ヴァンパイアと博士と
「ヴァンパイアって人の血を吸うだけじゃないの?」
「違います。あらゆる生き物の生き血を吸えますけど、人の血が好物で相手が死ぬまで吸うと魂をも吸い上げられるんです。それをエネルギーにして強力な力を発揮してます」
「まぁですけどヴァンパイアは最強の生物ではありませんわ。竜種や獣種の強力なメンタルガード持ちには吸血している間に潰されますし、中には逆にヴァンパイアの魂を吸い上げて半永久的に生かし続けている者も居ますし」
「え、それって血を吸われても下僕みたいにはならないの?」
「人間で自ら望んだり心が疲れ果てた人なら即でしょうね。ヴァンパイアが噛んだ際に人体を麻痺させる成分が入った唾液が体内で化学反応を起こして思考を狂わせ、直前の不快行動しか鮮明に無いのでそれによって別の人間を襲うんです。ただそうなるまでにもタイムラグがあるし、今は治療薬もありますから」
凄いなぁ……魔術が無い世界だとそう言う治療薬とかで治せるようになってるのか。
「望めばヴァンパイアと同じになれますけれど、それは大きな制約が付きます。基本不死ですが、陽の光の下に長時間入れないだけでなく、満月以外も快適とは言えず人からは通常は忌み嫌われる存在ですから経済活動などままなりませんもの」
「そうなんです。なのでヴァンパイア側も最強で無い以上協力する必要があると感じ、中には協力してくれる人も居るんです」
凄い賢い人も居るもんだな……もっと獰猛なのかと思ってたけど。
「そうだよぉ? 僕みたいなのが居るから人類は他と同じく反映してるんだぁ?」
抜けたような男の声と共に、白衣に白シャツ黒のスラックスを身に纏い片眼鏡をした金髪の八重歯が現れた。
「せ、先生! もう起きられたんですか?」
「君らが騒がしいからねぇ……それにしても今日もうっとおしいほど良い天気じゃないかぁ……」
ウンザリした顔で赤い液体の入ったグラスから飛び出ているストローをちゅーちゅー吸い始めた。
「こちらが協力してくれる人?」
「そ、そうなんです……ヨーハン博士です……」
そうパフィーさんが言うと、博士は深いため息を空に向かって吐く。そして暫くするとだらしなく僕たちのテーブルに座った。
「態度悪いですのね此方の方」
「す、すみません」
パフィーさんは両手で顔を覆って頭を下げた。どうしたんだろうか。
「悲しいなぁ……哀しいよぼかぁ。こんなに悲しいのは生まれて三度目位さ」
「意外と少ないんですね」
「基本前向きに生きてきてるからさぁ……君名前は?」
「あ、失礼しました博士。僕の名前は康久です。野上康久」
そう言うと博士はくっくっくと天井に顔を向けて笑った。
「ああまた”康”なのか。僕は運が良いのか悪いのか」
「また、と言いますと?」
「えぇ? ああまぁ良いんだこっちの話さ。僕というより父母は君の名前に近い人と縁があるようでうねぇ。これは参った適当に切り上げて帰ろうとしたのにさぁ?」
「な、何ていう冗談を! 依頼を受けたんですからしっかりこなさないと研究費が!」
パフィーさんの言葉にそっぽを向いてふてくされる博士。中々ユニークな人のようだ。
「でしたら私たちにその仕事、譲りませんか? 流れのヴァンパイア如き適当に処理しますから」
自信満々にお茶を口にしつつ言ってのけるラティ。素性を知っている僕からすると、可能だろうとは思うけど……。
「それは出来ない相談です。私たちにも生活がありますから」
きっぱりと背筋を伸ばして真っ直ぐな視線をラティに向けて言うパフィーさん。ヴァンパイアハンターとしての気概がそうさせるんだろうか。
「どうしようかね。僕としてはどっちでも良いんだけどさ」
博士が姿勢をそのままに椅子をガタガタ体で押して僕の近くまで来て耳元で囁く。男の囁きは嬉しくないなぁ……。




