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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
首都訪問編

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それぞれの想い

 パティアの言葉を聞いて高笑いをする医者のマウロさん。それに対して怒り心頭のパティア。暫くして笑い終え


「面白すぎて可笑しくなるかと思ったわ。まさか高慢ちきで鼻持ちならないエルフにしっぺ返しに遭うぞなんて言われる日が来ようとはな。お前がここに居ると言うならそろそろ本体も死滅し始めたんじゃないのか? お前たちが自分より家族より命よりも大事にしてきた世界樹は魔術粒子(エーテル)が無ければ生きてゆけない。ワシが考えるに魔術粒子(エーテル)は星や世界樹、エルフだけでは発生しない代物だと考えている。しっぺ返しに遭ったと言うならお前たちエルフ自身の所為だがな」


 そう淡々と静かに怒りを込めてパティアを見ながら捲し立てる。パティアと言うよりエルフに対する怒りだと思う。エルフの代弁者のような感じだしパティアは。


「だったらどうやって発生したと?」


 パティアの問いに微笑みながら黙っている医者のマウロさん。暫くして天井を見上げながら


「可笑しなお前が可笑しな話をしたからワシも可笑しな話をしてやる。魔術粒子(エーテル)は願い想いの欠片だとワシは思っている。こんな状態なら良いという思いの欠片たちがこの星を漂い其々がぶつかり合って運動が発生し、その結果神秘が生まれる。人は絶望し死滅しかけた。人ほど神秘を欲し願いや想いが強い生き物は居らん」


 そうまるで祈る様に優しく語り掛ける。その姿や声を受けて、僕はこの人がこの町でしているのは悪い実験ではない気がした。この人も想い願っているのかもしれない。死にゆく世界樹が復活出来るような世界になって欲しいと。


「マウロさんはそれを発生させる為にここに居るんですか?」

「……そうじゃな。残念な話ワシは聖人とか言われていた時期もあったが出来る仕事は限られている。里を出て無力であるのを痛感させられ続けて来た。ワシは里から無断で持ってきた世界樹の根を使ってこの町の土や水を浄化している。その御蔭で人々は病知らずになった。勿論それだけじゃなく人間の医者や薬草を育てたり医療技術も向上するよう努めてはいるが」


 僕の問いには優しく答えてくれる医者のマウロさん。こんなに人の好さげな御爺ちゃんなのに銀髪マウロは何をしたんだろうか。視線を送ると相変わらず悲痛な顔をしている。


「聖人マウロ……いえマウロさん。私にも是非医術を教えてもらえませんか?」


 急に態度が変わるパティアに驚く僕ら。それに対してまるで揺るがずマウロさんを見つめる。出会った頃から世話しない奴だなぁと思いながら黙っていると


「何が目的かな? ワシの技を盗んだところでエルフは救えぬよ。思考も凝り固まった至上主義者たちは発想も枯渇しその場から動くのすら躊躇う。お前さんは抜け出してここまでこれたから違うのかもしれないが」


 首を横に振りながらそう医者のマウロさんは説く。


「小さい頃からエルフの里で育ちましたから、その教育という洗脳から抜け出せないかもしれません。ですが里をエルフを救いたいという気持ちは嘘じゃありません。例え長く掛かろうと少しずつでも変えて行かないと。だってエルフが関係を絶っても人はこんなにも強く成長しているじゃないですか。このままなら、いえもう既に人はエルフを超えている。私はそれに触れ知的欲求が溢れる度にその事実に愕然とし絶望してきました」

「それを受け入れても尚前に進める気概がもうエルフには無いよ。何れ世界樹は死滅しあの里の加護も消滅する。そうなれば蹂躙されるだけだ。人が蹂躙された時エルフは無視を決め込み里に閉じこもった。人がエルフを助けるなど万が一にもない。まぁこれにはダークエルフたちの仕業もあるがな。だがそれも里の地下から無理やり追い出したエルフの責任だ。今隣の国では人を気まぐれで助けた竜を神と崇める竜神教(ランシャラ)が支配している。竜はエルフを助けない」


 二人は真っ直ぐな目を交わし合い言葉を交わす。僕は良く分からず聞いているしか出来ないけど僕らの町にはダークエルフは居てもエルフは居ないし、この国ではどんな人種だろうと受け入れているのにエルフは受け入れがたい存在に思えた理由が少し分かった。


「兎に角このお嬢さんの件もあるからお前さんは泊って行くと良い。お前さんはこの子を大事に思っている様だからな。お前ら二人は出て行け」

「マウロさん私は」


「マウロ先生俺は」


 パティアと銀髪マウロは何か言い掛けたけど医者のマウロさんは首を横に振って犬を追い払う様に手を振る。二人は食い下がりたかったと思うけど認めないと理解し大人しく診療所を出て行った。


「なぁに心配するな。この町をアイツはよく知ってるから何とかするだろう。お前さん名前は?」

「すみません慌てて名乗るのが遅れました。自分は康久って言います。マウロ先生お世話になりますミコトの件有難うございます」


 僕は急いで姿勢を正しマウロ先生に頭を下げると畏まらなくて良いと言われ二人で病室を出る。診療所の一回の奥には住居スペースがあり、そこで食事をしようと言われた。


「申し訳ありません突然押し掛けたのに」

「お前さんの判断じゃ無かろう? 全く勝手に悪態をついて出て行った奴がワシを頼るしかないなんて悪い冗談だ」


 僕は苦笑いをする他無い。正直銀髪マウロとの話を聞いていいものか迷う。ミコトも知らない訳じゃなさそうだし。


「おい母さん! 母さん!」


 大きなテーブルに備え付けられた椅子に座りつつ白衣を脱いで放り投げると、マウロ先生はそう大声を上げる。暫くしてさっき受付で見た女性が歩いて来た。


「何です大きな声を上げて。患者さんが寝ているんでしょ?」

「あ、先生の奥さんだったんですね!? 先ほどは失礼しました」


 とてもキリッとした女性で背筋もピンと伸びていて年は先生よりも若い感じの美人な女性だ。ミコトの病状が気になってよく見てなかったけど改めてお会いすると佇まいが中々迫力がある。


先生はその迫力に対して物ともせず椅子の背もたれから体を反りつつ顔を向ける。


「患者の連れの康久くんだ。夕食を共にするから何かこしらえてくれ」

「急に言われても困りますが」


「困ってもしょうがない急患」

「あ、あの! すいません他の食べてきます!」


「良いから座ってろ」


 ……二人とも威圧感を出さないで欲しい。大きな溜息と共に奥さんは下がって行った。


「全く型にはまらないとすぐ臍を曲げるのは良くないな。子供らも年食うとああなるのかね」


 僕としてはなんと答えたら良いか分からず苦笑いする他無い。居辛いなぁちょっと。


「お父さん! またお母さん怒らせたのね!」


 暫く先生の愚痴と惚気が混じった話に頷いていると、また奥から甲高い声が飛んでくる。現れたのは三つ編みをした金髪の僕と同い年位の女性だ。赤いワンピースに白衣を着ているからこの人も居者なのかもしれない。


「五月蠅いなぁしょうがないだろう?」

「また始まった! ってどうもすみませんお騒がせして。私この人の娘のマリーです」


「あ、こちらこそ申し訳ありません! お世話になります冒険者をしてます康久と申します!」


 椅子から立ち上がり背筋を伸ばしてから頭を下げる。マリーさんもお母さんに似て美人だし迫力もあるからか防衛本能が働き失礼が無い様キビキビ動く。


「……康久?」


 僕の全身をまじまじと見た後、足元のゴフルアックスを見て手を叩き


「ああ! あの有名なゴブリンハンター!」


 と驚きの声を上げる。たった一度なのに何故ゴブリンハンターになっているんだ……。出来ればあれを専門にしたくないんだけど。てか皆嫌だから僕に押し付けようとしてるのか!? そうだとしたらそれは不味い。誰もあんな集団と戦いたくない。是非訂正して貰わないと。


「いえ、あのあれはたった一度戦っただけでハンターでは」

「ほう、そんなに有名なのかね? 彼は」


「そうよお父さん! この人ゴブリンの群れ百人を一人で殲滅して土に埋めて村を平らにしちゃったのよ!」

「おぉ!? そりゃ凄いな君!」


 ……何処からそんな話になってるんだ? 百人も居ないし土に埋めて平らにしたのは他の工兵の方々なんだけど。僕は何とかその誤解を解こうとするも、マリーさんは興奮気味にお父さんに僕の武勇伝(誇張された話)を語り先生も終いには感激する始末。


どうやらエルフの間でもゴブリンは悪魔の一種と捉えられているようで、先生はさっきよりもより僕に親切になる。

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