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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
首都訪問編

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マウロとマウロ

「そんな話より今日中にイリョウに行かなければ野宿だが」


 マウロが面倒臭そうに言うので上を見てみると空は段々黒く染まり始める。首都からイリョウまでは直線距離で僕らは公道を少し逸れては居るけどそう大きくズレてはいないので急ぎ足で向かう。今荷物は現金のみで食料や野宿の道具は何もない。アジスキも置いてきちゃったので自分の足以外無い。


「このままでは門が締まるぞ」


 マウロの言葉に僕は頷く。僕ら二人は問題無いけどミコトとパティアは問題ありだ。ミコトも強くなったとはいえ戦闘要員ではないし、パティアなんてゼェゼェ言い出す始末。僕はミコトに断りを入れて担ぎ上げた。


「行きましょう」

「俺もそれをやるのかあれで」


 僕はマウロの問いに笑顔で答える。二択を迫られたら当然僕はミコトなんで選ぶ権利は無いし、急がないとと言い出しっぺもマウロなんで諦めて貰う。大きく深い溜息を吐きつつマウロは素早くパティアの所へ行って脇に丸太でも抱える様にして腰の辺りを持つ。


当然のように抗議の嵐があったけど構っている場合じゃない。ミコトは僕の肩に座るも枝が頭に掛かると言うので背負う方に変え、左手にゴフルアックスを引き摺って走る。


「あ、貴方は!?」


 何とかギリギリ間に合って検問に到着した。兵士の人には相変わらず驚かれる。ほぼ荷物も無かったし僕だと分かってスルー気味だったのが助かった。パティアも大人しくしていたのでホッとする。


「ちょっとアンタその子下ろして」


 町を歩いていても視線が向けられる。まぁゴフルアックス引き摺ってるから当たり前なのかもしれないけどと気にしないようにしつつもとても気になりミコトが静かなのに気付かなかった。パティアに言われて慌てて下ろそうとするも返事がない。


路地に移動し銀髪がパティアを下ろした後ミコトを下ろす。地面にそっと座らせて壁にもたれたミコトは息が荒く辛そうだ。僕と銀髪は視線を合わせる。ミコトは普通の人間じゃない。医者に連れて行ったところで何も解決しない。


「早くそのマウロって医者のところ連れて行きましょうよ」


 パティアの言葉は聞こえているけどそれに対して頷けない。彼女に説明する訳にはいかないから。ウルド様の後を継いでこの星の神となったミコトが体調不良になるなんて一体何の影響何だ? 星が影響しているか? こういう時の対処法を聞いておくべきだったと後悔するも後の祭り。気持ちを切り替えて対策を考えないと余計悪くなる。


「連れて行こう」

「え?」


 僕はマウロの意外な言葉に驚きの声を上げてしまう。マウロだってミコトがどういう存在か組織に居たなら分かっているはずだ。普通の医者に診せたって何にもならない。


「急いで早く」

「でも」


「デモもクラシーも無いのよ。私の勘だけどそのマウロって医者、人間じゃないわ」


 この大賢者の適当さに呆れると共に少しイラッとして見ると、何かさっきまでのパティアと違う。勘という非科学的な言葉を口にしつつも真面目な顔で周囲を見ていた。彼女は何かを察知してそう言っていると感じる。


「先ずはその診療所を探さないと……」

「こっちだ」


 マウロが先導するようだ。前にもここに来たのだろうか。パティアは再度僕がミコトをおぶるのを手伝ってくれたけど、相変わらず辺りを見回している。


「早く!」

「あ、はい! パティア!」


 マウロに促され僕は背負いながら立ち上がりパティアに声を掛ける。一緒に走りながらもパティアは見回すのを止めない。何がこの町に隠されているんだろう。


暫く路地を走り大通りへと出た後”イリョウギルド”と書かれた看板を通り過ぎて北へ向かうとその先に”マウロ診療所”と書かれた看板のある建物が見えた。名医だと言うから患者が列を成しているのかと思いきや人の気配がしない。ひょっとして休診日か? と思ったけど恰幅の良い初老の女性が扉を開けて出て行ったのでやってはいるようで安心する。


「す、すいません見て欲しいんですけど!」


 中へ入りカウンターの女性にそう告げると問診票を渡されて記入する。具体的に分かっているなら書きようもあるけど分からないので分かる部分だけを書いて渡すと少し待っててくださいと言われ待つ。


直ぐに呼ばれて扉を開けて部屋に入ると、そこには白髪で頭頂部と両脇にしか髪が無く口髭を生やしワイシャツに黒のスラックス、そして上に白衣を着た御爺さんが椅子に座ってこちらを見た。何故かとても驚き目を丸くしつつ口を開いて固まる。一体何が起こってるのか僕にはさっぱり分からないで途方に暮れていると


「今日は厄日か何かか? お前らを診れるなんて看板は出して無いし今更何しに来た?」


 厳しい表情になりそうマウロ医師は僕らに向かって言う。誰かと勘違いしているのだろうか僕は初対面だしどういう状況なんだろうこれは。


「この子を見て欲しい、ただそれだけです」

「……ワシに恨みを持っていたのに何故また来た。最もそんな連中と一緒なら復讐には丁度良いだろうがな」


 マウロの言葉に対して吐き捨てる様に言う医者のマウロさん。暫く重苦しい空気が部屋の中を漂う。


「何の確執があるか知らないけど医者と名乗るなら診なさい。最もこんなもの医者のやるものじゃないけど」


 今度はパティアが吐き捨てる様に言う。その言葉に対して医者のマウロさんは鋭い視線を向けた。


「この町に来て可笑しいと思ったのよね。まるで病気が起きないように全てにおいて行き届いているし病院がここしか見当たらないそして何よりこの町に病人が誰も居ない。人通りがあれだけあって今の世界の状況からして有り得ない」

「おいおい小娘大概にしておけよ? ワシが何か疚しい行いでもしてると言うのか?」


「人間に対して疚しくなくても私たちに対しては疚しい筈よ? いえひょっとしたら人間にも疚しいかもしれない」


 パティアは帽子を脱いでその耳を露わにするも、医者のマウロさんは全く動じず睨み続ける。


「何だかもう分からないんですけど取り合えずミコトを診てもらえませんか?」

「診たところでどうにもならんが話も進まんから良いだろう、そこのベッドへ寝かせるが良い」


 話が何も見えてこないので僕は割って入ってミコトを見てくれるよう頼むと嫌々って感じの顔をしつつ診てくれる運びとなった。ベッドに寝かせたミコトの熱を見た後上着のボタンを外し始めたところで”男どもは背を向けてろ!”と怒られてしまう。


「疲れと心労と原因不明が合わさったのか熱が出ている。この子の体がその疲れが癒えたと判断するまで意識は戻らん」


 全て終えたのかそう言われてミコトに視線を向けるとベッドの上で布団を掛けて寝ていた。おでこに濡らしたタオルも置かれている。


「何か大きな病では?」

「お前の所見がそうならそうだろう、だがワシはそうは思えん。と言うかそんなものに掛からなくて良いようになっているのではないのか?」


 マウロの問いに医者のマウロさんは知っているかのような言葉で返した。それに対し窮するマウロ。


「嘘は言ってない様ね……データとしては役に立たないようで残念ねマウロさん……いや聖人マウロと言った方が良いのかしら?」


 パティアがそう言うと鼻で笑い答えない。それに対してイラッとしたパティアは口を開く。


「この町で行われている実験は今は良いかもしれないけど人にとって後々悪影響を及ぼすわよ? 私たちが今どうなっているか知っててやってるのよね?」

「医療技術が発達すれば問題無かろう? その為の時間稼ぎだ」


「なるほどね……だけど病院が一つしかないのは発展を妨げてる証拠じゃ無くて?」

「今はまだ学び手探りの時期。そこの奴と違って急ぎ過ぎもしなければ諦めても居ない。小指先程の進みだろうとそれを積み重ねて行くしかない」


「世界樹の根が切れた時に小指程の進みが意味があるのか問われるわね。但し反動があるのを覚悟するべきよ」

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