いざ首都へ!
明けて次の日、僕らは準備を整えて鍛冶屋にアジスキを迎えに行きその足でギルドへ荷物を受け取りに行く。そこで審査官の人と一つずつチェックをして互いに間違いないと言うサインをし審査官の人からセイキの町のギルドへ提出する用紙を受け取りそれも確認してサインする。
荷物を積み終えてそのまま出発したいところだけど本命はそっちじゃない。本命の報酬が少ないからこそ他の依頼も受けていると言う悲しい事実を改めて思い知ったところで病院へと向かう。病院で受付を済ませ待っていると、奥からお嬢様が看護婦さんに連れられて出て来た。
前までは御付きの者たちが居たけど今は逃げだしたのもあって一人だ。ゴブリンたちに鎧も取られ服も殆ど無いので僕が三人に頼んで幾つか用意した。前に見た時と全く違い顔色は悪く看護婦さんに支えて貰わないと歩けなくなっている。
「心の問題だからそう直ぐにはどうにもならんから時間を掛けて自分で何とかする以外無い。我々に出来るのはそっとしつつも側に居てあげるだけだしな。勿論リラックスさせようと色々したけど」
オールバックで痩せこけたお医者さんは白衣のポッケに手を突っ込みながら肩を竦めてそう言いつつ特に注意するものは無いと言われた。何れ恐怖と向き合い克服しなければ前に進めないのだから態々出向くのはお勧めしないけど山ほどいるゴブリンを避け続けるのは厳しいとも。
僕の元居た世界だってこんな状況の彼女を助ける術なんて無い。出来るだけ手助けしつつなるべく早く心休まるだろう家に送り届けてあげるのが良いと思いそのまま彼女を抱きかかえて馬車に載せて町を出る。
いつもだけど兵士の皆さんは僕の荷物のチェックの番になるとビシッと敬礼した後更に一礼してから荷物を検めるのが堅苦しくて何とも言えない。全てキッチリ確認した後ビシッと敬礼して送り出される。
町の有名人でも手は抜かずしっかり仕事をしている姿を見て安心しつつも僕を見る目が眩しいので笑顔で手を振りつつミコトに早く行くよう促す。
運転席にミコトその隣に華さん荷台には僕とアーキさんとラフティムお嬢様が座っている。幸いにも天気はとても良く馬車を走らせながら流れる風も心地良い。ラフティムお嬢様を見るととてもそんな気分にはならないまでも、さっきよりも安心しているようで僕に寄りかかりうたたねを始めた。
馬車はイスルから武術会の行われた町に差し掛かる。僕はお嬢様に肩を貸しつつ周囲を警戒するべく槍を握る。ゴブリンスレイヤーも持って来てる……んだけどお嬢様の手前名前をゴフルアックスと変えた。ちなみにゴフルとはゴブリンを屠るを縮めてみたんだけどネーミングセンスも欲しいなと思う今日この頃です。
「今のところまだ穏やかだね」
「そうですね。ここからセイキまでの道も輸送ルートとして整備されていますからそんなに危険は無いと思います」
それを聞いて安心したいところだけど残念ながらそうもいかなくなる。僕たちの行く手を遮る集団が出て来た。明らかに分かり易い悪者の顔をした人たちで狼を従え得物を片手に薄気味悪い笑顔で近寄って来る。
相手する他無いと思ってお嬢様を荷台にそっと寝かせ近くにあったゴフルアックスと槍を片手に馬車から飛び出す。
「……おいコイツ……」
「ああ間違いない……ゴブリンを一人で虐殺した奴だ! あの手の斧がその証拠だ!」
「クソッ騙された! 何が楽な仕事だあんな鬼に勝てる訳が無い!」
事実だからそれは良いけどこの斧ってそんな有名なのか。そのうち持ち主が出てきそうな気がしてならない。複雑な気持ちを抱きつつ斧の中心で盗賊っぽい悪者たちをアーキさんと一緒に一人残して他全員吹っ飛ばしていく。少し抵抗してくれた方が後味が悪くないんだけど皆逃げようと仲間の足を引っ張る始末。
その点狼たちは主人を護ろうと立ち向かって来たのは偉いなぁと感心しつつやられる訳にも行かないので手を抜いて遠くへ放り投げる。残った一人は斧の話をしてた人で逃げようとしたところを斧で吹き飛ばし木に激突させて終わるまで気を失ってもらっていた。
一旦目を覚ましたものの僕を見て再度気絶。面倒なので縛り上げて馬車で移動しつつ目が覚めるのを待つ。お嬢様も目を覚ましていたけど怯えずちょこんと座っていてこういう連中は平気らしい。
「ひっひぃ! 御助けを!」
再度目を覚ますと悲鳴を挙げ逃げようと藻掻いたものの逃げ出せず荷台の床に突っ伏す。それを見てお嬢様は可哀相にと言う感じで目を背ける。自分も似たような状況になった覚えがあるから同情しちゃったのかな。
「助けてやるから生かしておいたんだよ? 分かるよね?」
「な、何が目的なんすか!?」
「そりゃ決まってるよ君たちの目的だ。まさか今更行商人目当ての盗賊行為だなんて言ったら彼のあの斧で絶命するまで頭殴り続けるけどどうする?」
凄いなぁ背も低く顔も怖くない威圧感なんて微塵も出てない僕が脅迫出来る存在になりえる日が来るとは。アーキさんが盗賊の襟首を掴んで起き上がらせ目が合うと僕を見て怯えて腰を抜かしたように荷台の枠に体を預ける。
それから盗賊は観念して自白を始めた。最近地下で暗闇ギルドなるものが誕生しうだつの上がらない冒険者や犯罪を犯して罪を償った後も更生しないもの、更生する気が元々無い者や賞金首が集まり徒党を組んでいるようだ。
この盗賊の集団も元々仲間ではなく搔き集められた人たちで暗黒ギルドから依頼を受けたらしい。この場所を通る男一人女四人の一行を襲い男を殺せば金十枚女を連れ去れば更に金三十枚が貰えると。……女性四人?
僕が首を傾げていると何故か三人が真顔で僕を凝視している怖い。
「ま、まぁ良いや。それでその依頼主は?」
「い、言える訳ねぇだろ!? 仲間を売ったと知られたら俺ゃもう御仕舞だ!」
「……この期に及んでまだ無事でいられると思うのが素敵ですね」
「全くですね。町に着いたら即座にギルドへ突き出しますから覚悟してくださいね」
「そ、それだけは! それだけは勘弁してくれ!」
この国はギルドが主軸になっている。それ故にギルドの掟を破ればとてつもないペナルティがあり普通はしない。犯罪抑制の為にも厳罰を持って臨んでいる為ギルドの掟も国の法も厳しい。
ただ反省の意思があったり更生する気持ちがあればチャンスはしっかり与えてくれる。それを知らない筈が無いとなるとこの人は常習犯なのかもしれないな。
「だったら御話出来るよね? どこの誰の依頼で僕らを襲ったの?」
「わ、分からねぇんだよ! これは誓って本当だ! 暗闇ギルドは町の地下や街角で接触して依頼を貰うんだが何処の誰からとかは万が一の為に内緒だ!」
これは本当だろうなと思った。集まっている人間からして全く信用出来ないのだからそれを明かす必要性は無いし、その分お金で釣れば聞かずに受けると僕でも分かる。




