いざ首都へ!~セイキ到着~
約一名楽しんでいるようだけど僕からすると面倒な話の真ん中に引きずり込もうと言う黒い手が伸びている気がしてならない。
オルランドは本当にあの武術会の開かれた町の有名人というだけなのか? 本当はもっと大きなところに属しているんじゃないのか? 僕を狙ったのはそこに関係があるんじゃないのか?
浮かび上がる疑問の答えが出ないまま僕らの馬車は心の中とは裏腹に良い陽気の中森の中を走る。
「また新手のお出ましだ」
アーキさんの声に反応し前方に視線を送ると確かにその通り情報屋をゲットした時と同じような感じの盗賊たちが行く手を塞いだ。僕は同じようにゴフルアックス片手に馬車から躍り出るとこれまた同じような反応。
自分のお財布を確認したところ後一人くらい情報屋を雇えるなと思っていたのでまた一人だけ残して後は可能な限り遠くへ吹っ飛ばす。
「ひ、ひぃ!? お許しを!」
以下略。今回はスキンヘッドじゃなく頭のてっぺんで御団子を作っている髪型の恰幅の良いマツオさんて言う人を同じ感じで口説き情報屋として同じ金額を渡して解放した。
当然なら暗闇ギルド絡みだしミッツさんの話はしていないので面白くなるかもしれない。
「何か康久悪い顔してるよ?」
「後ろ向きな上に根性まで悪くなったらと手に負えないんですけど……」
「康久様は案外ダーティな方ですのね……!」
勝手な話をするミコトとアーキさんそして目を輝かせ難解な感想を抱くラフティムお嬢様の言葉に頷く華さんも放置しアジスキの足を考えて森から抜ける手前で野宿をする。焚火を増やして女性陣に寝て貰い僕はそのまま夜通し警護に当たる。
と言うのもミコトは馬車を運転しているから警護は無しだし僕はお肌も気にしなくて良いので昼間寝ると言うと女性陣はとても納得してくれて夜の過ごし方は決まった。
起きていて何かしていると時間はあっという間に過ぎるんだけどこうしてただじっと焚火を見ながら起きているだけだと眠気が隣にずっといて寄りかかりたい気分になる。
寄りかからないのは四人の警護もそうだけど一つ気になる気配がありそれは敵対する気配でもなくただじっと皆の気が眠りに包まれるのを待っているような感じだった。
「おい」
皆の気が眠気に包まれて安らかな寝顔になった後、僕はゆっくりと立ち上がりこっそりと少しだけ距離を取る。用があるのは僕だろうし何か伝えたいんじゃないかと思ったから喋り易い様に気を使ってみた。
「余計な真似をする」
「それはすいません。でも何か伝えたい話がありそうな気がしたんで」
チッと聞こえる様に舌打ちをした人物の声に聞き覚えがある気がしたけど、今は詮索しない方が良さそうなので気にしないでおく。
「癪に障るがお前の為では断じてないので忠告しておく。首都に気を付けろ」
「曖昧過ぎて分かりません」
前の世界で一瞬だけアルバイトした経験があるんだけどその時曖昧な指示で分からないのに質問して怒られるのが怖くて分かりましたと言って結果怒鳴られ続けたのを覚えているので、こういう感じの人にはここで怒られても何故分からないのか付け加えた上でハッキリ言った方が身の為だと学習したので実践してみる。
「全くいけ好かない野郎だ……だが良い。首都はお前も分かっているだろうが未だに地下では竜神教が根強く生きている”地下”でな」
この人は親切な人なんだろう分かり易く強調してくれた。地下、というのがキーワードなんだろう。ここ最近僕らが首都関連で知りうるもので地下と言えば一つしかない。
というかこの人は何でそれを知っているんだろうかという大きな疑問が引き換えで生まれたんだけど、聞いても今は言わないだろうから黙っておく。
「臭い物はお互い近寄る性質があるらしい。それにそう言うものは綺麗なもの眩しいものも等しく目の敵にする習性も同じようだ。ミコトに気を付けろ」
一番最後に伝えたい言葉を残して気配は去って行く。一目姿を見ようと隙を窺ったけどまるで見せなかった。ミコトの知り合いとなると月読命一派の人間なのかな……そうだとしたら僕は明確な敵だと思うんだけどどういう立ち位置の人なのか思い当たる人が居なくて困惑してしまう。
結局その後は何もなく隣に居座り誘惑してくる睡魔と戦いながら夜が明けるのを待つ。こういう時鍛錬でも出来れば良かったんだけどモンスターや動物を寄せてしまうので出来ず、これまでの旅を自分専用のメモに書き出してみる。
「おあよう……」
中々これまでの旅を自分自身で振り返るのは悪くない。あっという間に陽が昇り暗闇が晴れて朝露に濡れた葉が輝きだすと四人は寝ぼけ眼でテントを出て来た。ラフティムお嬢様も女性陣と一緒だったのが良かったのかしっかり睡眠を取れたようで何よりだ。僕もメモに書き出していて目も頭もしっかり冴えている。
メモは四人に見つからない様素早く上着のポケットに忍ばせた。これは僕の大切な思い出の品であり宝物になるかもしれない。主観で書かれてるから誰にも見せないけど何れ目的を達成し引き籠れたら本でもだそうかな整理し直して。
そう考えると僕も副業の芽があるじゃないかこれは良い夜の過ごし方だったと自画自賛していると四人に不審な目で見られて咳払いし天気の話をして気を逸らす。
その後片付けてセイキへ向けて出発した。僕は何かあった時の為に仮眠を取るべくお手製のアイマスクを嵌めて荷物を枕に横になった。こうしてガタゴトする中で寝るのは何時振りかな。
都会から祖父母の家に映る時に乗ったバスの中以来かな。田舎にありがちなデコボコ道で最初は死ぬかもと思いながら座席にしがみ付きハラハラしたものの、バスの運転手さんの運転捌きは神がかってた気がして暫く揺られていると心地良くなり気が付くと終点まで寝ていたのを思い出す。
「着いたよ」
その声にハッとなり目を覚ましアイマスクを取り立ち上がって周囲を警戒してしまう。で、よく見ると町中で皆が僕を注目してしまい急いでしゃがむ。それを見てうちの女性陣はとても楽しそうに笑うので穴があったら入りたい状態である。
暫く町の中を進むと冒険者ギルドと書かれた看板の付いた建物の裏手に止まった。デラウンと同じく町以外の冒険者は大体冒険者ギルドの裏手に留めるようにと入口の兵士の人に言われたとミコトが教えてくれた。
それだけでとても懐かしい気分になる。遥か遠く我が故郷のような町デラウン、なんてね。何かに使えるかもと懐から目をも取り出し皆に見えないように素早く書き込んでまたしまう。そう言えばこの世界に来て本らしい本を見ていないから首都に言ったら是非そこら辺も見てみよう。
この世界のベストセラーとかあれば是非読んでみたいし。まぁ紙の普及が娯楽として広く供給されるレベルまで来てないからベストセラーは難しいのかもしれないけど。




