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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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黄金に狂いしもの

 声の方向を見るとデュマスを救出しに来たのは何とエルフの武装した兵隊で通りで隊長と呼んだはずだと納得する。エルフって頑固で他民族を見下しているのかと思ったけど竜神教(ランシャラ)の感染力の高さなのか何某かの手を使ったのか人間族を護る行動を取るなんてと驚いてしまった。


「どけっ!」


 その一瞬の隙を突かれて前蹴りを出され何とか鳩尾を避けて受けたものの防御姿勢を取っている間に、僕のゴフルアックスを逸らしてエルフの家に打ち込ませ体を入れ替えて転がる様に逃げた。もっと綺麗な感じで戦うのかと思いきや


「意外に汚い戦い方をするんだな」

「戦いに汚いも何もあるか!」


「異教徒相手に同じ土俵に上がるのは許されるのか聖職者!」


 僕はニヤリと笑いながら煽るとデュマスは間一髪逃れて冷や汗を掻いていたのに真顔になった後見た事も無いような形相で斬りかかって来た。やはりこういうところが弱点になるんだな。


自分が信じているものを汚されたと感じると、それまでの小綺麗な自分を捨てて獣のように相手を殺したいと言う欲望剥き出しで掛かってくる。


どれだけ高尚に装ったって所詮は人間でしかなく人間は決して人間以上には成れない。だからこそ空想から生み出した完全無欠の神様等を生み出し許しを請う。


竜神教(ランシャラ)の神であり教祖って言うのはどれだけ面の皮が厚いのか会うのが楽しみだ。竜だから厚いと言えば厚いんだろうけど。


「隊長!」

「騎士団長! 落ち着いてください!」


「ウォオオアアアアア!」


 最早錯乱に近く援護しようにも自分も斬られかねない状態なので他が手を貸せないようだ。ただこんな時でも綺麗な太刀筋で早くて手数が多く教科書からずれた角度から来るものの、防げなくは無い。


ゴフルアックスの軽さもあるのか斧だけどそのスピードにしっかり追いついて弾ける。怒りのエネルギーで無尽蔵に力を放出し叩きつけて来ても、こっちは冷静に弾き流しているのでどちらが先にガス欠になるかは一目瞭然だ。それにデカイ声を上げてるのもあって声も枯れて来ている。


「ウガッ……アア!」

「五月蠅いなぁ」


 目に見えて剣を振る速度が落ち体が泳いだ隙を突いて左わき腹に脇を閉めてコンパクトに素早く力を込め槍で突くようにゴフルアックスの頭の部分を突き出す。デュマスは吹っ飛んで先の方にあったエルフの家の壁から中まで突っ込んで行った。


「くっ!? 隊長を助けるんだ!」

「馬鹿な!? ここはお前たちが支えろ!」


 頭が無くなると思考が出来なくなり動きも可笑しくなるっていう分かり易い状態に陥っていた。僕に対して警戒はしていたものの、強い騎士団長が一方的に倒されたので距離を取りつつ取り巻いているだけ。次第に我先にと逃げる様に騎士団長を助けに行きだした。


「どうした? 一方的に叩けるチャンスだけど」


 シルフィードさんがのんびりと歩きながら手を上げつつ近付いてきた。この混乱の中でもこの人は別世界に居るように映る。僕は鼻で息を吐きつつ肩を竦める。


「虐殺者にはなりたくありませんからね」

「襲ってくるなら襲おうとするなら抗うが進んで命を奪わない、か。益々英雄じみてくるね」


「止めて下さいよそういうの。ルナも勇者がどうのと……。生憎時代の生贄になる気はありませんから。今代にはソウビ王もいらっしゃいますしソウコウ様も居ますしね」

「そう思うならなるべく大人しく……したいだろうけど哀しいかな相手から絡んでくるんだから仕方ない」


「ですね。なるべく僕としてはウルド様からの使命を終えてのんびり引き籠りたいんですけど」

「それは難しいかもしれないよ」


 意味ありげに目を閉じ小さく笑うシルフィードさん。この人はウルド様とどういう関係なんだろうか。クロウ・フォン・ラファエルを知っているし。


「新手の登場だ」


 それとなく尋ねようとした時、シルフィードさんが指さす。その方向を見るとまた嫌な者を見る羽目になった。何で隣の国に来てまで嫌な者を見なきゃならないのかと憤慨したくなる。


「御機嫌良さそうだなぁ!」

「生憎気分は最悪ですよ!」


 篭手から伸びた剣を舞い散る木の葉を斬るような速度で振るい斬りつけてくる。小手調べって感じなのが丸わかりなのでこちらも捌いて返す。歯を見せながら笑っているけど瞳孔かっぴらいてて怖すぎる。個人的にはもっと嬉しい人物たちに笑顔で迎えて貰いたい。


「んふ……良いぞ、奴から聞いていた通りゴールド帯に相応しい……いやそこらのゴールド帯では及ばない実力を付けたと見える」

「まさか」


 そこらにゴールド帯がゴロゴロ居て堪るかと思いつつゴフルアックスを構える。一旦距離を取った相手は明らかに興奮して幼児のように隠せずに身を動かしているのが気持ちが悪い。初めて会った時はもう少しまともな大人だったのになぁ。


「再会の挨拶はこれからだ! お前たちはエルフを殲滅しろぃ! 俺はコイツだけに用がある!」


 自分の部下にそう指示を出した後一気に間合いを詰めるべく飛び込んで来たけど、僕は半身で避け通り過ぎて行く。だけど直ぐにロープでバウンドしたようにこっちに戻って来た。でたらめすぎる。


「ひゃあはははははぁ! 堪らないぜこの感覚はぁ!」

「気持ちが悪い!」


 手を抜いている様子は無いのである程度力を発揮しているはずだ。暫く離れている間に腕が落ちたなんてこの人に対しては有り得ない。強い相手を倒すのみ生甲斐だと言い切り敵も味方も関係無いと声高らかに宣言するカイビャクきっての実力者であるゴールドランク最強とも言われる男、金色の鎧を纏いし双剣士フィヨルド・リベリ。


「くっ……くそぉ!」

「馬鹿が!」


 仲間に助けられよろめきつつも戻って来て僕に斬りかかろうとしたデュマスを容赦無く蹴り飛ばすリベリさん。迷い無く行われたそれに対してデュマスの部下は呆然とし立ち竦んでしまった。僕は生憎それを気に掛けてやれる余裕がない。


段々と速度も剣撃も早さを増し鋭さも重さもギアが上がる。初めて切り結んだ時のあの強さはやはり完全な手抜きだと分かる。こちらがどれくらいまで耐えられるか触診するように確かめながら開放していた。


「ぬふふ……分かるかぁ? 分かるよなぁ!?」


 ただ只管気持ちが悪い。舌を出しつつ飢えた犬のように襲い掛かるおじさんを女性が嫌う気持ちが理解出来た。自分はおじさんになってもこうはならないように気を付けようと戒めると共にギアをこれ以上上げさせず適当なところで隙を突きたい。


が、そんなものは経験値も上で戦闘狂なリベリさんはお見通しでさせる筈も無い。


「これで一回死んだぞ? 次は無い」


 ゴフルアックスが弾き飛ばされて万事休すかと思ったけどリベリさんは剣をピタリと止めて立ち尽くし、顎で僕に拾うよう促す。困ったなぁデュマスの次はリベリさんまで出張ってくるとは……そう言えば川岸の村を襲撃しに来たオルランド選手を逃がした男、刀を使っていたけど。


「余計な考え事は死を早めるだけだ」

「いえね騒がしいものだからつい」


 僕は喧噪渦巻くエルフの里を指さして言うと、首を右左に傾げた後頭を振り鼻で笑うリベリさん。


「なるほど確かにそれもそうだ。邪魔な奴が多すぎる。少し待ってもらえれば俺の部下意外は皆死ぬが」

「そうはさせませんよ。バランスが崩れれば歯止めが利かなくなる」


「構いやしないさ。戦争になれば俺の心と性欲を満たしてくれる連中がワンサカ生まれ出てくる。それはそれは堪らない」

「戦争を起こしたいと?」


「俺は状態に捕らわれない。別に今でも満たしてくれるなら構わない。戦争になればより満たしやすくなるが安易だから面白くないんで大きく動かないだけだ。それで狙いやすい相手も居るしなぁ」


 もっと戦闘狂なら戦闘狂らしく戦いのみに専念して暴走してくれれば良いのに頭もキレるから質が悪い。クニウスと良いリベリさんと良い竜神教(ランシャラ)ってホント素晴らしい組織なんだろうなぁウンザリするわ。

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