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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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首都への帰り道の野宿

それから暫くはパティアを皆で弄りつつ森を進む。このままブリッヂスに向かうのは何か不味い気がするので川岸の町を目指す。持ってきた荷物プラスマウロたちが持ってきたものも含めれば野宿しつつ移動できるだろう。


夕方になり丘の下で野宿をする為に準備を始める。シルフィードさんが皆が見ていない隙に近くに穴を開けてキャンプをし易くしてくれた。僕らが返る時に元に戻すというので感謝しつつ使わせて貰う。


更にシルフィードさんは野宿歴が長いからと森を歩いて沢山木の実や山菜を取って来てくれた。僕らは大体川で釣るか町から持ち込んだ物を調理して食べているからこういう知識は足りないので是非教わりたいなぁと思う。


「見張りはどうしますか?」

「ミコトたちは休んでて……とは言ってもルナとパティアの見張りをお願いするからゆっくり寝れないかもしれないけど」


「俺は?」

「マウロは僕と交代でテントの前で寝る感じで良いかな」


「僕はどうしようか」

「シルフィードさんはテントの後ろで休みつつ警護をお願いしても良いですか? 僕はテントの前でマウロと交代するまで見張りしてますから」


 それから食事をして夜を迎える。久し振りにゆっくりした夜でとてもホッとする。前までこういう森の中とか暗さの奥に光る眼が見えたりしてとても怖かったけど、今は森が生きているって感じがしてこの静けさも含めとても好きだ。


暫く焚火を見つつ気配を探るも特に異常はない。そういや今ゴールド帯の昇格試験中だったのを思い出した。恐らく使者としては失敗だしまたシルバー帯で経験を積んでいくのだろう。だけど最近色々巻き込まれて落ち着かなかったし、イスルに戻って依頼をこなしつつ兄弟子にも鍛えて貰いながらデラウンに一日も早く戻るべく頑張るしかない。


竜神教(ランシャラ)はこの国においてもあちこちで色々画策しているのが見えたし、何より驚いたのは斬久郎さんが竜神教(ランシャラ)の一員だった件だ。僕やラティと共に旅をしていたけど最初からラティを確保する為に動いていたとしたら辻褄が合う気がする。


ただ彼は家族の件を調べていた筈だ。そこもリベリさんと一緒で何か目的があるのだろうか。目的と言えばクニウスもだ。あの男一体何処まで事情を知っているのか。会った時から掴みどころのない妙な奴だったけど更に底知れない。


僕と敵対しているようでそうでもないし、ただ利用しているだけとも思えない本当に嫌な感じの距離の取り方をしてくるストーカーで個人的にはさっさと解決したい一番の問題だ。とは言え根っこがカイビャクにあるんじゃ今の僕には中々遠い。


「まだまだ道険し、か」

「何が?」


 ガサガサと音を立てて前方の草むらから這って来る物体があったので良く見ると草まみれだ。これ前にも見たなぁと思って警戒しつつ見ているとそれは焚火の前に座り草を払って姿を現す。


「またその登場の仕方なんすねソウコウ様」

「私だってこれ好きでやってる訳じゃないんだぞ? それよりご苦労様」


「使者の役目果たせなくてすみません」

「何が?」


 僕はその言葉に吹き出してしまうとソウコウ様もガハハと笑う。暫く二人で笑い終えた後、ソウコウ様は何故そう答えたのか教えてくれた。カンカンさんと華さんが首都へ報告に戻って伝え聞いたソウビ様は先発で密偵を放ちつつ川岸まで大隊とゴールド帯を動かしたと言う。


それから更にブリッヂスにも使いを出し事の次第を問いただしていると、世界樹が倒れ更にはエルフも逃げ出すわ竜騎士団(セフィロト )まで逃げて来るわで一時ブリッヂスとカイテンに緊張感が高まったと言う。


痺れを切らしたソウビ様は単独でソウコウ様たちを従えてエルフの里まで来てみると、僕が一人戦い竜まで退けてしまったので出番を失い帰っていったらしい。


「父上は実につまらなそうな顔をして帰られたよ。康久にも見せてあげたかったねとても愉快だ」

「御機嫌麗しければ良いんですけどね」


「久々に暴れられると思ったのに水を差されたからどうだかな。君の活躍を聞いてブリッヂスもあっさり矛を収めてカイテンへの優位はゼロになるのを良しとしちゃったし消化不良かもしれないね」

「あのブリッヂスが?」


 僕は訝しむ。あの芝居がかったやり取りや竜騎士団(セフィロト )を招き入れていた件を考えるとそう見せかけて腹は真っ黒とみて間違いないだろう。弱体化したエルフの里に何かしてくる可能性もあると思って間違いないんじゃないだろうか。


「康久の心配は我々も当然しているし、消化不良の父上が怒気を交えてエルフの里への介入を要求してあっさり了承したから多少はマシだと思うよ? これから交渉はするけど基本警護するくらいで立て直しが済んだら同盟でも結んで放置になるだろうね面倒なエルフが急に殊勝になる方が怖いしさ」


 まぁ僕如きが考えそうなものはソウビ様は御見通しだろう。てかあのソウビ様が怒気を纏いながら要求するとあの蜥蜴族の王も引かざるを得ないなんてやっぱ凄いなぁソウビ様は。


「で、使者の話だったか? 父上も含んで伝えたけど使者としては全くダメだけど与えた任務は満点以上に達成したので帰り次第ゴールドへ昇格だ」

「えぇ……」


「何だ不満か?」

「いや何かこんなんでゴールドになってもなぁって気がして」


「エルフの里を護ったのがこんなんだとすれば他にこれ以上の仕事を皆がしなければゴールド帯に上がれなくなるのだが」


 そう言われると言葉も無いけど僕からするとシルフィードさんも居たりミコトもマウロも来てくれたしってのがあるから、一人で成し遂げた感じでは無いのでそれでゴールド帯ですって言われてもはいそうですかとは受け入れがたいものがある。


「何か勘違いしているようだが、ゴールド帯になったところで御仕舞では無いのだぞ? 寧ろこれまで以上に貢献が求められるし依頼もゴールドより下は受けられなくなる。生活の保障は無いのに依頼だけが難しくなったのだから考えて生きて行かねばあっさり降格する」


 そう言われて目が覚める。確かにそれはそうだ。手当は厚くなるけど生活の保障は無い。あくまでも自分たちの食い扶持はしっかり稼ぎつつ国にも貢献しないと直ぐにシルバーに逆戻りだ。のんびり出来ると思ったけどとんでもない思い違いだ。


「康久の場合は今回の件で大きな加点が付いた。本来であれば長引くし大隊を差し向けつつ下手をすれば戦争になり兼ねない。ブリッヂスのヘマがあり康久のみ許可をしていたのが相手にとっては仇となりケチをつけられなくしたのが功を奏した部分もあるが、自ら判断し一人で成し遂げた功は大きすぎる。国としてもゴールド昇格だけでは不足という話で今報酬も検討中だ」


 変身能力とかの御蔭で忘れがちだけど冷静に見れば結構大きな仕事をしたんだなぁ。こうして他人から感情交えず状況を伝え聞くっていうのはとても大事だなと思い知らされる。つい自分目線のみで考えてしまいがちだけど客観的にみればどうかしてる戦果なのかもしれない。


「まぁ故にゴールド帯である、と言う言葉で片付けても良いのだが、さっき私が言ったようにそれで片付けると今居るゴールド帯全員の首が締まる。康久の今回の功績を安く見積もれば自分たちも同じように安くなるから苦心しどころだなぁ」


 何かソウコウ様は他人事のように語りつつもニヤニヤしてるのが気に掛かる。何か面白い手立てでもあるんだろうか。


「何にせよ今回の務めご苦労だった。国への貢献は計り知れずまた兵士も失わずに友好国を増やせそうで皆大喜びだ。胸を張って凱旋すると良い」


 ソウコウ様はそう言って立ち上がり来た草むらへと歩いて行く。こんな夜更けに帰らなくてもと思って止めようとして近付くと、松明の火が僕らを囲むように着いた。ここは敵地と言えば敵地だし緊迫した状況でそこに皇太子を一人で行かせるわけはないよなぁ。


「焦らずゆっくり帰ってくると良い。但し首都に帰ってくるのだぞ? イスルに戻ってもまた首都へ来いという使いを出すだけで面倒だからな。ではな」


 そう言ってソウコウ様は森の闇に溶け松明の灯りも川岸の方へ一斉に移動する。やれやれと思いつつ僕は焚火へ戻り空を見上げて過ごす。ボーっとしていると交代の時間になり少しの間睡眠を取りやがて朝を迎えて食事をして僕らは再度川岸を目指す。

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