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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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熱帯雨林に吹いた風

 僕たちが夕食を楽しんで暫く経った時、少し離れた茂みがガサガサと音を立てる。殺気を全く感じないけど食事と会話は止めず何時でも動けるように気を配る。逃げる様にブリッヂスから出てしまったので、ここら辺の生態とかを僕は知識として持っていないから戦いつつ相手を見極めるしかない。


「うう……すいませんご飯を分けて下さい……」


 茂みから何かが這い出て来て消えそうな声で僕らに手を伸ばしつつ懇願する。緑を基調とした凝ったデザインのツバが広いハットに少しボロッとした緑の全身を隠すマントに身を包んだ人物で、顔は煤けていたけど鼻筋が通っていて女性にモテそうな男だった羨ましい。


「何者だ?」

「人を探してたらここに出ちゃって……方向音痴ってマイナススキルはただの嫌がらせだと思うんだけどなぁコピー体だとしてもオリジナルとバランスを取って欲しいもんです」


 カンカンさんと華さんは首を傾げる。僕はその言葉を聞いて何となくこの世界では無いところから紛れ込んだ僕と同じような存在なのかもしれないと思った。


「何かのイベントのお使いクエストですか?」

「いいえ今はイベント開催期間じゃないですからね報酬のアイテムも無いからやらないです」


 あまり変な言葉を使い過ぎても僕までこれ以上変な目で見られたら困るからやんわりと質問してみるとそう答えが返って来て核心に変わる。相手もそのつもりで答えたんだろう。笑顔で茂みから全身を出した後焚火の近くまで来て胡坐をかいた。


雰囲気が何となくこの世界とはズレた感じに見える。僕もこんな感じに見えているんだろうか。


「君は違うよ少なくともウルドはそうしてない」

「何かの都合ですか?」


「目的の場所まで一人では辿り着けないから」


 とても簡潔丁寧に分かり易く教えてくれた。何時だったか夢の中でもうすぐ行くって言ってた人に違いない。そう思った僕を見てその人物は微笑む。


「康久の知り合いか? 君は名は何と?」

「私はクロ……じゃないシルフィードと申します。助けて頂いて感謝します」


 シルフィードって風の精霊か? でもあれって女性のイメージがあるけどなんで男なんだ?


「男がシルフィードと名乗っているから不思議な顔をしてるね」

「分かりますか?」


「元々パラケルススによって生み出された空気の精霊名前だからね。個人的にそう言う存在としてある為に付けたんだ。別に見た目は女性でも良かったんだけど、元の意識的に女性的な部分が一ミリでもあるのを嫌がったらしい。どんな人間にも女性的な部分も男性的な部分もあるのにねぇ」


 やれやれといった感じのポーズをしながら話すシルフィードさん。僕はそう言う話から付けたのかと納得しているもカンカンさんと華さんは首を傾げている。そりゃそうだよなぁこの世界にはパラケルススも居ないし錬金術も無いし。


「ところで貴方達はエルフの里に?」

「……誰からそんな話を聞いたのかな?」


「こんな場所で野宿する人間族がそれ以外で居るとは思えないけどね。修行ならここじゃなくてもいいだろうしさ」

「なるほど、だとしたら何か問題が?」


「そうだね迂闊に行くのは止めておいた方が良いと思うよ? 後二日もすると例大祭が始まるから気が緩くなるし忍び込むなら最適だ」


 その言葉を聞いて僕らは顔を見合わせる。そんな話はブリッヂスでは聞かなかった。但しあのデュマスが追ってこなかった理由がそれだとしたら合点がいく。僕がエルフを助けたって話を出してコモド王が喜んだのは計算外だった……様に見えてそれすらも僕らを先行させる為の罠だったのか。


「嘘だと思うなら二日待ってこの先一日くらい掛けて行った先にあるエルフの里の近くの村に行ってみると良い。別にカイテンを襲撃するって話でも無いだろうし二日くらいは余裕あるでしょ?」


 そう言われると頷くより他無い。迂闊に近付いて閉ざされてしまえば具体的に何が起こっているのか知る術を失くすし、何より竜神教(ランシャラ)竜騎士団(セフィロト)第十騎士団が出張って来てる以上遅れを取る訳には行かない。


エルフ殲滅が成されれば竜は次に何をするか分からない。人を殲滅しにかかる可能性も捨てきれない。


「そうだな。早いに越したことはないが焦る必要も無い」

「ですね」


 ブリッヂスもそうなると竜神教(ランシャラ)にも手を貸し僕らにも手を貸し明らかに漁夫の利を狙っているのが分かった以上このまま真っ直ぐ向かうのは不味い。ホント間一髪タイミング良く表れてくれて助かった。


「僕は君たちの役に立つと思うよ? とてもね」


 そう言って長い髪を掻き上げ耳を僕らに見せると、それはエルフの耳だった。


「エルフが何故我々の味方をする?」

「味方じゃないよ。今エルフの里は完全に錯乱してる。元々自分たちの行いの結果魔術粒子(エーテル)を失い世界樹が死にかけてるのに同胞まで難癖付けて減らし始めてる。何時か滅びるかもしれないけどこういう滅び方は好きじゃなくてね。協力者が欲しかったんだ」


「我々に何をさせようと言うのか」

「僕としては革命なんか起こさせる前に鎮圧したいのさ。もう何千年と籠ったんだそろそろ籠の中で知れる物は無いと気付くべき時だと思うんだよねダークエルフと同じように。世界樹だって元々は竜も翼を休め英気を養っていたのにエルフが勝手に独占したんだ報いは受けるべきだと思うけどもう十分だと僕は思う」


「人にそれを成せと?」


 シルフィードさんは僕を見て微笑む。ひょっとして星の意思に近付く為に必要な行動だと言いたいんだろうか。エルフの里と言うよりも世界樹を助ければ何かヒントが得られるのかもしれない。


「まぁソウビ王にも何とかして来いって言われてますから協力しましょう。エルフの里が瓦解すれば大混乱は必至ですし」


 そう促すもカンカンさんは腕を組んで唸る。暫くしてから二日あるのでその間考えると言いその日は就寝となった。カンカンさんと華さんが先に寝て僕らが警備にあたる。


「どうやら分かってくれたみたいで安心したよ」

「まぁ最初の問答で分かりましたから。目的も僕が思っているので正解ですか?」


「うーんまぁそうかもね。何しろ流れが早くて」


 何かはぐらかされてしまった。何か別の狙いがあってエルフの里を助けろって話なんだろうか。


竜神教(ランシャラ)は月読命一派を吸収し教祖と共にエルフの殲滅を優先している。そこで邪魔なのがカイテンと君だ」

「僕ですか?」


「カイテンの首都にはソウビ王が居て迂闊に叩けない上に君がウロウロして計画を阻んでいるもんだから月読命は大分御冠さ」

「嫌だなぁ」


 ヒスるのは良いんだけど見えないところ聞こえない場所でやって欲しいわぁ。SAN値が削られるんだよねあの顔でヒスられると。


「両方個別に潰そうと筆頭を向けたけど上手く行かず今度は第十騎士団長を差し向けて来た。ただ彼も馬鹿じゃないから今の君を楽に倒せるなんて思ってない」

「となると本体が来る感じですか?」


 僕の問いに笑顔で答えるシルフィードさん。予告してくれただけマシだけどあのヒステリーな顔とお言葉を聞くとなると気が滅入るなぁ。


「僕も協力するから頑張ろう」


 苦笑いする他無い。エルフに対するだけでも面倒だと思ってたのに月読命まで来るのかぁ。出来ればとっとと問題を解決して依頼を受けつつのんびりしたいもんだ。そう思いつつ話を変えて雑談を始めた。


僕の問いにはあまり答えて貰えずこちらが質問される形になる。これまでの出来事を一通り喋る終えるとシルフィードさんは師匠に会ってみたいなぁと呟いたので是非デラウンに行きましょうと言うと、悲しそうに微笑んだだけだった。


不安に思って師匠に何かあったのかと尋ねると無事だよその人間はと言う。何だか気に掛かる言い方だなぁと思いつつ話はデラウンでの生活やカイテンでの生活に戻されて煙に巻かれてしまった。何にしろ一つ一つクリアにしていかないとダメって話なんだなと今はこれ以上の詮索を諦める。

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