謁見
鷹の目の紳士の後に付いて町中を歩く。皆の視線が集中してとても怖い。まさか上の方だけ疑惑が払しょくされてその他の人はまだ僕を爆破魔とかエルフの女性を連れ込もうとした奴って認識のままなんじゃないか?
なるべく挙動不審にならないように歩こうとして逆に変になってる気がしてならない。手の動き可笑しくないかなとか凄い気になった。
「お帰りなさいませ!」
町のど真ん中にある大きな城の門に着き中へと入るとやっと一息付けた。町からは隔離された神聖な場所って感じの雰囲気で視線も多少マシになる。ただ今度は高そうな服を着た人たちの視線が向いて怖い。貧乏臭いのが紛れ込んで来たなと思われて無いだろうか。
「何をしている?」
「す、すいません慣れないもので……」
ドギマギしながら豪華な廊下を歩いていると鷹の目の紳士の背中にぶつかってしまい直ぐに謝った。ガハハと笑い飛ばされてしまい恐縮するより他無い。こんな豪華なところにしょっちゅう出入りしてる訳じゃないから全てに対しておっかなびっくりしてしまう。
「閣下お帰りなさいませ」
階段をかなり多くの数上がり着いたフロアの一番奥の大きな扉まで行く。警護の兵士の方が鷹の目の紳士に声を掛けて敬礼した後扉を開けた。僕は貴族のフロアみたいなものがあってそこの一室かと思ったけど、とても大きな円のテーブルの奥に背もたれが天井に着くレベルで高く豪華な椅子があった。
鷹の目の紳士は中に入ると直ぐに脇から執事の人が飛び出て来て背広や手に持っていたカバンを受け取る。更に進むと豪華な羽織りと王冠を丁寧に持った侍女の人が出て来て着せる。
「あまり効率的では無いので平屋にしたいのだがな。今更城を改装するにも金も時間も人も掛かるしそっちの方が無駄なのだ。何れこの辺りの土地を均して広げる計画でもあればしたいが、その頃には俺は引退しているだろうからそれ以外の効率化を進めて行く心算だ」
お分り頂けるだろうか。偉い人であるのは何となく分かってたから凄くてギルドの総指令みたな感じの人なのかな、とか……いや、今思えばギルドの総指令は王様だわ……とか思い返している間抜けがここに居る。
どうしよう王様に対して僕結構失礼な感じで応対してた気がするんだけど腹を切れとか言われたら困る切っても死ねない死ぬのと同じレベルの苦痛は受けるけど……。
「なので時間も金も掛からない上に見込みのある人物を登用して昇格させる美味しい状況しかないプランがあるので実行しようと思った訳だ分かるか?」
「は、はぁ……」
「私は非効率的なものは好まないが五年前の乱で多くの重臣を失い今立て直しの真っ最中だ。人はそんなに簡単に育たない。後少なくとも五年は欲しいその為に在野の者たちを自分で見て回っている。首都に関しては真っ先に強化したので私が陣頭指揮を取らなくとも優に機能する。娘たちにも協力してもらって着々と計画は進行中だ」
「それは良かったですね……」
「で、お前は何故さっさと首都に来なかったのだ? 国に協力するのが嫌だったのか? 華の報告もいつも以上に遅いのでお前に対する見極めが必要なのかと思えばそんな感じでも無いし……何やら友人たちと商売まで始めたのでこれは違うと感じて直接召喚しようと思っていたところだ」
「そう言う訳では無いんですけどね」
一々腹立たしい奴に絡まれてる最中だとは中々言えない。アレの話をするとミコトの話もしなければならないし、ミコトが神様だってなるとどうなるか悪い想像しか出てこないので無理なんだよなぁ。
「クニウスの件か」
「ご、ご存じなんですか!?」
僕が素っ頓狂な声を上げて驚いたので王様は豪快に笑う。アイツ一体何なんだ? 見つからないようにこっそり動いてると思いきや思いっきり見つかってるんだが。
「御存じも何もこの国に関わるもので知らないものは無い、ようにはしている。勿論全能ではないので漏れもあろうがああもうろちょろしていてはな。それに分かるのだ似たような力を持っているとな」
「……王様も姿を変えられるとお聞きしましたが」
「まぁそうだが見せるつもりは無い。見せるのは戦場だし生憎戦争を私の在位中に起こす気も無い。あの男がどれだけこっそり動こうがアイツも全能では無いのだから足が付く」
「でしたら何故自由にさせているのですか?」
僕の問いに王様は首を傾げた。そして暫くして
「何故自由にさせたら不味いのだ?」
と問い返されてしまった。単純に聞いているだけではなくお前も話せと言われているのだろう。王様がアイツが竜神教の関係者であるのを知らない筈は無い。それを口にして更に突っ込まれた場合どう返すか。
ミコトの話をするのは論外だ。となるとラティの話をするか……いやそれも不味いだろう竜神教関係者というのを自白しているも同じだ。王様もそこまでは知らない……のかなぁ何だか何でも知ってる気もするなぁ。
「彼が竜神教の関係者だからです」
そう答えると頷いたのを見て心の中でホッと胸を撫で下ろす。
「関係者だから野放しには出来ないから監視は付けている。ただ我が国には信教の自由がある乱を起こさぬ限りはな。これに対して竜神教の乱を経験した民たちは歓迎していない。だが一部の者たちの暴挙を全部だと決めつけて処分しては更なる乱を呼びかねないし連鎖も止まらない。最も奴らは凝りてはいないようだが」
王様の言う信教の自由を皆受け入れているからこそダークエルフや獣族の人たちも自由にこの国で過ごせる。一回規制を始めればあれよあれよと言う間に全てに規制が掛かるのは元居た世界の歴史で見た。自由は本当に難しい。全てが許される訳では無いし、自由を謳歌するなら自由を守る為の行動をしなければならないし……。
「他にも問題はある。お前は何故竜神教に狙われている?」
ですよねぇ……うろうろしてる警戒中の竜神教教徒に接触を繰り返してる隣の国の人間で変身能力がある奴に執拗に付け回されてたら疑問に思うよなぁ普通。僕としては答えに困るけど答えない訳には行かない。
ここで答えなければ竜神教との関係を疑われて国からもアレからも付き纏われる。そうなると目的を果たせない。嘘はつかないで言えない部分を隠しつつ話すしかない。嘘を付くのは苦手だけど省くのは嘘じゃないから大丈夫……だと祈る他無いなぁ。
「以前カイビャクに居た時、私の師匠であるデラウンのギルド長であるショウより首都へ訪問せよという指示があり向かったのですが、カーマと言う町で竜神教の竜騎士団と問題を起こしある人物からこの国へ飛ばされました。その後何処からか生きているのが漏れてしまってその追手です」
大分カッコが入るけど嘘は言ってないよ嘘は。目を泳がせない様に気を付けつつ王様を見つめていると、小さく笑われてしまった。見抜いてるよなぁこれは……これくらい見抜けなきゃ王様なんてやれないよな。
「ほぼ正解だな。穴があるとすれば教祖直系のラティ・ドラグと強い繋がりがあるというところだ」
バレてるよなぁそれは。それに関して僕はリアクションはしない。てかラティってラティ・ドラグっていうのか知らんかった。
「何故気に入られたのかは分からんが砂漠の町で襲われたところを助けたと聞いているし、お前が竜神教と問題を起こしたのもだ。この国での出来事を思ってラティ・ドラグの部分を隠したのも理解する。そして奴ともやり合って首都を護ったのもな。お前に対しての嫌疑は私にはない。隠し立てするようなら何かあるのかと思ったが概ね間違いないので信用する」
後で盛大に息を吐こう。怖いよぉ怖すぎるよぉ誰も居ないでこのプレッシャーに当てられるのは引き籠りに対してとても優しくない。でも何とか乗り切れたのは運が良いのか僕が成長したからなのか。後者であると良いなぁ成長したいしやっぱり。




