実直? な刺客
馬車を止めて早速セイキのギルドへ荷物を届ける為運び込む。やはり首都へのシルクロードみたいなものの中にあるだけあってとても賑やかで順番待ちしている状態だった。一時間くらい並んだ後やっと順番が来て書類を出すと奥に通されまた別の列に並ばされた。
そんな感じであっちこっち並んで漸く辿り着いたところで審査官の人が書類と荷物を手早くチェックしあっと言う間に終了。並んだ時間の方が圧倒的に長かったので物凄くくたびれた……。
「早速宿を探そう」
アーキさんの提案に皆頷いてギルドを後にする。頂いた報酬はあるもののそう贅沢は出来ないので四人部屋に僕が床で寝る感じにした。首都まで何が起こるか分からないから少しでも貯えておかないと。
「……思ったより掛かりますね」
「本当に」
ミコトと華さんはお財布袋の中を眺めた後天を仰いで溜息を吐く。あまりにも安宿だと安眠が保障されない可能性が高いのでそれなりの宿でとなるとお金も嵩む。結局食事と宿で報酬は消えてなくなってしまったので、食事の後僕らはギルドへ戻る。
冒険者証を提出しさっき依頼を完了させた証明書も見せると素早く受けられる依頼書が入ったファイルが出て来た。人が多いだけあって受付も二つあり手続きも素早い。人が並んでいたのは審査官の数が足りないのかもしれないなと思った。
「えーっと次の町は」
「イリョウです」
イリョウ町宛の依頼を探すとここからは護衛の任務がとても多く出ていた。となると道中は盗賊などの危険があるのかもしれない。荷物に関しては少量あるもののサイズが大きくてとてもじゃないけど運んでいけそうもない。
「取り合えず次の町は貯蓄から出しましょう……」
ミコトはとても辛そうに声を絞り出した。ぬいぐるみの利益が出たとは言え自分で販売した訳では無いから儲けはかなり薄いと思う。お給金を出したり販売ルートに乗せてもらう手数料だったりお店に置いてもらう代金だったり色々引かれてだからなぁ。
「今は一刻も早首都へ行かねばなりませんから致し方ありません」
華さんの言葉に頷くも昨日の忠告が気になる。竜神教の乱は鎮圧されたけど地下に潜っただけ。今も暗躍している可能性は大だ。カイビャクのみならず他国まで侵略しようとしているなんて凄い宗教だなぁ。
人間の絶滅を防ぐ為助けた竜はそんなものを望んだのだろうか。人の数を増やして拮抗させるならまだしも互いに食い合えば滅び行くだけなのに。月読命はそれに付け込んで自分の眼鏡に適った人間だけを生かす為画策している。
そういう意味で利害の一致があるから組んだんだろうなぁ。不可侵領域に根城を築いていたのも両国に手が出しやすく他から攻められない場所と言う意味で最高の場所だった筈だ。
それを破壊した僕に対して殺意以外無いだろうしミコトに気を付けろと言われたのはやはり取り戻したい月読命一派と亡き者にしたい竜神教派とが互いに腹の中を探りながら攻めてくると考えられるし、これまで以上に気を引き締めて行かないとならない。
「よっ! 坊ちゃん嬢ちゃん御機嫌宜しいですかねぇ」
僕らのテーブルに不精髭を生やし髪もボサボサ襟足で長い髪を縛ったあまり身なりも綺麗じゃない四十代前半の人が近付いてきた。
「御機嫌は悪いよ景気もね」
「景気は誰でも悪ぅござんしょ? それにしちゃあ身なりもしっかりしていて懐あったかそうじゃありませんか、ね?」
僕の肩に手を置いてそう言った。間合いに入って来たので手を払い除けようとしたけど、相手もそれを掻い潜ってでも置こうとしてきた。時間にして数秒だけど肩の動きとかで小さくフェイントをかけ合いながら最後は手を置かせて安心させた後
「良いでしょう一杯だけ奢りますよ」
僕はその隙に腰に挿していた彼のナイフを引き抜いて笑顔で僕らの間に出して見せた。
「なるほど景気が良い訳だ。ご相伴に預かります! あざっす!」
ギャハハと笑いながらナイフの柄を取って仕舞いつつ僕の肩から手を離し
「流石リベリが追う男だぁ」
とねっとりとした口調で聞こえるか聞こえないかの大きさの声で呟いた。即動いて話を聞こうとしたけどあっという間に消えてしまい目でも気でも追えなかった。
「康久どうしたの?」
「え?」
皆が僕を不思議そうな顔で見ている。態々僕にだけ伝言を残しに来るなんて何者だ? リベリさんを知っているとなると月読命一派なのか? せめて名前だけでも聞ければ……。そう悔やんでいると何かが軽鎧の隙間に挟まれていたので手に取り素早く見てポケットにしまった。
こちらの考えを見透かしたようにその紙にはご丁寧に名前が書いてあった。彼の名はクニウスと言うらしい。妙な名前だなぁと思いつつ大事に一応取っておく。本人の筆跡か怪しいところだけど、そうでないなら何かと繋がる可能性もある。僕としては何者で何が目的か分かれば有難い。
「康久さん、何かポッケから出てますよ?」
「あれ!?」
名前が書いてあった紙はしっかりポケットにしまった筈なのにと思って確認すると確かに締まってあった。皆からそっちじゃないと言われて反対を見ると紙が出ていた。慌てて押し込んだものの寒気がする。
こっちが上を行ったと思ったら二手も先を行かれるとは……苦々しく思いながら皆にトイレに行ってくると告げて場を離れ見えない位置に移動したのを確認してから紙を見たら三手先を行かれていて絶句する。
――竜神教の竜騎士団筆頭。目的は仮神の抹殺――
こんなに正直に書かれているとなると疑った方が良いのかと考えてしまう。あの感じからして全部嘘で月読命一派の筆頭でミコトの確保かもしれない。これを皆には話せないのが辛いところだ。話すとしたらミコトの素性をある程度明らかにしなければならないし、辻褄が合わなければ疑心暗鬼になってしまう。
――他の人間に知らせるべからず。知った者は等しく死を与える――
紙の裏に書いてあった文面は竜神教っぽい忠告だけど何か違うな。過激派っていうのはこういう感じなんだろうか。カーマの町で会った竜騎士団の人たちが穏健派なら彼も穏健派っぽいし……やっぱり宗教は分からんわ。
――穏健派じゃないです――
紙の隅っこに小さく書かれていた可愛らしい文字にキレそうになるも深呼吸して紙を破り捨てた。完全におちょくられてる。明らかに僕より上の人間がミコトを狙っていると分かった以上彼女から離れる訳には行かない。
「康久!」
急いで戻ろうとした瞬間、アーキさんの声が飛んで来て血の気が引く。まさかもう仕掛けてきた!?
「どうした!?」
「どーもどーも」
ちょっと躓きながらも急いで戻ると僕の席にクニウスが座っていた。片手にコーヒーを持ちながらにこやかに手を振っている。名前だけじゃなく行動まで変な人だ。




