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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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傷痕

――ごめんね康久――


――でももう終わりにしたいの……一人で逝くのは寂しいし義母さんも可哀相だから――


 夢の中で顔がぼやけた誰かが僕に向かって辛そうな感じで謝っていた。僕はそれを朦朧とした意識のまま聞くだけしか出来ずその涙を拭えもしない。とても懐かしく温かく求めていたような気がする匂いと声。


意識が失われていく間体がジリジリと焼けていく。痛くて目を覚まそうとしても覚ませずただ焼かれていくだけだった。


――康久しっかりしろ! まだやりたいものがありだろう!? くそっ! 久し振りに家に帰ってきたと思ったら心中とか何の冗談だ! 今まで育児もお袋たちに任せっぱなしだったくせに!――


 何度となく焼かれ続け息苦しさと痛さが交互に繰り返される中で何万回目かの時にこれまた懐かしい声が聞こえた。初めて聞く泣きそうな声にこちらまで泣きそうになるも声すら出ない。思えば人を泣かせるのが多い人生だったなぁ……。



 熱さと息苦しさから逃れたくて藻掻いていると目が何とか開いて安心して深呼吸をする。空気が美味しい。天井が見えた後視線を感じてそちらを見るとデラックさんが目の前で作業をしていて慌てて挨拶をする。


「ああおはよう、とは言えもう陽は真上に来ているが」

「す、すいません寝入ってしまって」


 生きているのが不思議な感じがして手を握っては開きを繰り返す。生きている気がする……けどなんだろうあの夢のようなものは。痛さや苦しさが繰り返され命尽きるまで終わらない気がした。


僕は何故この世界に来たのか、どうやって来たのか。全てがまるで違う世界で本当に生きているのか?


「大丈夫か?」

「あ、はいすいません」


「一日経ったところでどうなるようなものでもない。冒険者とは死の危険が近い職業であると同時に多くの人の命を守る職業でもある。特に人類の方が少ない状況では敵の方が圧倒的に多い。我々が漸く攻勢に出られたのもごく最近でそれまでは君がみたような光景は当たり前にあった。絶滅寸前だったんだ冗談に聞こえるかもしれないが」


 正直夢と言って良いのか分からない寝ている時に見たものを振り返っていて全く頭に入ってこなかったけど、昨日の出来事を思い出し僕が葬ったゴブリンたちの目を思い出すと僕も苦しませずに一思いにして欲しかったなぁと考えてしまい頭を振る。


嫌だなぁこれじゃあまるで僕が向こうで死んだみたいじゃないか……。


「命を奪うのに慣れるなどない。くだらない話だがこの期に及んで尚人間族同士の戦いすらある始末だからな。君も耳が腐るほど聞いているし嫌な目にもあったろうが、竜神教(ランシャラ)の乱などが良い例だ。本来竜神は人同士の争いをさせる為に助けた訳では無いだろうから嘆いているんじゃないかと私は思うがね」

「そ、そうですね……」


「まぁそれはさておき、君が落ち着くまで隣の待機所の一室を整理したので使ってくれ。我々の命の恩人である君には心を尽くさせてもらいたい。兵士たちも喜んで協力してくれたのだから気兼ねなく居てくれて良い」


 デラックさんのお言葉に甘えさせて貰いますと言って部屋を後にしその待機所の一室へと向かう。窓とベッドそれに小さな台のみの簡素な部屋だったけど、今は豪華な部屋より落ち着く気がする。壁の色も白ではなくクリーム色のような落ち着ける色をしているのがまた有難い。


改めて寝ている間にみたものを思い出そうとするも全く思い出せなくなっている。あれは僕がこの世界に来た切っ掛けなんじゃないか。苦しくてもしっかり思い出さないと……いや思い出してどうなるんだ? それを解き明かしたとして帰りたい? 帰れる? 帰ってもそこに誰も居ないなら何の意味もないんじゃないだろうか。


自問自答は堂々巡りで結局進展も無く日が暮れていく。今は思い出す必要が無いのかもしれない。何れ時が来れば思い出すだろうし今は無理なようなので考えるのを一旦止めておこうと思った。


その後部屋の扉がノックされたのでどうぞ、と答えるとサスノ隊長が御飯の時間だと僕を呼びに来た。お言葉に甘えて御呼ばれするべく屯所の食堂へ向かうと、僕が入って来た瞬間皆が敬礼して出迎えてくれたので敬礼して返す。


皆と少し離れた場所にあるテーブルに座り暫くすると栄養のバランスが考えられた食事が運ばれて来た。仕事柄もっと好きなものを好きなだけ食べているのかと思ったけど、体が資本だから体に良い物を取っているんだなぁと感心してしまった。


「俺たちも長生きしたいのだ。お前さんの御蔭で今日食事を味わえる者もいる。それだけの働きをしてくれたんだから豪華な食事をとも思ったんだが」

「いやこれで十分ですよ。町を護る皆さんと同じ食事が食べれて」


 すまなそうに言うサスノ隊長に対してそう答えると、聞き耳を立てていた兵士の人たちが拍手をし始めてちょっと引く。全然大した言葉を発してないのに拍手されても困るなぁ。これずっとこうなんだろうか。


「皆心配していたのだぞ? お前が気に病んでいるんじゃないかと思って」

「気に病まない訳はないですが、皆さんの命を一つでも多く未来に繋げた訳だしゴブリンたちの選択は共存拒否なので致し方ないです……とでも考えて言わないとやりきれませんよね実際」


「だな。互いの正義や生き方がある。我々人間族を好んで餌にしている相手に対して対話など無意味だ。対話の可能性が残っているのなら最初からしているしな」


 それは最もな話だ。人間同士ですらそうだろう。相手を支配すると決めている相手に対して対話を模索するなんて支配してくださいと言ってるのと同じだ。翻意するならもっと前に接触し対話を図るだろう。そういう結論に直ぐ至らないのが日本人的思考なのかなぁと思ってしまう。


「優しさは互いに思いやれる相手にしか意味が無い。そうでなければ食い物にされるだけだ。優しさを向ける相手を間違えてはいかんよな。優しさが本当に必要な人に届く為にも」

「その通りですね」


 日本で暮らしているとどんな相手にも優しくするよう言われて育つのでそう思いがちだし、自分の意見を主張すると五月蠅がられるような風潮があるからし辛いけど、優しさに付け込んでくる相手も当たり前に存在するし言わなければ了承していると勝手に取る相手も存在する。


エスパーでは無いのだから喧嘩腰の言葉のぶつけ合いや相手を否定するところから入るのではなく、あくまで討論する意見を交わし合い言葉で少しでも分かり合えるようにという方向になればなぁと今思わなくもない。


親父とは結局分かり合えなかったなぁ言葉数は少なかったから何を考えているのか分からなかったし。

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