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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
首都訪問編

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ルールに則る

「今回は俺の番だ」


 開けて次の日、朝ミコトの手を握り回復を祈った後お仕事を探しに診療所を出ると外には銀髪マウロと大賢者パティア様が偉そうに腰に手を当てて仁王立ちしていた不愉快な。


「アンタはあの子を監視してなさいよそれが仕事なんでしょ?」

「仕事とはなんだ大義と言え」


 僕はウザい二人を無視してギルドへ向かうも喧しく口論しながら後ろを着いてくる。何故こんなに懐いてくるのか理解不能だ。


「あのー、その人たち何なんですか?」

「知らない」


 ギルドの受付に依頼を見せて欲しいと言うと、ファイルを出しつつ尋ねられたので即答で返した。シュリーに似た人はそれを取ろうとした僕の手を押さえ付ける。


「何、まさか僕の手に触りたいの?」

「……息の根を止めますよ? マジで」


 冗談は言ってはいけないらしい。凄い真顔で抑揚なく言われてしまった。どう考えてもあのシュリーの姉妹っぽいんだけどなぁ。てかシュリーは元気だろうか。


「あのですね、ギルドの決まりにも書いてあるんですけど勝手に下請けとかダメなんですからね? 幾ら英雄とは言え報告させて貰いますよ?」

「付きまとわれてるのは事実何だけどどうしたら良い?」


 苛立ちを顔に出し睨む受付。英雄とか言いつつ敬う気は一切ないらしい理不尽。


「勝手に付いて来て勝手に割り込まれるんです助けて」

「兎に角ダメだって伝えましたから」


「助けて欲しいっていうのも伝えましたから」


 そこからファイルの取り合いが始まる。受付は相変わらず凄い形相で向かってくるし怖い。とは言え僕は真実しか言ってないし下請けを出した覚えもない。この付き纏いに対して相談しようにも首都には入れないしどうしようもない。後で文句言われても事実をそのまま伝えるだけだ。


とは言え気持ち良く仕事が出来ないのは問題だ。コイツらにどうにかして冒険者証を発行してもらいたいけど身分がなぁ……。元の世界でもそうだけどルール違反はただ不利になるだけだから選択肢にも上げたらダメなんだよなぁ。ルール違反をして可哀相だからって助けてたらルールを護る必要性がなくなるし、そうなれば秩序が壊れ皆が皆ルール違反をするのがルールになってしまう。


分かっていてもこれもクニウスの仕業に違いない! と言いたくなる。何でルールを基本護ってる僕が頭を悩ませなきゃならないんだ……。


「さてさて今日の依頼はーっと」

「ふむふむやはり護衛ばかりだな楽勝だ」


 最初に二人が居たテーブルではなく端っこの席に座った者の購入した飲み物を持って人の所まで付いてくる。ホントこの能天気だなコイツら。飲み物片手にファイルをぺらぺら捲る二人に対しページを手で押さえて睨みつける。


「何よ」

「何よじゃない。いい加減腹を割って話をしようじゃないか。僕は平穏に暮らしたいんだギルドにルール違反とかで睨まれるような覚えはない」


「フン、自分だけが正しいとでも言いたいようだな」

「ルールを守って仕事をしてきたんだからギルドに対しての姿勢は正しいと思うぞ? お前は僕らの正しいを何でもかんでも否定したいようだが、お前たちの側から見たら正しくないだけだろ?」


「ルールが間違ってたらどうするのよ」

「だからってルール破ってどうするんだ? ルールが間違ってると声を上げてそれに対して証明して見せて変えるのに努めるだろ。革命なんて起こした後その張本人は居なくなるし残るのは革命が起きたって事実だけ。それよりは中からルールを守りつつ変えられるよう賛同者を募れば誰も苦しまずに変えられるんじゃないか?」


 僕の言葉にパティアは反発せず頷く。もっと噛みついてくるかと思ったけど意外な反応だなぁと思いつつ、喋っている間に思いついた。ルールからずれてるなら直せばいい。元々銀髪マウロはマウロ先生の元で仕事をしてたんだから。


「で具体的にどうするんだ?」

「お前の場合は問題無いだろう。そして僕もイスルに住所がある」


 僕ら三人は一旦ファイルを返してギルドを後にし、役所に移動する。銀髪マウロは嫌そうな顔をしていたけどミコトの為にと言って納得させた。パティアに関しては泥を被るのが僕ならもう諦めるしかないので僕の所に住む同居人という状態にする。


ルールはいきなり変わらないので先ずはルールに則った状態にする為の努力をする。何で僕がと思いながらも縁が出来てしまったので仕方ない。


役所では銀髪マウロが証明書の発行をお願いすると、当時を知る人だったのか懐かしい! 元気!? と昔話が始まり苦笑いをしながら応対するのを楽しく見ていた。その後別の課でパティアの手続きをして証明書を何とかゲットしギルドへと戻る。


「これで良いんですよこれで」


 一人で飯食ってるおっさんみたいな言い方でシュリー似の受付は頷いてギルド長に出しときますねと言って下がった。暫くしてから許可が下りたと伝えて来たので早速冒険者証を作る。似顔絵に署名に規則を護ると言う誓約書にサインを終えて晴れて二人とも冒険者だ。


銀髪マウロに関しては何かあれば本人の責任だし、パティアに関しては目を光らせて行く。何だかコイツらと出会って一気に老けた気がするのは気のせいだろうか。まだ二十歳だった筈だけど今何歳なのかな。


「はい改めてファイルをどうぞ」


 笑顔でファイルを出す受付。ったく人の気も知らないで……と思いながらも笑顔で返しつつファイルを受け取り眺める。二人は以前と変わらないものの、僕は落ち着いてファイルが見れるようになって安心した。疚しいものが無いとこんなにも気が軽いとは思わなかった。盗賊とかああいう人たちはそう言うのが無いのかな。


「取り合えず近場で色々こなしてミコトの回復を待ちましょう」

「そうだな。これで資金的にも潤うし宿も良く出来る」


 嬉しそうな二人を見て溜息を吐きつつ依頼を幾つかチョイスして受付に出す。首都からの連絡は無いのが気になる。華さんやアーキさんそれにラフティムお嬢様は元気かな。色々思いを馳せつつ今回は僕と銀髪マウロでセイキへの護衛任務に就く。


この距離なら今度こそ夜までに戻れるだろうしと意気込んで町を出発する。今回の依頼人の商人さんも地方で商売する為の荷物が高価なのでブロンズ以上を希望していて、僕が名乗り出るととても喜んでくれた。こういう時しっかり仕事をしてランクを上げて良かったと思う。


「早速客か」


 銀髪マウロが先導、僕が後方に着きながらセイキを目指していると少しして彼が声を上げる。元々気が早いタイプなので確認する間もなく間合いを詰めて殴り飛ばす。相手を見るとオークが三人組で道を塞ごうとしていた。


この商人さんの荷物について僕らに確認する義務はなく、ギルドで確認しているので分からないから何故オークがこの馬車を襲っているのかも不明だ。ただ馬車を見て襲い得した経験があるから襲って来ただけだろうと思う。


オークやゴブリンと取引している人間が居ないとは言えないし、人間だけでなくダークエルフに獣族も同じだ。良い人悪い人に種族も生まれも関係ない。


「チッしけてやがる」


 悪人でしかない台詞を吐きながらオークの身ぐるみを剥いで道端に転がして放置する銀髪マウロ。まぁ負けたらこっちも身ぐるみ剥がされるんで仕方ない。そのまま道中を行くと、度々襲撃を受けた。短い距離の割にはお値段が良かった理由はこれかと納得する。


首都が近く人が多いから安全な反面それだけ敵にとっても餌が多い場所にもなる。首都近郊は守りが固くても距離が離れれば離れるだけ安全性は低くなっていく。


「お小遣いが増えて良かった……」


 渋い声で中学生みたいな台詞を言いつつ収穫物を引き摺りながら歩く銀髪マウロに対して見えないように笑う。初めて会った時は差別だなんだ言ってたのにそれと比べたら今は別人のようだ。やはり環境と言うのは大切だなぁと思う。


過酷でも皆が肩を寄せ合って互いに尊重し生きる場所に居れば自然と思いやれる気がする。そうしなければ生き残れないから当然だけど、そこへ思い至れるかどうか。ふと”貴族の中には竜神教(ランシャラ)の乱がまた起きて欲しいと願うものが居る”という台詞が頭を過る。


「首都は別世界、かぁ」

「裕福で健康で身の危険が無く安全な状態は退屈を生み退屈は乱を望む」


 銀髪マウロに聞こえたのかそう返してきた。僕はそれに対し溜息を吐きつつ道を急ぐ。

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