デラウンに到着
ミレーユさんの言う通り、道には誰も居らずそのまますんなり入り口までいけた。門兵の人たちも一瞥しただけでそのまま素通り。日差しが照りつける中、逃げるように馬車は疾走する。風が生温いだけまだマシなのかもしれない。これが陽が真上に来たら熱風となるだろう。
「あっちぃ」
暫く走り、真上に陽が差し掛かろうかと言う時に正面に町が見えてきた。僕は手綱を振り上げ下ろしたい気持ちを抑えながら慎重に町に近付いた。
「止まれ!」
「御苦労様です。怪我をした家族を連れて旅をしてます」
先に例の少女について話しておく。荷台を見られたけど大した物は入ってない。距離がそう遠くは無いので、ミレーユさんは金貨を少しと例の袋そして飲み水を置いてくれていた。
「しかしこの娘は疫病などではないのか? それにお前たち何処から来た? 今この時代中々難しいのでな」
門兵は二人で荷台を見つつそう勿体つける様な言い回しで言った。僕は間を置かず例の手紙と袋を渡した。
「……なるほどな。ミレーユ殿の言われるようなら間違いない。それと馬車はギルドまでの通行を許可するし、その近くに止めて置くように。なるべく町の中は走らないようにな。ギルドはここから真っ直ぐ進んで中央の噴水の斜め右にある。気を付ける様に。次!」
最初の意地悪そうな感じは一切なくなりとても親切に教えてくれて、手紙も丁寧に折り畳んで返してくれた。現金なもんだなぁ。後ろを振り返ると僕以外の人も並んでいたので急いで馬車を動かす。
「すげぇあの町とは大違いだ……」
気をつけつつゆっくりと馬車を走らせながら街中を見ると、さっきの町よりもお店が多くあり活気がある。飲食店もあり店先で食べながらお酒を飲んだりしている。馬車が通りなれているのか、皆嫌な顔せず道を開けてくれている。最初に出会った奴らもとんでもなかったし、さっきの町の英雄とか言う人もとんでもなかったから、こういうのに触れると感激してしまう。
「ここか」
看板にはヲシテ文字っぽい感じで”ぼうけんしゃギルド”って書かれている。じいさんの教育の賜物で読める訳ではない感じだ。恐らくチート能力の一つだろう。ギルドの近くに馬車を止めようとしたけど、明らかに道を塞いじゃいそうなので、右折して奥に進む。すると僕から見て左側に馬車が数台止められている広い空き地があったので、左折してそこへ入り開いているところに止める。
「おいおい君は誰だ?」
僕は運転席を降りて一礼する。そしてさっき門兵に見せた手紙を、声を掛けてきた高そうな装飾の施されたジャケットにローブを着た人物に渡す。つまらなそうに受け取った後暫くして目を見開き、肩まで伸びた髪を手串で梳かし、ポケットに仕舞っていたベレー帽のようなものを被って背筋を伸ばし僕に手紙を返した。
「ふむなるほど。礼も知っているようだし中々見所がありそうだな。ようこそデラウンの冒険者ギルドへ私はここのギルドの者で、アロウという」
ミレーユさん凄いな……何者なんだろうか。この手紙は相当威力があるらしい。これからもお守りとしてもっておこう。
「我がギルドは近隣でも指折りの規模のギルドだ。三階と四回は役員室や会議室だが、困っている冒険者や縁故の者に二階は使えるようになっているから、君はその少女が治るまで使って構わない。案内しよう」
僕は一礼して荷台の金貨の入った袋を腰に引っ掛け、少女を抱きかかえてアロウさんに続いて建物に入る。
「しかし君は布の服のような防具とも付かない物を着てよくここまでこれたなぁ」
そう言えばさっくり忘れてたけど、僕の着ている服は柄物Tシャツにスラックスにスニーカーだ。なんでこれまで気にしなかったのかな誰も。
「何処の店のものか知らないが、へんてこなセンスだね。ギルドで稼いで早くこの町の流行に乗るといい。今はサランテ製の物が人気だから。君はここの三百三号室を使ってくれ。気が向いた時にでも一階のカウンターに来てくれれば依頼について紹介するから。では」
必要最低限の話をしっかりしてアロウさんは去っていった。ミレーユさんの影がちらついたからなのか、元々優秀なのか分からないけど有り難い。
「何とか治るといいけど……」
「治るに決まってますわよお兄様」
部屋にあったベッドに寝かせてタオルケットを掛けた途端、少女は包帯で塞がれていない方の目を空けてそう言った。




