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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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ゴブリン討伐戦その三~終焉の命煙~

正直他人だったり数年後に誰かから聞いたら笑ったようなレベルの行動をしていた彼らは、当たり前のようにゴブリンの夜襲に掛かり半壊、お嬢様は連れ去られたという。サスノ隊長率いるイスル兵士の人たちは罵詈雑言を言いつつも急いで支度を整え捜索の為出陣する。


僕も槍を片手に皆と共に草原から森に変わった中へと入る。いつどこから仕掛けられても可笑しくない。見つかってターゲットにされれば集団で追い回されあっという間に死ぬ。


「シッ!」


 視界に入ったら即命を絶つ。後方から来る工兵とその護衛の人たちは前衛と中衛が倒したゴブリンの遺骸を手早く土の中に埋めながら退路を確保しつつ進む。徐々に血の匂いが混じった風が前方から吹いてくると、中には竦んでしまう兵士も居る。


そりゃそうだ同じ種族の血の匂いで無くとも愉快な気持ちにならないのに、本能が危険を知らせるのかそれが同じ種族の匂いだと告げるので酷い苦痛となって襲い掛かってくる。これがよく小説とか漫画で見た死の予感なのかもしれない。


僕は彼らより前に全速力で出てゴブリンの群れを粉砕する。決して動きを止めるものではなく確実に致命傷になる様に。


「全員突撃用意! 必ず生きて家族や仲間の元に帰る為に情けを捨てて鬼となれ!」


 森が明るくなってきた。近くにゴブリンの村がある。サスノさんは全員を鼓舞すべくそう叫ぶと皆気合を入れ直し武器を構え直す。歩きながら血の匂いに近付いていく。想像よりも酷い光景が広がっているのは間違いない。だけど竦んでいてはそれと同じ物体になってしまう。


「全軍突撃! ゴブリンを一人残らず狩りつくせ!」

「仲間の無念を一つでも晴らす為に!」


 僕はサスノ隊長の号令に続くよう、また自分の想像を吹き飛ばす為に腹から叫び突撃する。サスノ隊長の横を並走しつつ先陣を貰う。木の雑な門を蹴破ると控えていたゴブリンたちも門の下敷きになる。その上を走り村へ突入。


村の至る所に遺骸を張りつけにしたり焚火で焙ったり骸骨が並べられていたり、また女性が横たわるところにゴブリンの子供が集っていた。目を背けたくなる光景だけどそれを終わらせなくてはならない。


「でやぁああああ!」


 悲鳴にも似た叫び声を上げながら薙いで纏めて屠る。もう情けなど欠片も無い。その凄惨さだけ見れば不要だと理解しない訳が無い。女性を助け起こそうとしたけど目は開いているけど辛うじて息をしているだけだ。


ゴブリンの子供は一度に大量に一人から生まれてくる。母体となるのが同じ種族ならまだ持つけど、それが異種族となれば持たないと聞いた。精神が崩壊する方が早くゴブリンたちも出産前に凄惨な光景を見せてそうしているという。


それでもまだ可能性はあるかもしれないし、何より同じ人間をこんな酷い目にあわされた人を殺めるなんて出来ない。


「康久殿!」


 女性を後で連れて行くべく再度横にした後、声の方向へと進む。その間もゴブリンの老若男女問わず葬っていく。段々槍の穂先も切れ味が鈍くなってきた。これでも大分持ってくれたリールドさんには感謝しないといけない。


「人間メエエエエエ!」


 一際大きなゴブリンが豪華な鎧と斧を持ちこちらの兵士を斬るべく暴れていた。


「サスノ隊長、皆と共に例のお嬢さんや女性たちを救出して一旦下がってください早く」


 僕は近くに居たサスノ隊長にそう告げる。断られるかと思ったけど僕を見て頷き皆に号令を掛けて下がった。


「もうお前たちに対する同情も情けも無い。どちらかしか生き残るしかないという選択肢をお前たちが取った結果だ」


 体の奥から怒りの炎が湧いてくると同時に更に冷たい炎も内包する。それが僕自身を包み一瞬の絶命の後、体は赤い甲殻に覆われる。その隙を突いて振るわれた巨体ゴブリンの豪華な斧を白羽取りし力任せに引き倒すと間を置かず倒れた巨体の頭を思い切り蹴り飛ばし、胴と頭を離した。


手を粉砕しその斧を取って念の為巨体ゴブリンの胴に一撃加え離した後、村を周りその斧を使って家を壊し中に居たゴブリンを狩っていく。親子のゴブリンも居たけどまるで別人のようにそれらに対する感情は無かった。


僕を見る目は悲しみと絶望、それに怨念。ただそれは連れ去られた女性や死後も弄ばれた男たちが向けていたものだ。自分がするのは良いがされるのは嫌だなどという傲慢を哀れむと同時にそんな都合の良いものは無いという現実を知らせられて良かった、死んでいった者たちに仰げと念じながら容赦なく潰して行く。


「康久、もう十分だ」


 暫くして周辺を高速で巡回し逃げるゴブリンを確実に潰し、隠れていた者たちももう居ないなと確認したころ、サスノ隊長に声を掛けられる。


「何故僕だと?」

「お前のその力、うちの王様も持っている」


 その言葉を聞き複雑な心境になる。この力は僕はウルド様に貰ったもので不死の特性を利用して死と引き換えに得ている。後は月読命一派の人体改造だけだと思っている。早々転がってたら堪らない。


「そう、ですか……」

「お前も閣下と同じ能力者とはな……だから俺たちを遠ざけたのか」


「反則ですからねこれ」


 僕はそう言った後変身を解くべく念じ元に戻る。斧は中々良い得物みたいで大きさや切れ味の割に軽かった。


「それは?」

「ゴブリンスレイヤー」


 多分どうするんだ? とか何だ? って聞きたかったんだろうけど、名前で答えてしまった。情け容赦なくゴブリンを屠る元巨体ゴブリンの斧をゴブリンスレイヤーにしようと思った。


「そうか。それはお前が使うと良い。皆が待っているから帰ろう……」


 複雑な表情でサスノさんは言った。あんな凄惨な中に居ればまともな生還者など居ない。それでも見捨てたり介錯する訳にもいかないので連れて帰る。この仕事は本当に得る物が救いすらない。


抜け殻かもしれないけど女性たちを救出し村を後にする。僕が徹底的に破壊しつくした村も、工兵の人たちによって埋められ更地になっていた。皆の視線が畏敬の念を帯びているのが何と言うか居辛い感じだけど、今は一人でも多く助けられた状態に満足しようと思い前を向いて歩き町へと帰った。



「ご苦労様だったね……」


 ギルドへは行かずそのまま屯所へと向かい、医療兵の方々に女性たちをお願いし僕はデラックさんのところへと呼ばれたので赴くと労いの言葉と敬礼を受けたので、僕もして返す。サスノさんが状況を報告し聞き終わるとデラックさんは大きなため息を吐く。


「最悪な状況を招き入れて終わったか。多少文句は言われるだろうが自分たちの蒔いた種だ味わって頂くのが良いだろう」

「お嬢様は無事だったぞ。事が始まる寸前で我らが来たようでな」


 そうサスノさんが報告したのを聞いてホッとした。見た覚えのある人が悲惨な目に遭っていたら今以上に不快な気持ちで居ただろうし。


「フン、運が良いんだな。こちらは身内の兵士が幾人も亡くなり怪我をして兵士としての復帰が無理な者もいると言うのに」


 憎々しいというように吐き捨てるデラックさん。サスノさんから更に僕が多くを滅ぼし村を潰した報告を聞くとジッと僕を見て今日は屯所に泊まるよう言われた。


「今の状態で帰ったところで君の中の黒い感情は消えないだろう。少し離れて自分を落ち着かせると良い。暫く居ても構わない」

「そうだな。康久の御蔭で多くの兵士があの理不尽な開戦から生きて帰れたのだ。今回こそ紛うことなき英雄だ。兵士たちの羨望の眼差しは凄かったぞ?」


 淡々と語るサスノさんに対し、溜息で答えるデラックさん。


「……康久、気分が良いか? 等と聞くまでも無いな。不快そのものだろうしやり場のない黒い感情が纏わりついているのも分かる。ただその御蔭で多くの兵士とその家族、未来の子供が救われた。想像でしかない救いだが、それで心を癒してくれ。私とサスノは理解している」


 それを聞いて何故か涙が出て、そして止まらなかった。長い時間泣いた後気を失う。


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