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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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謁見も終わり

「パティアの件か? 知っている。医師マウロを殺害した容疑で手配していたよく連れて来たな」

「褒美として彼女を許して頂きたいのです。本人にはマウロ先生の家族に直接償わせるようにしたいと考えて居まして」


 今思い付いたけど何れはどうにかしなければならない話だし、切り出すタイミングとしてはベストじゃないか?


「……素晴らしい判断だな。皆の者も康久のように許すにしても方法を考えて提案すべきだ。ただ殺すだけでは足りぬなら尽くさせれば良い。実に素晴らしい」


 何処も素晴らしくないのにどうあっても褒めて上げて褒美を取らせようって魂胆なのは分かった。だけども何とか回避しないと……後何かあったかな。


「あー! そう言えば首都で騒ぎを」

「あれは竜神教(ランシャラ)関係者が暴動を起こそうとしたのを未然に防いだというのは確認済みだ。その件でも褒美を取らせねばならんな、ジョウ」


 ソウビ様から少し離れた場所に控えている緑を基調とし竜の頭を両肩当てにした鎧を着ている人物は大きく頷く。お坊さんのように剃髪しているのかツルツルだけど髭を蓄えていて顎よりしたまで伸びている。重厚な感じを醸し出しつつも人を寄せ付けないような雰囲気は無く、何処か達観している風にも見えた。


「イスルよりこれまでの貢献に関しても報告は上がっている。今まで地方のギルドでの話として触れずにいたが首都だけでなく国にも近くなればそれらも加味せねばならない」

「エルフの身分を偽り冒険者証を発行させました!」


 その発言に再度王の間はざわつく。これはやったんでは無かろうか!


「エルフに騙されるのは致し方無い彼らは我々より長く生き知識も豊富だ。それに勝るべく人間は日々研鑽を重ね人間族の発展に今繋がっているのだ。お前に至っては自ら単身エルフの里に赴きその汚名を雪ぎ且つ自らの褒美をエルフを許す為に使いたいと願い出る。ゴールドの鏡たる精神も持ち合わせてた素晴らしい男だ」


 ジョウとか言う人は言い終わる前から首を振り目を隠す様に手を当てて肩を震わせた。絶対演技だ間違いない何て臭い演技をするんだこの人! 何か、何処からか急報でも飛んでこないかな……飛んで来たら拝んでも良い!


「へ、陛下!」


 あれ、マジで急報が来た。飛び込んで来た兵士は僕たちの脇を通り陛下の近くで傅く。それに対してジョウさんが近付いて耳を傾け兵士は耳打ちした。その後ジョウさんからソウビ様に耳打ちされると舌打ちしそうな顔をしてから真顔になり


「康久への褒美の件はまた後日。皆の者は至急会議室へ集まる様に」


 そう言って王の間を後にした。やれやれと思いながら一息吐くと不意に首根っこを掴まれた。振り向くとマウロが何か睨んでる睨みたいのはこっちなのに。


「何だよ」

「貴様ミコトを何だと思ってるんだ」


「何だも何もさっき言った通りだけど?」


 マウロは力任せに僕を放り投げたけど何とか窓の枠に足を開いて置き踏ん張って窓を割って落ちるのを防ぐ。こんなところから落ちたらまた騒ぎを起こして面倒になるのは違いない。元々マウロは敵だったんだからこのくらいは想定内だけど一体何が切っ掛けなんだか訳分からん。


「ここでやろうってのか?」

「貴様と殺るのに時と場所を選ばん」


 着地した後問うと、身構えるマウロ。面倒だから一撃でぶっ飛ばしてさっさと城から出ないと。僕は再度問わずに構えを取る。


「良い構えだがここを何処だと心得る?」


 突然僕ら以外の渋い声が聞こえたので視線を向けるとジョウさんがまだ部屋に居て笑顔で腕を組みつつこちらを見ている。色々考えていて飛んでいたけど流石に王の間で私闘をする訳にはいかない取り合えず出るのが先だ。


「失礼いたしました。おいマウロ」

「でやぁ!」


 マウロは月読命一味だからギルドもカイテンも関係無いのか知らんけど、王の間がどういうところかくらい考えられんくらい我を忘れているとは一体何なんだ?


「控えろと言っている」


 殴り掛かって来たマウロの前に立ち塞がると勢い良く弾かれたマウロは外へと落ちて行ってしまった。大丈夫かアイツこれで少しは頭を冷やしてくれると助かるんだけど。


「全く勇者一行がこれでは先々が思いやられるなぁ」


 笑顔で僕に向き直りそう言うジョウさんに対して僕は再度傅く。大きく動いたようには見えなかったのにマウロが吹き飛んだ。アイツも嫌な奴だけど腕は立つのにどんな方法で軽々吹っ飛ばしたのか分からずここは大人しくしているのが安全だと直感が言っているのでそれに従う。


「王の間で騒ぎを起こそうなどとはゴールドの風上にも置けん。故にこれは罰だ」


 次の瞬間僕はマウロが壊した窓へ吸い込まれるように飛んで行きそのまま落ちていく。全く分からんさっぱり理解出来ない。体の何処も痛くないし見たところ軽鎧に傷一つない。違和感があるとすれば自分の体が発する気に少し歪みがあるくらいだ。


とか暢気に考えている場合じゃない。落下しているのを思い出して周りを見渡し掴めそうな物は無かったので石壁を蹴りつつ何とか中庭に着地する。しかし運悪くそこには怒れる暴走機関車マウロが待ち構えていて襲い掛かって来た。


「しつっこいなお前は!」

「黙れ!」


 こういう時実戦経験て大事だなぁって思う。マウロはマウロでミコトを警護しつつあったんだろうけど、僕は最前線でリベリさんたちと相対して経験をプラスした。それが如実に表れマウロの攻撃一つ一つが見えてくる。


肩の動き足運び腰の回転。視線が嘘を吐いても問題無い。やがて最小限で避けつつ円を描くようにマウロの周りを動く。


「それまでっ!」


 いつの間にか降りて来たジョウさんの声が聞こえたけどマウロはまだ諦めていない。どうしても一撃加えたいようだ。何をそんなに怒っているのか分からんから殴られてもやれないしどうしたもんかな。


「痛っ」

「や、やった……へへへっざまぁみろ!」


 少し考え視線を上に向けた一瞬の隙を突いて今までに無い姿勢から蹴りを出されて急所は外れていたけど腹に入ってしまった。油断大敵を絵に描いたような展開に気恥ずかしくなり頭を掻く。


「修行が足りんな」

「その通りですね。返す言葉も無い」


 ジョウさんは僕らの間に立ちそう言うと僕は頭を下げて答える。その後尻餅を着いたマウロに手を差し出すと手を取ってくれたので起き上がらせたものの、何故か頭突きを食らわされた酷い。


「ったく何なんだよ」

「ミコトは御前にはやらん、それだけは覚えておけ」


 良く分からん捨て台詞を履いて降りて来たミコトたちに合流するべく歩いて行くマウロ。謎が多いなぁアイツも。


「油断をすると足元を掬われるのもそうだがお前の場合死を何とも思ってないのじゃないか? さっきのは戦場であれば武器を手にした相手の攻撃が腹を突いていた。あんなにあっさり通すなどそれでは何れ死滅するような油断に繋がるぞ?」


 僕の状況を恐らく知らないであろうジョウさんの言葉に驚く。確かに死んでも生き返れはするけどある特殊な条件下においては生き返れない。ここで言うならマグマに突き落とされたりした場合絶え間なく生と死を繰り返し精神が死ぬからだ。


言い方が悪いけど死に慣れ過ぎて恐れるという状況が無いように思えてならない。僕が死なないと分かって手を変えてきた時その慣れが油断となって足元を掬われ精神が死ぬ状況が訪れればお仕舞だ。


「忠告ありがとうございます。緩まぬよう気を付けてきたつもりですが、別の部分が緩んでいるのに気が付かなかったようです」

「他人だからこそ気付けるものは世の中多い。自分の背中を正確に人は何も使わず見れないからな。故に他者と共に生きるのは大事で心ある仲間が大い方が良い。それではソウビ様が御前に下さった別宅へ案内しよう」


「え、ジョウさんが態々ですか!?」

「当たり前だソウビ王の別宅だぞ? 一般の兵士が受け渡しなど出来るものか。私も会議に出なければならん。さっさと行くぞ?」



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