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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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生態学系冒険者

家に帰って夜ご飯を済ませお風呂に入って就寝したけどあっと言う間に朝になって起こされた。体の疲れは能力的にあっさり回復してるからあっさり起きれたけど、普通なら筋肉痛などの疲労で起きれなかった気がする。


精神的にもぐっすり眠れた御蔭で全快していて作業に対するやる気も十分だ。準備をして町から場所まで移動し早速作業を開始する。


「またか」


 着いて早速昨日のイスルモモンガ変種と目が合う。今回はお腹に子供が引っ付いていて僕らが帰ってから戻って来たのか辺りは木の実のかけらなどで汚れていた。それと親子を見るとやはり元居た場所から移動して来たのは間違いないようだ。


目が合う前から気が立っているみたいだし、木の実も沢山ある訳では無いのに食べ切らずに捨ててある。恐らく口に合わないのだろう人間の調味料に使われるくらいだし。かと言って戻りもしないとなるとなるとそれ以外考えられない。


僕は馬車を降りた後、軽食用に買って来ていた不可侵領域近くで取れるイチゴのような実を取り出してひらひらと振ってみる。最初は僕の目から視線を外さなかったものの、徐々にちらちら見始める。お腹に抱き着いた子供はずっと見ている。


それを見たミコトは自分もとイチゴのような実と同じように不可侵領域近くで取れる実を幾つか手に持ってにやにやしつつ振り始めた。華さんは我関せず荷物を降ろして準備を始めている。この状況では子供には厳しいし昨日ミコトに少し慣れてしまったのもあって、親の腹から離れて低空でゆっくり飛びつつミコトの前で降りると手をスリスリし始めた。


で、ミコトは声にならない声を極力小さく上げて興奮し屈みながらイチゴのような実たちを振り続けると子供は堪らずそれを口にする為近付き食べる。それを見ていた親も涎が垂れそうになったのを見て可愛そうなので放り投げて口に入れる。


 結局仕事が進まないのでありったけのイチゴのような実たちを遠くへ放り投げて退いてもらう。基本的に人を襲わないなら問題無いし、ここの調味料関連の実が食えないのも理解したら食べないだろう。それにやはり不可侵領域付近から移動して来たのは間違いないようだ。


「この問題は大分尾を引きそうですね」


 昼食を取りながら華さんがそう呟く。不可侵領域付近での森火事によって住む場所が変わらざるを得なくなった問題に対応する為に獣族と共同で調査しつつ森の再生をしている。これは国から税金でバックアップされているので利権なども絡まず皆協力的だ。


何しろ解決しないと今回のようなものが各町に発生し縄張りが荒れて争いが生まれる。相手と自分たちとの生存を掛けた戦いに発展すれば滅ぼすより他に互いの選択肢が無くなり兼ねない。以前までの人間たちなら住む場所を追われただろうけど、今は違う。


チート能力を貰っている僕ですら凌駕する存在が幾人も発生し人口も増え文化も発展してしまった。僕は現状を変えようとは思わないけど、それまで追い詰められた人々や家族を失った人たちまた利益を求める人たちは同じでは無いだろう。


その証拠にゴールド帯には特定のモンスター全般の討伐依頼が簡単な理由のみで載っている。ギルドでは討伐に関しては問題無いから載せているようだ。ゴールド帯の依頼に関してはかなり詳しく載っている場合が多いので皆触りたがらないらしい。


「そうですねこのまま行くと華さんのデザートは永遠にあのちびっ子のご飯です」

「辛い……」


 心底辛そうに本来イチゴのような実たちが置かれるはずだったお皿を見て肩を落とす華さん。スイーツが最大の楽しみだと語る華さんは、ミコトにこの国の他の町のスイーツを熱く語り二人で頻繁にこういうスイーツがあったらいいなどと話しているくらいだ。


「リュウリン女史に帰ったら聞いてみましょう。彼らの住処とかそう言うの知らないかどうか」

「そうですね華さんのスイーツの為にも」


 そこから女子同士のじゃれ合いが始まったので微笑ましく見守る。漫画で見る女子高の教師になった気分だ。それから日が暮れるまで作業をし、兵士の人や審査員さんそれにダンデムさんを待ち木を回収して町に戻りギルドへ赴く。


「まぁそう言う御親切な依頼を出せる程今の国にも人々にも余裕は無い訳」


 で、着いて相談して早々身も蓋も無い話をリュウリン女史からされる。


「ですけど康久さんの言う問題は他の町や獣族でも抱えているのではないですか?」

「当然よ。だけど答えは簡単に皆出して処理するから問題に上がる前に終わってる」


 分かり易い回答を言って貰えて頷く他無い。僕は絶滅を危惧するような発展した人類の星から来た人間だけど、ここは全く違う。人より賢い竜も居るしヴァンパイアも居るような環境では人自体が保護対象になる。何より竜神教(ランシャラ)はその保護してもらった竜への恩義を忘れない為に出来た宗教だ。


僕の考えをリュウリン女史以外の人が聞けば気は確かかと言われるだろうし、デラックさんに恐竜の墓を作った時に言われた言葉の背景にはそう言う問題も含まれているのだと思う。


「で、ギルド長としてではなく生態学系専門の冒険者として言わせて貰うなら、超絶興味があるわ」


 さっきまでとは違い目を輝かせて言うリュウリン女史。この人も表情がコロコロ変わる人だなぁ面白い。リュウリン女史曰くそういう生態の研究について奨励しているのはカイテンのみで、最近情報が多く集まり盛況でもある分野らしい。


冒険者だけでなく一般の人たちや国の施策にも役立つとして新しい発見などにはかなり高額な報酬が出たりもするので調べる人間も増えているとか。


「自慢じゃないけどそれ系でギルド長になったのは私だけよ」


 フフンと演技するように気取るリュウリン女史に対し、ミコトと華さんはキャーすごーいなどとはやし立てて満更でもない返しをリュウリン女史がしてそれを見てまたはやし立てるみたいな女子会が始まったのでお茶を堪能する。


暫くしてから話の続きが始まり、獣族ではそう言う研究よりも武を鍛えるのが当然なので放置されているし、首都から離れた町ではギルド長がそう言う依頼について消極的だし新しい流れについても否定的に思っているらしく進んでいない面もあるとの話だ。


「だから今がチャンスと言えばチャンスなのよ? 但し腕も能力も無い人間が出来る範囲なんて限られてるから冒険者であり且つ腕があれば稼げる」

「……私たちが新たな発見をすれば儲けがあるって話ですね」


「儲けだけじゃないわ名誉も付いてくる可能性がある。何せ今なら私の後だとしても先駆者の仲間入りが出来るんだもの。ミコト、貴女なんて良いセンスしてるから是非メモを取りなさいメモ。危ないのはこのボンクラにやらせておけばいいんだしさ!」


 ボンクラ……爺ちゃんは研究者だったしオヤジも大学の教授だけど金持ちでは無かったんだよなぁ……ってそう言う問題じゃなくて性格の話か。


それからリュウリン女史は今まで調べたりメモしたりとやって来た自分の成果をミコトに見せてやり方を教えていた。僕と華さんはそれを聞きつつ足しになればと思いメモしている。

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