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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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昼の月

 交代の時間が来て睡眠を取りあっという間に朝が来て起こされ、朝ご飯を頂いて鍛錬を開始する。シルフィードさんはその間に水を調達してくると言って森の中に消えた。今日の鍛錬はカンカンさんに迷いがあったのか前よりも少しだけ気持ち軽い感じで終了する。


まぁエルフの里の問題に首を突っ込むかどうかだから迷うのも無理はない。下手をすると問題の当事者になり兼ねないし。鍛錬が終わるとシルフィードさんも桶を二つ持って帰って来た。


「やはり私の一存では決めかねる」


 皆に座るよう促しカンカンさんも座ると腕を組んで一頻り唸った後そう苦しい感じで声を出した。それに対してシルフィードさんは笑顔で聞いている。


「それは構わないけど機会を逃すとただ崩壊しちゃうよ? 文字通り崖っぷちなのは周囲の感じから分かると思うけど」

「……それは分かる。だが国の大事になり兼ねない」


「このまま引き返す? コモド王に許可を貰ったのに?」


 押し黙るカンカンさん。コモド王に内緒で僕らだけ引き返せば怪しまれるのは当然として竜神教(ランシャラ)の直接介入を許してしまうだろう。そうなると教祖の狙い通りになってしまい拮抗が崩れる。それは避けないといけない。


「ならこれはどうでしょう。僕一人がエルフの里に行くと言うのは。元々僕のゴールド帯昇格試験でもあるし、エルフの里まで僕の名前は響いてはいないでしょう。それにコモド王は僕に許可を出したみたいな感じになってましたからね」

「それは良いね。何しろ君は元々カイビャクの人間。何かあればカイビャクの所為にも出来るし一石二鳥だ」


 シルフィードさんの酷い最悪な策はスルーするとしてある程度誤魔化せたかなと思う。僕はどうしてでもエルフの里に行かないとダメみたいだからこそシルフィードさんは粘ったんだし。


「分かった。私たちも出来るだけ早く戻るので兎に角慎重に動いてくれ」


 カンカンさんは暫く考え込んだ後大きな溜息を吐いて許可をくれた。そして一刻も早く戻るべく荷物を僕に渡して馬車に乗る。華さんも残ると言ってくれたけどそれだけは承認出来ないと言われ馬車の荷台に乗せられて二人は猛スピードで元来た道を戻っていった。


「うーん恋は盲目かな」

「何がです?」


 並んで二人を見送っていると突然意味が分からない言葉を呟くシルフィードさん。


「王族が問題に関与したとなればシルバー帯の冒険者の暴走じゃ済まないから彼女が下がったのは当然だ」

「ですね」


 華さんが一緒に戻った理由に対し同意をすると何故か肩を竦ませ大きく溜息を吐かれた。良く分からないまま荷物を抱えて僕らはエルフの里へと向かうべく歩き出す。


「でもまぁこれで良かったと思うよ? 僕らだけなら全く問題無い……いや寧ろやり易くなったまである」

「何か裏技を使うんですか?」


 僕の問いに彼は髪を掻き上げ耳を見せた。するとその耳はエルフの耳では無かった。驚く僕に対して得意げな顔をする。どういう仕掛けがあるんだ?


「この世界は色々反則で埋め尽くされてるからね。本来であれば圧倒する筈の君がここでは中位で急激に枯渇する筈の無い魔術粒子(エーテル)が無くなる等上げたらキリがない。だから少しくらい僕が力を使っても世界には何の影響も出ないのさ」


 皆チートしてるからチートして良いんだみたいに聞こえているのは気のせいだろう。僕もチートしてると思ったら環境がそれ以上だったので何とも言い辛い。出来れば楽にクリアして引き籠りたい。


「ちなみに楽にはならないから安心して欲しい。何しろそこまでやると世界に影響が出て抑止力が生まれてしまう可能性が高い。最も星の意思が分からないからこれで正解かも分からないんだけどね。難しい話をするなら君と言う存在がここに来るからそれに対処すべく環境を激変させた可能性もあるんだけどね」

「僕がここに来るのを知って急に環境を変えたってデータじゃないのに可能なんですか?」


「うーん、スペースシャトルに乗って離れた星に行って帰って来たのと同じと捉えると良いかもね。情報を察知して到着し活動するまでを逆算して環境を変えたっていう。かなり力技だけどこの星に与えられた力を持ってしてなら可能だろう。ヒショウに乗り移った他の星の魔法使い等の要因もあったし」

「クロウ・フォン・ラファエル」


 ウルド様がこの星に魔法使いを導いた男でこの世界の創造主。不意にその名前を思い出し口から出てしまった。ハッとなりシルフィードさんを見ると笑顔でこっちを見ている。なんか目の奥に怒りが見える気がするのは気のせいだろうか。


「彼はここにはこない。まだ実は熟していないからね。前の星で先生を葬ったのだから世界を縫合するのに時間が掛かっている。君がここで何とか彼の思惑に飲まれなかったのもそれが大きな理由の一つさ。例の組織の月読命の失態もそれが原因。彼女はとてつもなく激しい怒りで身を焦がしそうになっているよ。見捨てられた裏切られたこの星の生き物と手を組まなければならないのはクロウの所為だってね」


 そう言うのは御本人相手にやって頂きたいなぁ僕に当たられても解決しないんだけど。


「ハァイお兄さんたち何処へお出かけ?」


 不意に草むらから人が飛び出してきた。ここ最近人が飛び出しすぎだと思うんだよなぁ。皆普通に出て来た方が怪しくないのにと思わずにはいられない。


「散歩中だけど君は?」


 出て来た人物に声を掛ける。その人は黒髪を赤い紐で縛りツインテールにし黒を基調とした鮮やかな着物を上着に黒い膝までのスカートにカラフルな草履を履いた少女だった。目の下に黒いクマのような化粧をしていたのが印象的だ。野球選手なのかなと思ってちょっと吹いてしまう。


「何か面白いの? アンタ」

「え、あ、すいません失礼しました」


「ホント失礼って感じ。感じ悪いわぁ」


 感じ感じ五月蠅いなと思いつつ苦笑いしながら頭を下げる。


「で、何か御用かなお嬢さん」

「エルフの里の例大祭に行くのかなぁって思ってさ」


「人間はそもそも入れないけど」

「アンタたちも人間でしょ?」


「僕らは特別にコモド王から許可を頂いたのさ。君は?」


 シルフィードさんの言葉を受けて停止する少女。何かシルフィードさん楽しそうに困らせてる感じだけど知り合いなのかな。


「許可なんて要らないのよ私エルフだしぃ」

「いや人間族の耳してるけど」


「私がエルフって言ったらエルフなの。お分り?」


 全く分からない。困惑していると


「ああ本当だそうだね!」


 とわざとらしくハイテンションで答えて僕の袖を引っ張るシルフィードさん。合わせろって合図か。


「あ、本当だエルフの人だ!」

「でしょ? アンタたち目が悪いわねぇホント」


 フフンと鼻息荒くお澄まし顔で腰に手を当てて傾斜の無い胸を張る少女。僕の棒読み大根役者振りは盛大にスルーしてくれてとても嬉しいよ。それにしても何が狙いなんだこの少女は。エルフでも無いのにエルフって言い張ってるし。


「で、君は何処から来たのかな」

「何処でも良いでしょ別に」


 そこはエルフの里って言わないんだ。ポンコツなのか?


「僕らはカイテンから来たんだけど」

「へー……奇遇ね! 私もカイテンよ!」


 一瞬興味無さそうに言った後突然テンション高く思いついたかのように言う少女。凄い嘘だなぁ喜怒哀楽も凄いし面白すぎるぞこの子。吹き出しそうになるも肘で僕をシルフィードさんが突くので堪えつつ笑顔を作る。ポンコツ過ぎる……彼女が敵なら楽なのになぁ。


「君名前は?」

「私はルナよ! アンタたちは?」


 僕とシルフィードさんは自己紹介してそこからカイテンの話題を振るもはぐらかされる。そこからシルフィードさんは悪ふざけを始め、カイテンのありもしない話を本当のように語りそれを頷きながら覚える様に聞く少女。


「そう言えばミコト人形が首都では最近流行の兆しを見せているのは知っているかい?」

「も、勿論よ! ねぇ?」


「そうっすね」


 この話に一部真実がある。それはミコト”が作った”人形が流行りかけているという点だ。明らかに詐欺の手口そのもので御腹が壊れる。多くの嘘とそれっぽい話、そしてほんの少しの真実を混ぜればあら不思議詐欺の手口の完成だ。シルフィードさんに引っ掛けられないように気を付けないといけないな僕も。話が上手い人はそれを上手く繋ぎ合わせるからのせられてしまう。

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