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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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現れるオリジナル

「別に幾ら潰しても良いけどこっちも幾らでも生み出せるのよ? アンタのそれが何時まで続くのか見ものだわね」

「聞いたでしょ? さっさとそれを切り倒しなさい」


 ルナの背中を見つつ頷く。半端な力って言ってたから無制限じゃないだろうしあれを一瞬で殲滅し吐くのも無理なんだろう。そうなれば手が足りなくてジリ貧になるから急いで世界樹を切り倒せばアイツの供給源を絶てる筈だ。


「後ろのが切り倒すまでアンタが持つのかしらね」


 背中から射す光が強くなる。見なくてもアイツが大量の森の迷い子(ウイルオーウィスプ)を呼び出したのは間違いない。僕としてはルナを信じて一刻も早く木を切り倒す為にゴフルアックスを振るう他無い。


一撃一撃打ち込む間にジュワジュワと森の迷い子(ウイルオーウィスプ)が消える音に世界樹の防衛機構である虫が動き燃え苦しむ音が聞こえる。いつもは僕がメインで戦って背中を任せているけど、任されて戦えない人間のもどかしい気持ちが、今居ないミコトの気持ちがとても良く分かる気がする。


僕が戦っている間彼女はこんなにも自分で何ともできない歯痒さを感じていたのかと思うと、ミコトってやっぱ強いよなぁと思う。だけどそう言う積み重ねが彼女を疲労の限界まで追いやってしまったのかもと考えると申し訳ない気持ちになる。


もう少し他の人の気持ちに敏感で労わってあげられたら違った未来があったのかもしれない。婆ちゃん祖父ちゃんそして家族。ここに来るまでそれに気が付けなかった自分の情けなさに恥じ入るばかりだ。


「あら残念」


 声に反応して振り向くと森の迷い子(ウイルオーウィスプ)が一騎こちらに飛んで来た。万事休すかこの体勢からあれに頭を攻撃されたら死なないとは言え復帰までに時間が相当掛かってしまう。何とかルナだけでも生き延びてくれたら。


「ぐはっ」


 そう願いながら目を閉じた瞬間、誰かの声が聞こえて急いで目を開けるとそこにはとても懐かしい人がいた。


「斬久郎さん?」

「良いから早く役目を果たせ」


「それだけ喋れるならさっさと立ちなさい。あの糞エルフを倒すのがアンタの仕事なのよ?」


 ルナに叱責され立ち上がる斬久郎さん。やっぱり川岸の村でオルランドを助けたのは斬久郎さんだったんだ。でも何でルナの指示を受けているんだ?


「おい余所見をするな。お前がこれを倒す為に俺たちが踏ん張っているんだからな」


 今度はリベリさんも降りて来てパティアと森の迷い子(ウイルオーウィスプ)に向かって突撃していく。斬撃で森の迷い子(ウイルオーウィスプ)を掻き消して行き斬久郎さんもそれに続いた。ルナは二人が逃した者を打ち落として行く。


僕は安心して自分の仕事に戻りゴフルアックスを振るう。だけど樹齢何万年か分からない世界樹の木はとても太く、どれだけやれば切れるのか見当もつかなくて焦りだけが増して行く。


「へー、やるじゃない。でもね所詮それまでよ。私は今どれだけゴールド帯が来ようとも指一本触れられない、言うなればダイヤモンドクラスの強さなんだからね」

「だったら私たちをさっさと片付けた方が良いんじゃないの? 暢気にしてると世界樹が倒れるけど」


 ルナの挑発にのったのか光がさらに強くなる。だけど振り向かない。腰を少し落とし下半身を安定させてゴルフアックスを振り上げ力を込めて世界樹へ叩き付けるを繰り返す。


「さて、そろそろ飽きたわね。もう十分抵抗したでしょうから気が済んだからしら?」


 漸く五分の一まで行ったと思った頃、パティアの言葉の後にまるで太陽のような大きな光が背後から射してきた。それでも僕が今すべきなのは木を倒す仕事だ振り返らないぞ。


「アンタたち全員燃やしてあげる。古より護りしエルフの年月の蓄積よ、邪なる異種族に教訓を与えよ戒律の光(プリセプト・ライト)

「チィイイ!」


 僕の着ている肌着や鎧にも光の炎が燃やさんとつき始める。それでも僕は木を切るのを止めない。こうなれば変身して木を一気に。


「お待ちなさい!」

「喰らええええ!」


 久し振りに聞く声に驚いて振り返ると、そこにはミコトを背負いながら変身した銀髪マウロが現れパティアに蹴りを浴びせていた。だけど森の迷い子(ウイルオーウィスプ)に遮られて直撃させられない。


「チッ、もう目が覚めたのね」

「先生が必死で見つけてくれた御蔭だ。それにお前が枝を町から盗んでくれたのもあって簡単に見つけられた」


「パティアさん、何で……」

「フン、異種族なんかどうでも良いのよ。エルフこそが最高で誰よりも尊重され敬われる種族なのよ。それ以外は餌にも劣るわ。エルフが気まぐれに何をしようが黙って受け入れるべきなのよ。エルフの是非こそが全ての判断の源。他人にとってどうか民主主義がどうとかじゃない。エルフの好き嫌い納得できる出来ないが全て! それこそがエルフの里で育まれた誇りと生き様よ」


 世界樹がエルフを隔離していた理由が分かる気がした。こんな思考の連中が外に出てきたら生きる為にお互いを支え合っている人たちの生活をめちゃくちゃにしてしまう。世界樹はそれを予想して閉じ込めたのかもしれない。


自分たちの法や考え方が全てで相手の国も法も関係無く犯して良いなんて言う思考の持ち主が集団で居たとしたら、それはその者たちで集まって閉じこもって居れば良い。自分がやられたら嫌なことを相手にするなっていう当たり前の考えすら出来ないなら共生など有り得ない。


「ならば貴様らエルフだけで滅びろ。俺たちの世界に干渉するな!」


 銀髪マウロの言葉の後でパティアは空を見上げながら大笑いし始めた。気がふれたのか?


「馬鹿な連中ね。その力は誰から貰ったのかしら?」

「エルフなど関係無いだろう」


「だから馬鹿だっていうのよ。その力は元々エルフが基礎研究から得た理論を元に発展させた外殻装着なのよ。マウロもそれに関わってた、御存じ?」


 突然の説明に頭が混乱する。変身能力って月読命たちが研究して人の遺伝子を弄って開発したものじゃなかったのか? 銀髪マウロたちの場合。僕はウルド様から貰ったと思うけどそれも違うのか?


「元々私たちエルフは紫外線にとても弱くて外の環境で生きるのがとても難しい存在だったの。それを解消すべくマウロたちは非人道的な研究を重ねた結果、その能力の可能性に辿り着いた。でもね、その力は分かるでしょうけどとても危険なの。成功する確率もほぼ無く更に使い続ければ命も削れていく。マウロはそれまでゴミ屑のように捨てた同胞の命の成果をあっさり破棄して別の研究を始め、辿り着いたのが世界樹から供給を受けて一人一人に付けた森の意思の欠片(ビット )。最初から世界樹に頼らない生き方をなんて思わなければ同胞は今頃もっと生きていたのよ?」


 まさかそんな感じで誕生していたなんて……。最初に会った時全部エルフの知恵から得たものと言っていたのはそう言う研究を知っていたしマウロ先生が医者をしていたから情報を漏らしていたに違いないと思って口にしていたのか。


「それでマウロ先生を殺したのか? 同胞を無残に殺された腹いせに? お前が生まれる前の話ではないのか?」

「そうよ私が生まれる前、両親が参加した研究だから知っているわよ? 最初に会った時は驚いたわ本当に。同胞の力を盗んだ奴がこんなにも多く居たなんてね」


 パティアを見ると足元と指先から徐々に白い甲殻に覆われていく。まさかパティアも!?


「勘違いしないで頂戴ねアンタたちとは違うのよ。母のお腹にいた時に実験を受けた私は代償無しで装着が可能なの。待っていたわこの時を。お前たち能力者を纏めて始末出来る時をね!」


 パティアの全身は真っ白な蛇の皮のようなもので覆われ目の部分も赤く大きな物へと変わった。更に口も大きく開くと牙が無数に生えているのが見える。最早別の生物に変わったとしか思えない。


「まさかオリジナルが居たとはね」

「フン、泥棒猫の癖に目が悪いのねお前は。男に貢がせ他人に頼り惰弱で脆弱な癖に自尊心だけは超一流な無能な女だから仕方ないのかもしれないけど、少しは無能を認めてしおらしくしなさいな」


 ルナはパティアの言葉に反応し黒いビームを集中的に浴びせる。ただそれは煙を上げただけでパティアに傷一つ付けられない。これは参ったな大ピンチじゃないか。今まで感じたどの危機よりも解決策が見出せなくて感覚が可笑しくなったのか怖さを感じないどころか笑ってしまった。


「何が可笑しいのかしら? 御前には世話になったけど人間族だから御免なさいね死んでもらうわ」

「タダで死ぬかよ」

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