僕たちの日常
翌日早速ギルドへ赴きその相談をすると
「じゃあ不可侵領域付近の再生と調査依頼にプラスしてあげるわよ。態々時間割かなくても近くにあるんだし」
そう言われて僕らは間伐が整ったら不可侵領域付近の依頼に行く。華さんはいつまでここに居られるのか尋ねたところ
「何故か急に暫くここに滞在するような感じになりまして……」
首を傾げる。ギルドで華さん当ての手紙が届いており読むと暫く滞在するよう書かれていたそうだ。その上居候させて貰っているお礼のお金も入っていたとか。
「色々お手伝い頂いているのでそれは華さんの好きなように使ってください、ね?」
ミコトの言葉に僕は頷く。木の倒し方に薪割の仕方、それに稽古の相手もしてくれて料理も手伝ってくれてる。ミコトの安全も考えると華さんが居てくれた方が僕も安心できるからとも伝えると、謙遜しつつも収めてくれた。
「ちょっとアンタ残りなさいよ」
「嫌です」
リュウリン女史が引き留めるも即答でお断りした。大体こういうのは面倒な話をされると相場は決まっている。平穏な日なんて無いけど態々火に飛び込むほど愚かではない。
「ギルド長の命令よ」
「そんな気軽に強権を使わないでください」
笑顔のまま食い気味に断るも強引に羽交い絞めされて引き留められる。ミコトと華さんは僕を見捨てて準備をしに行ってしまった酷い。
「で、何ですか用事って……」
「まぁ座りなさいよ」
面倒だなぁと思いつつ羽交い絞めにされてるので何も出来ないので椅子の近くまで移動させられる。解いた隙に逃げようかとも思うけど後で絶対ねちねち言われるだろうから諦めて座った。暫く何か言い辛そうな感じを出して座っているリュウリン女史。良く分からんけど早く出て早く帰りたいんだけどなぁ。
「その……ありがとう」
「はい?」
リュウリン女史らしくなくぼそぼそ喋っているので聞き取り辛いから聞き直したら視線を地面に向けたまま髪の毛を弄り始めた。何なんだ一体……。
「リュウリンは君に感謝してるんだよ有難うってさ」
「あー」
リュウリン女史の後ろからデラックさんが現れてそう代弁してくれたのでそう言ってたのかと言う意味で、あーと言った。わざとらしい大きな咳払いを二度三度デラックさんを睨みつけながらするリュウリン女史。良く分からん。
「えーっと別に感謝される覚えは無いんすけど、何です?」
「まぁまぁ良いじゃないか彼女的にお礼を言いたい気分だったっていうだけの話さ」
感謝してもらいより当たりを弱めて欲しいと言いそうになったのを思い留まり笑顔で頷く。心当たりも無いでこれ以上突っ込むのは止めよう。
「あ、アンタ何で此処に居んのよ!?」
「ん? ああ例の間伐の依頼が順調すぎるのでそのお礼に来たんだよ僕も。華さんの指導は大分良いようだね」
「はいとても良いですね。彼女の指導は丁寧で分かり易い。うちの師匠に近い感じがしましたから何れ指導者としても頭角を現すかもしれませんね」
僕は正直にそう言うとリュウリン女史が嬉しそうに大きく頷いている。いつもしかめっ面な感じがほぼなのでこういう顔されると怖いな……追加の依頼とかされないだろうか心配だ。
「そうかそうか。彼女には別に君たちが依頼料を払っていると聞いたが」
「ギルドを通しているので問題無いかと思ったんですがダメですか?」
「君が私たちの依頼を下請けに丸投げしたというなら問題だが、指導が必要という理由でギルドを通してギルドが承認したなら何の問題も無い。ただ町としては心苦しい限りだ。一応公報には康久君たちの行為で割安で町に貢献してくれたと出している」
「もっと人を集めた方が良かったですか?」
「それはギルドの判断だし裁量だ。目に入れても痛くない存在が居たとしてそれの所為で君たちへの依頼内容の精査がズレたとしても仕方ない話だと思わないかね?」
僕は首を傾げるもリュウリン女史はテーブルに頬杖を突き明後日の方向を向いて口笛を吹き始めるわざとらしい。
「兎に角君には再三苦労を掛けている上に不可侵領域の再出張も受け入れてくれて感謝する。留守中の家は我々が責任もって管理しておく。今日はそれを伝えに来た。借りばかり大きくなってしまって心苦しいが宜しく頼む」
デラックさんはそう言って頭を下げたのでとんでもないと言いつつ立ち上がり制止しようと駆け寄ると、頭を上げた後握手を求められたので握手をする。その後デラックさんはリュウリン女史の肩に手を置いてからギルドを後にした。
結局それで用は済んだらしくさっさと行けと言われたのでギルドを出て二人に合流する為鍛冶屋へと向かう。二人は鍛冶屋の軒先で御茶をして待っていてくれた。リールドさんがお茶を二つとお茶菓子をトレイに載せて持ってくるところに出くわしてちょっと面白かった。
「何だよ俺は商売人だぞ? お得意様に御茶とお茶請け食らいだすわ普通に。お前失礼じゃないか?」
「すいません何か似合わないなぁと思って」
正直に答える僕に対し蹴りを放つリールドさん。バランスを崩しそうになったので慌ててトレイを受け取りテーブルに置く。
「チッ鍛冶屋如きじゃ当てられもしねぇな」
「そういう問題ですか?」
「そう言う問題だろうな。俺たち一般市民てのはその程度のレベルよ。口だけ喧しく抗議したところで結局はお前さんらの方が強いし何より体張って尽くしてくれてるんだから有難い存在だしな」
「有難いなら蹴らないでくださいよ真実の発言をしただけなのに」
「感謝はするししてるが無礼には断固立ち向かうぞ小僧」
「小僧って年齢的に対して違わないじゃないですか」
そう僕が言うとリールドさんは首を傾げて手を顎に当てながら空を見る。それから少し経って僕の年齢を聞かれたので向こうの時の年齢を答えるとガハハと笑った。
「お前と変わらない訳ないだろう? 俺たちダークエルフはお前の倍以上生きてるよ。最も中身のある生き方をした年数で言えば確かに違わないかもしれないな。見た目もその所為かもしれない」
ダークエルフは元々ここより遠く離れたところにある世界樹の下で生活する種族で、上に住むエルフと違い地上に出ても平気だったにも関わらず地下でずっとこの星の研究を種族を上げてしていて、それをエルフと競い合うのが歴史そのものだったらしい。
ある日を境に魔術粒子が枯渇し世界樹に異変が起こったのでエルフは自分たちの里と世界樹を結界で覆い保護する為に全力を傾け、ダークエルフは世界樹の下を放棄せざるを得なくなって放浪する羽目になったと言う。
「まぁすんなり出て行きますそうですかとはならなかったのは人間の世界と変わらない感じだよ。非力な俺たちの戦いは泥沼。結局数で勝るエルフから逃げるように放棄したってのが真実だ。だけど世界に出て心底良かったと思うぜ? もう世界樹に縛られなくて済むんだから。毎日毎日同じテーマを研究して牛歩以下の進捗でってよく可笑しくならなかったなと感心するよ」
僕が引き籠れたのは恐らく文明が発達してインターネットとかゲームがあったからだ。そうじゃなきゃ絶対無理だったと思う。リールドさんは生まれた時から強いられていて、切っ掛けがあって外へ出て来た。僕とは出発が違うけど現状は似ているから親近感を覚える。
「その後もまぁ色々と悪行を尽くしてな……他の国に出入りできないレベルの。俺はこうしてお天道様の下で真っ直ぐに商売出来るのを全てに感謝してる……って何の話だっけ」
「有難いと思ってるなら敬ってくださいって話です」
それから暫くリールドさんのダイエットの手伝いをして僕らは依頼の場所へ向かう。




