の仕事、心躍る思いです!」


 興奮冷めやらない感じで何よりだなぁ。僕は鼻で溜息を吐いた後、荷台に寝転がる。何にせよ先ずは一手目が重要。気を引き締めて入らないといけない。今のところ信じられるのはミコトと華さんだけだし。


空を見上げながら暫くして川岸の町につくと、警護の兵士長が挨拶に来たので応対した後橋を渡りエルフの里へと向かう。彼らは僕らが見えなくなるまで敬礼してくれた。シブイさんが揶揄う様に国王並みの人気だと言うので苦い顔をしつつ荷台に再度寝そべる。


なるべく目立たず地味に仕事をしつつ情報を仕入れて行かないといけない。王に取って変われるのはあの人だけとかなったら面倒だ。個人的に徳川家康も偉大だとは思うけど二代将軍の秀忠の仕事も凄いし家光の仕事も凄いと思っている。偉大な人物の跡を継いでその次にしっかりと繋げ代を重ねても揺るぎない土台を作った反乱の余地を小さくしたんだから感心してしまう。


勿論それまでの家臣は居てもその人たちからは下に見られるだろうし偉大な先人と当代を重ねて色々あっただろう中で舵取りが出来るなんて僕には無理だと思わざるを得ない。


「康久殿、御出座しを」


 先ずは一手目。僕はそう思いながら重い腰を上げて立ち上がる。馬車が止まり前を見るとエルフの里の人たちが出迎えてくれるようだ。馬車の荷台から降り前に進むと、代表者の一人が前に出て頭を下げた。


「康久殿お待ちしておりました。里を救って下さった英雄の貴方には何とお礼の言葉を御伝えすれば良いか」

「いえいえ危機は去っても復興はこれからです。復興が成ってこそ意味があるのですから、そうで来た時に御礼を言われるような仕事をしに来ました。共に頑張りましょう」


 普通の言葉を言ったつもりだけど何だか偉く感激されてしまい、涙ぐみながら手を握って来た。まぁ変に反抗されるよりも心からも受け入れ完了で居てくれた方が仕事がし易いちょっと怖いけど。


「康久殿後ろを」


 シブイさんの言葉に後ろを向くと、蜥蜴族の兵士たちがこちらに近付いてきた。とても友好的な感じではない。僕が応対しようとしたけど僕の手を放してエルフの代表者が僕の前に出た。


「蜥蜴族、何か用か!」


 かなり語気を強めて問われ蜥蜴族の足が止まる。そりゃそうだよなぁ人間族を下に見ていたのにその人間族を庇う様に前に出て語気を強められたら驚くだろうな。暫くして見覚えのある物が一人前に出てこちらに近付いてきた。


「これはこれはエルフと人間が仲良しこよしとは羨ましい限りですな。時代も変わるものだ」


 ミズオの煽りにエルフの代表者は喰って掛かろうとしたので押し留めて前に出る。


「エルフの方たちは知を収めた人々。この世界にとって良いと思うものを始めるのは当たり前。自分の利だけ考えて高みの見物を決め込み強いられるなら協力の方が賢くは無いか?」

「人を見捨てたエルフが人と協力とは」


「互いに器を広げた結果だ。広がらぬ器は何れ壊れるのが理」

「我ら蜥蜴族が滅びると?」


 僕は肩を竦めて答えない。挑発に乗って怒るよりここはエルフを立ててポイントを稼ぐのが良い。蜥蜴族に良いイメージは無いしエルフとしっかり協力出来るならそちらを優先する。


暫く睨み合いが続いた後、ミズオたちは引き上げていく。様子見ってところだろうけどこのまま黙っている筈も無い。何しろ隣の土地がカイテン領のようになれば今度は自分たちが危ない。恐らくブリッヂス王は僕が行ったところでどうにもならないと高を括っていたからこそ許可を出した。


その目論見が失敗して大慌てしているのが目に見えるようだ。恐らく適当な頃合いを見て助けに入ろうとしたのはあの戦いに居た蜥蜴族が物語っている。ソウビ王が敢えて言わないのは優しさだっただろうけど、それに感謝するような玉では王は務まらないんじゃないかなと思う。


勿論ソウビ王は見抜いている。となるとまた一戦交える可能性が高いなぁこれは。蜥蜴族が去ったのをしっかり見た後でエルフの里へとエルフの人たちと共に向かう。


「圧を掛けに来たのに足元を掬われた感じでしょうな」

「だろうね。あれで結構気が短そうだし」


「彼は肉食の祖先を持ってるのかもしれませんな。そうなると彼単独で襲撃の可能性もありえるかと」

「それならば御安心下さい。我々エルフにも諜報が出来る者が居ります」


 僕らの馬車にさっきのエルフの人が馬を横に付けて来た。諜報が出来るとは思うけど結界で守られてたしこないだの戦いでも大混乱になってあれだから期待は出来ないだろう。


「里の周りの警護を宜しくお願いします。何かあれば出ます」

「有難き幸せ」


 恭しく頭を下げたエルフの人にそれから地図を見つつ色々話を伺う。やはり周辺地域の調査が最近諜報部隊によって始まったばかりで手探り状態だそうだ。僕が赴任して来たのもどうやらその周辺地域のモンスターなどの退治も期待されてだというのを理解する。


エルフの人たちは世界樹のバックアップを失ってしまい、例の森の意思の欠片(ビット )も無くなって戦闘の面において人間族に劣っている状況だ。戦いに心得のある者が指導はしているものの、急に改善したりはしない。


「大変恐縮では御座いますが、モンスター討伐の際にはお力を」

「それは率先して行いましょう。皆さんには先ずは里の復興、次いで人間族との経済交流を目指して頂きたい」


 シブイさんの言葉に頷き僕はエルフの里に着き次第周辺の土地を散策すると伝えるとまた恭しく頭を下げられる。少しの間はまた冒険者時代と同じような狩りをする日々になるのかなぁと思いつつ周辺地域の話に引き続き耳を傾ける。

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