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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
首都訪問編

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偉い人と侯爵の話

「明らかに怪しい依頼とか不当な依頼とかはあっさり排除出来たしギルドから厳重警告も出せて良かったんだけど。私の顔だけじゃなくギルドの看板に泥を塗りたくった挙句この町に唾まで吐いた側が地面に頭を擦り付けて頼んだそうよ」

「その通り」


 デラックさんが苦々しい顔をして現れる。どうやら首都に居る偉い人のところにお嬢様の父親が来て土下座をして警護を頼むと行って来たらしい。その偉い人は詳細を知らないので分からない話には応じられないと突っぱねると渋々例のゴブリンで腕試し隊の話をして呆れ果てられたらしい。


竜神教(ランシャラ)の乱は現場とそれに近い上層部それに王にとっては改めて気を引き締める出来事だったがそれ以外の貴族などにとっては功績を上げるチャンスとしか映っておらず、その功績すら自分の部下に取らせるような連中は何ならまた起きて欲しいとすらうそぶく輩も居るレベルだ」


 要するに環境の良いぬるま湯である首都に居ると現実どころか足元すら見えなくなるようで。お嬢様の父親の言葉を聞いた偉い人は返事の即答を避けたものの、厚かましく連日来るものだからいよいよ鬱陶しくなってうちのギルドに協力要請を出したという。


「デラックも私も当然断りたかったけどね、どうしても頼むと言われたら断れない訳よ。華の顔も見たいと言うし」


 その言葉に華さんは何かに気付いたように声を上げる。華さんもその偉い人を知っているんだろう何かの調査でこっちに来たみたいだし。


「それは断りようがありませんね……ですが康久殿である理由は何でしょうか」

「好みじゃないの?」


 その言葉に場が凍る。寒いどころか暖かな陽気の日なのに冷たい風が吹いた気がするくらいの冷え込みがラウンジを襲う。僕としてはその偉い人の好みって言われると色んな意味で嫌だなぁ近付きたくないなぁと思っただけなんだけど他に何かあるのだろうか。


「端折り過ぎだリュウリン。上の方からの指名なんだよ噂の冒険者を寄越して欲しいと」

「噂程度でそのめんど……じゃない大事な侯爵のお嬢さんの護衛を僕に任せるんですか?」


「上はどうしても君に連れて来いと言っている。余程気に入られたらしい」

「会った覚えも無いのに気に入られるって怖いですね……」


 首を傾げる僕を何でか苦笑いするリュウリン女史とデラックさん、安心してほっと息を吐くこっちの三人。良く分からん空気しか流れていない換気が悪いのかなここ。


「悪いがこれは断れる依頼ではないんで受けて貰う他無い。何より我々が断りたいというのはさっきも言った通り。報酬についてはふんだくるつもりだから嫌だとは思うが宜しく頼む」

「そう言う話よ。まぁ功績にもプラスされるしただ首都へ連れて行くだけだから問題無いでしょ? 置いてさっさと帰ってくれば良いんだし」


 申し訳なさそうな顔のデラックさんと面倒臭そうに言うリュウリン女史を交互に見ながら、どうあっても受けなければならないのかと諦めて受けると答えた。僕は二人を一応信頼しているしこの件に関して言えば関わったのもあって指名も仕方ないと自分の中で納得も出来たからだ。


「これはさっきお嬢様と話してリクエストをされたんだが、出来れば例の森を抜けずに迂回して首都へ行って欲しいとの話だ。流石にトラウマになったんだろうな」


 それを聞いてリュウリン女史は舌打ちこそ打たなかったものの打ちそうな顔をして人差し指でテーブルをガツガツ突いた。何故かうちの三人もそれを真似て同じくやるのでテーブルが粉砕するんじゃないかと心配になってくる。


首都へ例の森を迂回して行くとなると迂回しないルートよりも一週間以上差が出るらしい。それに関しても料金を上乗せしてくれるとも言われ良かったと胸を撫で下ろしながらミコトを見るも目が座ってらっしゃるので僕は直ぐに視線を逸らした。


「ちなみに康久一人でも構わないとの話だ」

「「「誰が?」」」


 食い気味で三人が問うとリュウリン女史がやれやれって感じで天井を仰ぎ見る様に椅子にもたれて座る。暫く場の空気が固まった後ぎくしゃくしながら動き始めたデラックさんの話によると全員の意見で僕一人で構わないと言われたらしい。華さんの顔を見たいというのは別で先に来るようにとのお達しのようだ。


「ま、まぁこれには情けない話と胃がムカムカする話などが入っているが聞きたいかい?」


 そう言われて僕は察せたけど三人は聞かせるよう要求したので皆でテーブル中央に顔を寄せ合い小声のデラックさんの話を聞く。簡単に言うと侯爵家に関しては今回の件も含め横着と適当が過ぎるので国から監査が入り手持ちのお金が無いと言う話だ。


本来であれば自分の雇っている人間を向かわせたいけど今回の件で残った者すら逃げだし今は居ない。お金が無きゃゴールド帯は雇えないけどシルバー帯でも下の方の人間を護衛に付けるのは侯爵家としての名誉に関わるというメンツの部分もある。


これはお嬢様の家というだけでなく国の上層部の一つである名誉ある爵位の価値が下がると褒美などにも使い辛くなってしまうのを防ぐ意味もあった。人口は少ない上に人が保有できている土地もまだそんなに多くないので土地を与える訳にも行かないと言う国の苦しい事情もあるようだ。


例のゴブリンのように自分から喧嘩を仕掛けてくれば殲滅してその場所を人の物へと塗り替えるのも可能だけど、原生林や不可侵領域付近にイスル南草原など互いの境界線を護っている場所を無理に切り開いたりはしないのがこの国の方針でもある。


危険地帯をある程度切り開いてはいるもののそれを全て割り振り好き勝手にはさせていない、だけど功績に対して報いなければならない。そこでお金以外に爵位を与え重用し国政に携われるようにしていたので、侯爵家が軽く見られると国も困るのだ。


「我々下々の者にはどうでも良いメンツの話よ。ホントそう言う面ではギルドは良いわ~分かり易いもの」


 リュウリン女史はだらしない格好をしながら吐き捨てる様に言った。ギルドだけで国は成り立たないしそれに手を加えるよりただでさえ今少ない人口を増やし敵対種族などを殲滅する方が生き残る為に優先しなければならない、と皆分かっているのが辛いところだ。

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