エルフの里へ引っ越し
翌朝華さんに起こしてもらい起床する。他の皆はまだ寝ているようで僕は華さんと談笑しながらご飯を食べて登城した。末席という話なので重臣の皆さんが全員入るまで会議室の外で兵士の人と共に並んで待つ……と思いきや皆さんもうとっくにいらしていて恐縮しながら最後尾に付く。
嫌味とか言われるのかと思いきや眼中にないのか何も無く喜んで良いのか複雑な心境のまま最後に会議室に入り円形のテーブルの扉近くに着席する。自己紹介とかさせられるかもと思い色々考えて今までのして来たものとかを頭の中で慌てて整理しているとソウビ王とソウコウ様がいらして一度席を立ち頭を下げつつお二人が席に着くのを待ってから着席する。
「今日の議題を進める前に皆に報告がある。康久が褒章の件を受理した」
ソウビ王がそう告げると会議室がざわつく。何でざわつくんだろうここに居る人たちで決めたのに。
「よくぞ快諾した者ですな」
「ギオン、御前なら皆がこれと決めて私が与えると言った物を断れるのか? 新人の立場で」
席がソウビ王に近いところに座っていたボサボサ頭で顔の左半面に刀傷が付いた人が皮肉交じりに言うと、それをソウビ王が窘めて場は鎮まる。厄介事を押し付けてこないだもよろしくと挨拶してくれ握手までした人たちとは思えないなぁ。思ったよりドロドロとしたものがあるのかもしれない。
新人が大きな仕事をしたって言うのはあまり気分が良い物じゃないのかもしれないし、個人的には割に合わないと思ってるので気にしないでおく。
「故に康久はゴールドランクに成り立てではあるが我が王族の一員でもあるので席を我らの側に移動する」
それを聞いてまた場は騒然となる。これはどうしたものか。僕が上るとなれば他の人が下がる訳で。ひょっとしたらさっきのギオンて人もそれを察して皮肉を言ったのかもしれないなぁ。となればどうせ早々に居なくなるんだし断ろう。
「陛下、お願いがございます」
「康久、何か?」
「私は陛下の褒章を有難く頂いた身ではありますがゴールド帯としても到達したばかりでここに居らっしゃるのは先輩ばかり。王族の一員と言えど実績もありません。私自身王族の一員だからと評価をされて先輩を差し置き上位に就くのは流石に厚かましくて出来ません。ですので是非位置はこのままでまた実績を上げた時に御再考頂きたく。今回はご容赦頂ければ幸いでございます」
取り合えず失礼無い感じの言葉を並べてみましたシリーズ。時代劇でこんな感じの言葉使ってたはず。場は静まり返り視線はソウビ王に注がれる。腕を組み目を閉じていたソウビ王は暫くして腕を解き首を横に振る。ダメな感じかなこれは。
「恥を知るものである、と言わせてしまったのは私の落ち度である。この件に関しては康久の願いを聞き入れ場はこのままとする。私自身初めての状況が多々あり何処かで浮足立って居たかもしれん。皆が康久の褒章を決めたのは実に正しい判断であった。ソウコウの提案見事と言わざるを得んな」
おぉと会議室はどよめく。個人的には最終的にソウコウ様上げになって心底ホッとした。ソウコウ様はそれを聞いて興味深く頷いている。ソウビ様の目的としては僕を本当に席順を上げるのではなく、不満を持って居る人間を炙り出し且つソウコウ様の跡目は動かないというメッセージを発信するのが目的ではないかと推察する。
というかこういう面倒なものに巻き込まれるのは今後避けたいからそう言う意味でも僕がエルフの里に赴任するのは妥当な判断なのかもしれないなぁと今思った。勿論それ以外の人は単純に厄介払いしたかっただけだろうけど。
取り合えず直接側に居てチクチクやられるよりは大分快適になると思えばエルフの里への赴任が楽しみになって来た。
この後の議題はエルフの里の支援についてで、基本的に蜥蜴族や第三勢力に対する警護を一個中隊を差し向けて行い、里とのパイプを僕が担う。また補佐としてシブイさんが付いて予算などの申請をしてくれるようだ。首都の経済事情は現在緩やかに進行中で工事も同じで暫くはシブイさんが留守にしても問題無いとも説明された。
僕に対してはそれまでに自立できるようにしろって言われてる気がした。まさか人材発掘までしないといけないとは益々サラリーマン染みて来た。雇用に関しては何処の国の者でも構わないと言う。勿論責任はある程度負わなければならないが、人手不足は深刻なので余程重大な罪を犯さない限りは採用者にまで及ばないとも言われた。
更にその後のエルフの代表団との会議において一週間後に僕がエルフの里に赴任すると決定し、会議終了後急いで家に帰って華さんとミコトに伝えて準備を始める。マウロとパティアもイリョウへ向けて出発する準備を始める。
エルフの里と首都コウテンゲンを結ぶ輸送ラインも早急に整備が始まってそれをカンカンさんが担当している。僕が王族の一員になり華さんも赴任するとなってかなりの規模の人員が突っ込まれて一週間後にはある程度形になった。これで川岸の町にもこれまで以上に物資が送られて繁栄するだろう。
「ではまた必ず。ミコトを必ず守るんだぞ? 何かあったら許さん」
「はいはい。早く医療を習得して帰ってくれば問題無いんだから頼むぞそっちこそ」
一週間が慌ただしく過ぎて行き出発の日が訪れる。パティアは不安そうな顔をしていたけど一週間の間に僕がマウロ先生の御家族にお会いして事前に伝えてあるし、御家族も哀しく辛いけどパティアを同じ目に遭わせたところで帰ってこない、マウロ先生が残した医療を発展させ多くの人を救う為に厳しく鍛えると言って貰えたので大変だろうけど大丈夫だろう。
マウロ先生の娘さんはマウロ先生が抜けた穴を埋めようととても忙しくしていたし、マウロもこそっと手伝いに実は来ていてマウロも一緒に来るから仕方なく受け入れるって言う側面もあると思う。勿論国からの功労金も出るし人員も配置されるなどもあればこそだろう。
「何だかこうしているとイスルに戻ったみたいですね」
「本当に」
ミコトの運転で僕らはアジスキに荷物を載せてエルフの里を目指す。幸い根無し草に近いので荷物自体ほぼ無いから移動もし易い。アジスキも首都の厩で面倒を見て貰っていたので元気だったしミコトを見てとてもテンションを上げていた。
イスルに戻ったみたいとはいえ、あの頃と違い僕らの前後には兵士が帯同している。王族の一員と言うのは中々面倒で雇用の責任もあるし身を護る為に今まで以上に気を配らなければならない。
「道が整備されてとても自然に行き来できるのが有難い」
「そうですねこれなら夕方を待たずに川岸の村までいけそうです」
「そう言えばエルフの人たちは?」
「先に行って受け入れ準備をしてるらしいよ? こっちからも先遣隊を出すって言ったんだけど大分口論になったみたい。”我々の英雄を我々が襲うと言うのか!? 侮辱する気か恥を知れ!”ってさ」
沸点が低いのか知らんけど森に棲んでるのによう燃えるわあの人たち。正直英雄視してくれてなかったらもっと酷い状態だったんだなと思うと適任なのも仕方ないと諦める他無い。まぁ何にしても彼らが勝手に復興してくれれば僕の役目も終わりなんではっぱかけておだてて頑張って頂きましょう。
「あちらに行ったら何をするんですか?」
「仕事は山積みです残念ながら。私とミコトさんは経済等を教えねばなりません。彼らはほぼ自前の物で生きて来ましたが世界樹の保護が無くなった今外に頼らざるを得ません。経済観念が無いと言うと言いすぎかもしれませんがそのレベルです」
「そうそうその通り。流石華殿分かってらっしゃる」
馬に乗って後ろから僕らの馬車の横に来たのはシブイさんだった。最初に銀行であった時と違い目を輝かせていた。まるで憑き物が落ちたように見える。この人暇にしたらダメだな。
「シブイさんに一任しますよそっちは。僕には経済とか難しい話は良く分からないんで」
「心得た! 全てこのシブイにお任せあれ! 康久殿の評価を不動のものにすべく全力を注がせて頂きますぞ!」
「僕の評価が上ったらそのまま周辺の開発させられそうだね」
僕がニッコリそう言うと満面の笑みを返すシブイさん。絶対それを見越して僕の評価を上げようとしたのは分かってる。基本ゴールド帯は戦闘メインで首都に控えている人数も多い。下っ端が動き回るんだけど中でも王族の一員が動くとなれば大規模事業間違いなしらしい。ソウコウ様もあちこち動いているのは自身の研究だけでなく開拓調査もあるようだ。




