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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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いざブリッヂスへ!~執着の先~

「た、助けてくれぇ!」


 馬車で近付く僕たちに助けを求めて駆け寄ってくる人々。


「私はカイテン王ソウビの子ソウコウである! 落ち着いて的確に素早く状況を伝えよ!」


 慌てふためき喚く人々に対しソウコウ様は腹の底から声を上げて一喝するように叫ぶと、人々はあまりの迫力に押されて一旦止まった後、僕たちに情報を教えてくれた。夕方急に見知らぬ黒装束の連中が川岸の町を襲い始めたらしい。


それらは見境なくしかも統率も取れていない為終いには金品を奪い合い殺し合いまで始まりついさっき別の部隊が来て家屋に火を放っていったという。


「分かった。お前たちは先ず急ぎ火事の消化に纏まって努めよ! 野盗は我らに任せろ!」


 その言葉に皆頷き川へと向かい僕たちもその後を追い近付く野盗たちを切り刻んでいく。それにしても数が多い。他の川岸の人たちは大丈夫なのか。


「康久今はここに集中せよ!」


 ソウコウ様はスイッチが入ったのかここへ来る前とは別人のように立派な大将になっていた。僕はその言葉に従い近場から野盗を見つけ次第切り伏せていく。家屋から逃げ出してくる野盗、女性や子供を連れ去ろうとする野盗に金品を抱える野盗。何処かで見たような地獄のような光景が広がっている。


カイテンはこの世界では先進国かもしれないけどそれはこの世界だけの話だ。一歩ズレれば平気でこうした行いをする者たちが沢山居る。生きる為に同族を喰う、獣にも劣る人間たちが。そこに情けは無い。命乞いなど無意味に等しい。


「ひ、ひぃいいいい!?」

「出たぞ! ゴブリンハンターだ!」


「いや竜だ、奴は人の皮を被った竜に違いない!」


 迷いも戸惑いも無く敵をロックオンして切り伏せていく。視界からそれらが消え去るまで僕は止まらない。徐々に僕を見ると野盗たちは抱えている全てを放り投げて逃走をし始めたが逃がさない。逃がしたところで好機とみれば確実に攻めに戻ってくるのは間違いない。


「そうだろう!? オルランド選手!」

「ははははは! 良い光景だろう野上康久! 今度こそ貴様の首を貰う!」


 自らの顔は煤け髪は少し焦げているにも拘らず満面の笑みを浮かべるオルランド。恨みに取り付かれた粘着質な人間の狂気を見ている気がする。良い光景だと本気で思ってそうだなぁ。


「殺しはしないよオルランド選手! 今度は捉えて裏を吐いてもらおうか!」

「抜かせ小僧!」


 馬上から振り下ろされる一撃をいなしてを繰り返す。その間誰か一人でも彼の助太刀に来るかと思いきや見かけた野盗は全て逃げていくしそれ以外も近寄らず別の仕事をしている。哀しいかな人を率いて戦うのに秀でているのに人望が無い。いやだからこそ個の武に拘るのか。


「どうした? やけに梃子摺るでは無いか私如きに」

「暇だから観察しているだけだよオルランド選手。さっきも言ったろう? 生かして捕らえると」


 野盗を全滅させられないのは残念だけど住民の人たちは固まって反撃をし始めオルランドが率いて来た本体も撤退を開始したけどカンカンさんとソウコウ様が追い回している。本体の戦い方とかを見ているとカーマを思い出す。何故だろう……竜騎士団(セフィロト)では無いにせよそれに近い何かを感じる。


言い方は悪いけど何かの実験と言うか経験値を稼ぎに来ているような……。


「オルランド、何をしている?」


 僕らが切り結んでいるところへ黒装束のポニーテールの男が現れた。隙は無くオルランドより腕が立ちそうだ。


「邪魔をするなぁ!」

「命令だ撤退しろ。出なければ斬る」


 無視して突撃しようとしたオルランドの馬の腹に刀を突き刺し馬は倒れその下敷きになるオルランド。刺したポニーテールの黒装束は馬を素早い刀捌きで解体する。それに怯えた後地面を叩くオルランドを見下ろし蹴り飛ばした。


「くっ」


 僕的にはそんな内輪揉めはどうでも良い。どっちかを捕えれば話は解決だ。隙を突いて斬りかかるともう一振り刀を取り出しゴフルアックスの一撃を受け止めた。だけどそれだけだ。僕はその隙に腹へ蹴りを入れると体をくの字に曲げたので更に追い打ちで踵落としを放つ。


ポニーテールの黒装束は地面に叩きつけられバウンドする。僕は尋問する為襟首を掴もうとした。


「康久右だ!」


 その声に反応し飛び退く。僕が元居た位置を通過し壁に矢が刺さる。その間に掴もうとした黒装束は立ち上がり逃走しようとした。


「無理に追うな康久! 第二波が来るぞ!」


 どうやら今日はファン感謝デーのようで更に部隊が土煙を上げてこちらに向かって来ていた。用意周到過ぎる。オルランド以外にも策を講じていたとは。人気者は辛いなぁと煤けた空を見上げながら嘆いた後、第二波へと向かう。


恐らくあの二人を逃がす為の第二波だったのだろう。本体よりも統率も無く腕も無い者たちを殲滅し終えた時、彼らと本体は煙と共に消えていた。


「まんまとしてやられたな」

「はい。一度首都へ戻られますか?」


 僕たちは敵ににらみを利かせる為、川岸の村の入り口に焚火を囲んで座った。防戦を強いられただけで得る物は何も無かったこれが一番堪える。捕らえた者たちは結局口を割らず、本体組の者はその前に舌を噛んでいた。


それだけでも裏に居るのが特別な存在だと言うのは分かる。ただこちらとしては具体的に何なのか言葉で知りたかった。それは贅沢だと言われたけど相手から答えが無いうちは憶測と想像でしかないと言われると反論出来ないしなぁと思いつつ、どうしようもないので今は諦める他無い。


「まさか。これだけ行かせたくないとなれば是が非でもブリッヂスに行かねばならん。態々戻るなど相手の思うつぼではないか? 何よりここより首都の方が手練れは多いのだ。仮に首都襲撃だとしても父上たちで何ともならないのであれば我々が行ったところで何にもならん」


 ソウコウ様の的確な言葉にカンカンさんもそれ以上は何も言えない。首都には王を始めとした強力な布陣が布かれているし警護も万全な筈だ。


「ソウコウ様、戻らないにしてもこの川岸の民と村を復旧しませんと奴らの思う通りになりませんか?」

「そうだな……私もあちらへ行くという目的に拘り過ぎてそれを忘れていた。にしても使者をどうするか」


「でしたら私が参りましょう。愛馬たちなら一両日中には首都に着けるかと」

「そうだな。私たちではカンカンの馬を上手く操れないしそれが良かろう」


 カンカンさんは警護の関係から日が昇ったら出ようとしていたけど、ソウコウ様から一刻を争うと言われて直ぐに首都へ向けて旅立った。


「私たちは警備員として国の兵が着くまでもどかしいがのんびり待とうではないか」

「そうですね」


 その後交代で仮眠を取りつつ朝を迎え、村人たちと共に先ずは瓦礫等の撤去作業を始める。やはりと言うのも何だけど、とても畏敬の念を感じる。子供たちも遠巻きに僕を見るだけで近付いては来ない。


そりゃそうか……敵とは言え同族の亡骸の山を築いた人間だからなぁ仕方ない、とは思いつつも何とも言えない気分を抱きつつ敵の墓を村から離れたところに作る。墓と言っても名前も知らないので埋めた場所に石を置き花を添えるくらいしか出来ないけど。


「死者にも礼を持って接するとはな」

「死んでまで甚振る必要はないでしょう。生前苦しんだでしょうからせめてもの哀悼の意です」


 僕は瓦礫作業を素早くした後で時間を貰い穴を掘り一人ひとり手を合わせつつ弔っていく。腐敗の問題から皆手伝ってくれてその後の時間と次の日は埋葬に費やした。


埋葬が終わると村の復旧作業が本格化する。ソウコウ様は建築にも明るく地面に図を描きつつ村の人たちに説明しながら指示を出し、僕もネットで前に勉強したり祖父ちゃん家を祖父ちゃんたちと直していた経験を活かして木を伐りながら貢献する。


備蓄が尽きそうなので次の日から僕と村の人たち数人で周辺に狩りに出かけ、ソウコウ様は指示を出しつつ近くの村から来た人たちの報告を受けながら作業を進めた。


どうやら僕の奮闘が効いたらしく他の村を襲っていた野盗にも話が伝わり持つ者も持たず逃げ出して行ったようで一安心だ。それでも犠牲者や行方不明者が居るので素早く情報を纏めて首都から使者が来たら捜索願を出す。そこから暗闇ギルドや襲撃者の尻尾が捕まえられるかもしれないからだ。


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