良い仲間とトレードで厄介者が増殖すると言う不条理というか地獄
「久しぶりですね……」
僕が懐かしく思って声を掛けながら近付き膝を折ると、銀髪眼鏡は苦笑いをした後
「そんなものより一刻も早くここを離れた方が良い。所詮俺たちは厄介者だ」
そう言って鼻で笑い目を閉じる。気を失っただけみたいなので安心し、ミコトたちに視線を向けてから銀髪眼鏡を背負い僕は首都の壁を駆け上がって一旦外へと出る。銀髪眼鏡の言う”俺たちは厄介者”という言葉の真意を聞かなきゃならない。
この力は王様も持っていると聞いた。そうなら厄介者にはならないと思うんだけどなぁ。
「もいもーい……じゃないもしもーじ」
何か所々ズレてる素っ頓狂な声が壁を降りて少し走った林の中から飛んでくる。ずっこけそうになりながら一旦止まり辺りを見回す。だけど誰も居ない。
「こっちでーす、こっちだこっち」
一つ一つ気になる喋り方に引っ掛かりつつうろうろしながら声の主を探していると、少し離れたところでぴょんぴょん飛び跳ねるエルフを見つけた。エルフがそんなに多く居る筈無いと思ってよく見るとやはり僕が助けた人だ。それにミコトも居る。
「どもども非常に助かりますた!」
決して煽ってる訳じゃないのは十分理解している心算だけどイラッとしてしまう不思議。ミコトに視線を送ると何だか様子が変だし気になる問題以外この場に存在しない。
「ミコト大丈夫か?」
「あのですね華って人がら一回外出てくれって、後はやっとくがらって。それでこの子と一緒にでてぎたんです」
うん、非常に伝えたい話なのは分かるけどちょっと待って欲しい張り倒すぞ? と言いたい気持ちを抑えつつ
「ちょっと待っててねーお嬢さん順番」
「お! そりそり!」
怒りゲージを貯めて満タンになると必殺技を出せる仕様なら是非あの野郎に次は必殺技を食らわせてやりたい気持ちで一杯だしそのゲージが今一本貯まった。そんなやり取りをしているうちに変身が解かれて元の姿に戻ると
「おぉ!? 魔人モード終了ですか!? これは珍じい!」
そう言いながらエルフの人は僕の体をベタベタ触りつつ背負っている銀髪眼鏡にもベタベタ触り始めたキレそう。
「魔人?」
「そうでず! 太古の昔から伝わる言い伝えで世界の変革に合わせて現れる通常の姿から条件に合致すると姿を変えて能力を大幅に向上させる人種で死に近い現象を体験した後覚醒した際身に付けられると言われています。力については業が関係しているとも」
そうでず! 以外はめちゃくちゃ早口で機械的に喋るエルフ。オタクか? オタクなのか?
「事実文献において三百年程前にその力を手に入れようと各種族で大規模な実験が行われ多くの命が失われた結果何一つ得られなかったというものが残っていました。現在のヒエラルキーの分布はそう言った愚かな実験の結果でもあるのかもしれません。当初は竜や竜人を倒す為に強大なパワーを手に入れようとして。実に愚かですね」
おいおい最初の雰囲気何処行ったんだエルフ。キャラ置き忘れてるぞ?
「……死に近い経験をしただけではそんな力は得られません……」
今まで静かだったミコトが口を開く。どうしたんだろうミコトは。視線が僕の背負っている銀髪眼鏡に向いていて難しい顔をしているけど何か関係があるんだろうか。
「はいその通りです。それも文献等に記されていました”決して欲して手に入れるべからずそこには死と踊る愚かしさと絶対的な幸運が共存していなければならない”と。貴女はよくご存じですね」
微笑むエルフに苦笑いで返した後銀髪眼鏡を見るミコト。僕は一旦木の側に彼を下ろすと、近くまで寄り顔を覗き込んだ。
「何処かで見た覚えがあるんですこの人」
「組織の人間だからかな」
「いいえ、もっと昔に見た覚えが……どこだったんだろう……思い出せない」
「えーっと、今の状態になる前とか?」
”神様の依り代”として月読命一派に捉えられ仕立て上げられる前かと問うと苦痛に顔を歪ませたような顔をした後、銀髪眼鏡から距離を取り首を激しく横に振る。それ以上は今は問えないと判断し僕は話を変える。
「で、この魔人の力は何か影響があるのかな」
「さぁ? 何せこの三百年私ら外に出てないもんで」
「じゃあ何でここに居るんだアンタ」
「あいどんのー」
肩を竦ませて手を広げるエルフ。女性じゃなかったら怒りゲージ消費してぶっ飛ばしている間違いなく腹立つ。
「取り合えず家まで送ってやるしかないから場所を教えろ」
「それは出来ません。エルフの里を下賤な人間に教える等」
「オッケー分かったあの山の頂上まで行ってお前を投擲してやるからそっから先は一人で帰れ?」
「何と野蛮な!」
「馬鹿かそれ以外どうしろってんだふざけてんのか?」
「責任を持って養ってください取り合えずお腹が空きましたその後暖かな家の中で貴方が死ぬまでぬくぬく何もせずして居られるように希望しますそれと死んだ後に私が自由に出来るだけの貯えも残してくださいね?」
……あのおっさん本当にこのエルフ誘拐したのか? いや違う誘拐したは良いけど面倒になって捨てに行くところだったんじゃないか!? 何かそんな気がしてきたぞ……桃鉄の貧乏神なんじゃないか? このエルフ。
「働けよ」
「出来ませんエルフなんで。働いても良いですけど目立つし貴方がたが大変ですよ?」
人を見下ろす様な視線と首を傾け腕を組んでるその姿が余計怒りゲージを蓄積させる。エルフを免罪符に働かないで食わせろとか……ってあれこれ前の世界の僕に似てね? ブーメラン刺さってる?
ていうか似たような奴がデラウンにも居たぞ……この世界でこういう人種は貴重だよなぁ皆家にほぼ居ないし。何か境遇が分からないでもないので同情してきてしまった。
「いや同情されても貴方と私は違うんで」
「おいミコト、ロープくれコイツ縛ってここに放置していくわ許さん」
ミコトはずっと思い出そうと難しい顔をしつつもロープをくれた。そんなに直ぐ思い出せないだろうけどいつか思い出せると良いなと心の中で思いつつエルフを縛るべくにじり寄る。
「酷い! 人権侵害だ! 自由を守れ! 平等を護れ! あいうぉんとふりー!」
何と言う酷いブーメランだ。口だけは喧しく厚かましい癖に断固他人より働かない人より楽したい楽させろと言う。何の平等か自由かと言えば自分の価値観のみを基準とした”平等”と”自由”。それ以外は侵害であり冒涜であり差別主義者だと。次は国の所為政府の所為社会の所為他人の所為。ああ耳が痛くて死にたくなる。
「はいはい君は現在自由だしそう言うのは御母さんのところでおやんなさいよ。お兄さんたちね暇じゃないのさ急がしいのこれでも。だから大人しく縛られてね? あのお山のてっぺんからなるべく岸が違いところへ放り投げてあげるからぁ」
「え、おっさん」
僕は笑顔でロープを突き出した後この糞忌々しいエルフを縛り上げるべく飛び掛かる僕を避けて逃げ回るエルフ。
「待って! 話し合いましょう話を聞いて欲しい!」
「アホかそういう殊勝な態度じゃなかったろうが!」
「私にだって言い分はあるんです!」
「何だその言い分てのは」
エルフの語る真実なので何処まで正しいかはわからない。それを前提として頭に入れつつ話を聞く。話によればエルフの里を散歩していたところ急な通り雨が来て雨宿りをしていたら眠くなり、気が付くと夜になって森に迷い込んでしまいいつの間にか里を出て人里に出てしまったらしい。
でその里の人はとても暖かく迎えてくれて御飯も食べさせてくれ朝には里に帰るよう言ってくれたらしい。ただその御飯があまりにも美味しく外の文化に触れた結果文献に無い世界が広がっている欠片を知ってしまい知的欲求が高まり里へ帰らないと宣言。
但し先立つ者も無く働く気も無いと言い放ち呆れたであろう里の人たちは困り果てて村の長に相談。村の長も困り近くの町の町長に相談したところ、何かの役に立つだろうと思って養うもあまりのダメさに放逐される。
自由奔放に生きる為に田畑を荒らした挙句お尋ね者になり、困り果てた地方ギルドは捕縛し処遇に困って首都へと連行する手筈を整える。ただあのおっさんはその話を聞いて金になると思って売り飛ばそうと画策。そこに僕が現れたと言う話らしい最悪だコイツ。
「はい極刑」
「何でですかっ! 私は悪くない! 人の世が悪いんです! そこらにあるのなら天然自然のものです! 所有権は世界にある! 私の危機は世界の危機! だから私に罪があるならそれは世界の罪! 人が私を裁くなど烏滸がましい!」
あぁ~これがセカイ系かぁマジどうでもいい放り投げよ。うん決めたわ。
「康久、彼女を許してやろう」
肩に手が置かれたので振り返ると銀髪眼鏡が涙を堪えているのか目を真っ赤にしながら鼻を啜りつつ僕にふざけた提案をしてきた。何処をどう聞いたらそういう結論になるのか教えて頂きたい割とマジで。
「彼女は悪くないっ! 悪いのはこの世界と国と社会と……そして何より人間だっ……!」
あー、ね。分かる~そこでお前たち繋がるんだぁ。くそったれにも程があるわ~無いわ~。涙を流しながら拳を握りそれを僕に見せつけながら熱弁されても殺意しか湧かない。いや待てよ? いっそ面倒だから似た者二人纏めて海へ弊政ジャンプして貰うのはどうか? 厄介者同士何処かで共倒れてくれれば世界にとってこれほど良い話は無いんじゃなかろうか!
 




