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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
南部地方編

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いざブリッヂスへ!~黒い瞳の先~

 翌朝カンカンさんが起きる前に気持ち良く目が覚めてテントを出ると、ソウコウ様も起きて焚火を起こしていた。今日は朝靄が凄くて前が見えないくらいになっている。


「おはよう康久何か変だ」

「ですよねこれは……」


 ソウコウ様と僕は鼻を鳴らして匂いを嗅ぎこの違和感の正体に気付く。


「なるほど私たちを是が非でもブリッヂスへ行かせたくない連中が居るようだな」

「もしくは時間を稼ぎたい連中が居るとか」


 僕は背負っているゴフルアックスを構え周囲を警戒し、ソウコウ様も剣を二振り引き抜いて構える。


「こっちの方に居ると聞いたが……」


 前方から足音が複数聞こえた後小さな声で喋る声が聞こえた。ソウコウ様と見合い頷きつつ左右に分かれてその足音を挟むように動く。徐々に近付いてくる足音。目を瞑り気配を消して無に近くなるよう努める。


「ぐっ!?」


 自分の前に足音が来た瞬間、腹部目掛けてゴフルアックスの柄を叩き込む。倒れて来たのは人間族だそれも黒装束の。味方ではないと判断し殲滅に移る。相変わらず人は増えてないっていうのにまだ人間同士でやり合いたいらしい。


「不味い下がれ!」


 御丁寧に声を上げてくれたので素早く動き後方へ回り込んで次々に叩き伏せていく。再度前へ行こうとするもソウコウ様に阻まれて切り伏せられ、そう時間を置かずに一部隊討伐完了。


「そう思われますか?」

「暢気に茶でもしに来た訳ではあるまいにこれで終わらんだろう」


 確かにそうだ。だけどこちらから攻めるにしては状況が分からなすぎる。個人的には少しでも情報が欲しいし貴人を抱えながら危険な橋を渡れない。


「一度戻って最初に潰した者を起こして尋問してみましょう。少しでも情報が得られれば動きやすい」

「そうだな。靄の中を暴れ回るには情報の少なさは命取りになり兼ねない」


 ソウコウ様を何とか説得できたようでホッとしつつ得物を収めてテントまで急いで戻る。


「おう二人とも遅かったな」


 一面倒れた人で埋め尽くされていた。カンカンさんは寝起きにも拘らず何故かスッキリした顔をしていて笑いそうになる。ストレス解消出来て何よりですと心の中で労いながらも謝罪をしつつ駆け寄る。


「康久が一人生かしてあるから拷問を」

「はっ」


 事態を重く見てだろうけど拷問からの受け答えまでがあまりにもスムーズで改めて平和な時代じゃないんだと実感する。命を狙う相手の人権を尊重していたら自分の身の安全には程遠い。そんな当たり前を理解させないようにコントロールしている世界はやはり異常だとも理解した。


更に同じ種族だからとなるべく殺さずにいる僕が注目されるのも道理なんだろうなとも思った。法を布いて互いを尊重し奪ったのなら奪った分と等しい罰を受けるような世界になれば世界は平和になるんだろうか……。


「うあ」

「おはよう早速で悪いが用向きを答えて貰おうか」


 近くの木に縛り上げた一人の男は縛り終えると目を覚まし僕らを見て悲鳴を上げる。それに構わず笑顔で挨拶し用件を伝えるソウコウ様。その間にカンカンさんは道具箱を抱えて縛り上げた男の近くへ行くと、男は更に悲鳴を上げる。


「……どうやら鍛え上げられた暗殺者ではないようだな。依頼人は誰だ? 用向きは?」

「言わずとも良いが両手が一生動かなくなるのと引き換えになるぞ」


 カンカンさんは道具箱からペンチを二つ取り出し左右に持って男の目の前で動かして見せる。それを見て男はまた気を失う。僕らは呆れてしまい溜息を吐く。


「暗闇ギルドかなこれは」

「覚悟も無く実力も無くはした金で徒党を組んできている辺りそれと考えるのが妥当かと。如何しますか?」


 ソウコウ様は首を横に振りそれを見たカンカンさんは男に一撃加えた後縄を解き道具箱を片付ける。違う状況なら情けもあったろうけど皇太子殿下を狙うような輩に掛ける情けも余裕も無い。僕たちは素早くテントを片付けて森を抜ける為走り出す。


「康久はどう思う?」


 ソウコウ様に問われて考える。敵がこちらを襲って来たのは間違いない。足止めにせよ阻止にせよあれが前座で恐らく本体は別に居る。そして狙うなら森を抜けてから。そう答えるとソウコウ様は大きく頷く。


「やはり市井にあって揉まれているという状況は大事だと思わんか? カンカンよ。城の温いところに居たのでは落ち着いて対処出来たかも怪しいし冷静に見るのも難しかろう」

「……何と申されましても我々が狙われたとなれば殿下には一刻も早く警護を付けてお帰り頂きます。奴らとて川岸の民を敵に回してまで攻めては来ませんでしょうから」


「さて本体の連中がそう生易しい連中であれば良いがな」


 ソウコウ様の言葉と同じような嫌な予感が僕もしている。僕らがブリッヂスに行く理由はエルフの里の動向を探る為……ソウビ王は暗に何とかして来いって言ってるけど。で、僕ら以外にエルフの里に御執心なのが竜神教(ランシャラ)だ。


隣の国は経済的にもカイテンに引けを取らず宗教を盾に税金はガッツリ搾り取れるから国の身で言えば裕福かもしれない。その資金でこの国の暗闇ギルドに依頼をすればこれくらいは簡単に出来る。更にカイテンにも彼らは根を生やし深く潜んでいる。


「お出ましだ」


 カンカンさんの声にハッとなり前を見ると見覚えがあるけど見たくない奴が馬に乗って道を塞いでいた。肩まである髪をオールバックにし髭を生やした黒い鎧の男。


「御二人とも周囲に警戒を。あの男自分の力はいまいちでも人を操るのに長けている」


 僕の言葉を受けて馬車はオールバックの黒鎧ことオルランド選手へ向けて突っ込んでいく。それを見て顔色を変えて怒り心頭のオルランド選手。変わりようが無いにしても分かり易すぎる。


「無謀にもまた挑みに来たかオルランド選手! それとも友達になりたいと希望しに来たのか!?」

「小僧ぉおおおおお!」


 僕の簡単な煽りにも激高してくれるオルランド選手。何か申し訳なくなってきたな……別に個の武が凄くなくても集団を率いて他の人より戦えるだけで十分凄いと思うんだけどオルランド選手は満足しないようだ。


「オルランド選手の負け! もう来ないでねー!」


 真正面からぶつかる寸前にカンカンさんが身を屈ませたので後ろからゴフルアックスを振るいオルランド選手の得物を叩き飛ばし、カンカンさんの愛馬は彼の馬も吹き飛ばし転倒させて走り去る。

 

「康久、あまり煽り過ぎるのもどうかと思うぞ?」

「いやぁあれで凄い策士なので出来れば頭に血を登らせて貰わないと戦局が難しくなると思いまして」


「そのような人物なら自らウイークポイントを生み出し続けてくれるのは助かるな。沈着冷静狡猾な人物程手強い物は無い」

「僕一人と真正面から戦うのに固執してくれたらと思ってわざとああしました。彼が今何と繋がってこうなったのかも知らないと」


 オルランドが普通の依頼の最中に襲い掛かって来たなら問答無用で切り伏せていた。だけど今は全く違う。暗闇ギルドに関係しているのは間違いないにしてもひょっとすると更に深いところに居るかもしれない。


僕に対して固執し追い続けてくれるなら、何れその糸の先が見えてくるはず。特に彼のこすっからい感じからしてその糸の先も巻き込んで道ずれにしてこようとする可能性もあるから、そうなるとこっちとして面倒が減ってとても有難い。


なるべく団体戦を避け個人戦に持ち込むよう動いて行けば勝機はある。朝靄に紛れて煙でいぶりだしに失敗したら次は森を燃やして来そうで怖いけど。


「……どうやら別の川岸を探さねばなりませんな」


 やっと森を抜けてさぁ川岸と思ったのも束の間、前方からは煙の柱が上っている。


「冗談にしては笑えないレベルだな……彼らは川岸の民すらも敵に回して問題無い連中なのか」

「もしくは一度壊滅させて自分たち好みの配置にするとか」


 以前からの住人が居なくなれば新規参入がし易くなる。そこに自分たちの息のかかったものを多く潜り込ませられれば川岸を抑えられる。首都を攻撃するならこの抑えは十分考えられる。


「オルランド選手とやらは只者ではないようですな殿下」

「うむ容赦なく迷い無く躊躇なく行い更に均して先も見ているなら相当な人物だ。最もそれを今我々が知って黙っている訳も無い。ただ奴らの仲間が仲間ですと言ってくれるなら首都に潜伏している竜神教(ランシャラ)信者の暴徒も容易いのだが」


 唸るソウコウ様に僕らは頷きつつ川岸に近付く。

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