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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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風神拳の中身

「随分と混んでますね」

「……やはり昨日の件が尾を引いているのかもしれません」


 僕は荷台を降りて先の方まで行ってみると検問が厳しく行われていて、兵士の人が十人がかりで隅から隅まで調べていた。犯人はあの二人だけじゃないのだろうか。


「康久さん今日はお出かけですか?」


 検問の様子を見ていると、不意に脇から声が掛かる。そこには籠を背負ったマリオンが居た。


「康久殿!」


 挨拶をしようとしたところで華さんの声が飛んでくる。馬車を見ると見覚えの無い鎧を着た連中が馬車に取り付いていた。僕は素早く馬車まで駆け戻り参戦する。


「ミコト殿が!」


 華さんに反応して見ると男たちがミコトを羽交い絞めにし馬車から大分離れた場所を駆けている。それを見て何故かラティの寂しそうな笑顔とウルド様の去り際の姿を思い出し血が勢い良く駆け巡り出す。気が付くとその連中は壁に叩きつけられている。


「康久殿……今のは一体……」

「え?」


 僕にも全く分からない。変身もしていないのに何故自分の記憶にもないスピードで彼らを倒していたのか。未だに胸のもやもやが治まらないけど血の勢いはゆっくりになった。その後兵士の人たちが駆けつけて彼らを収容。


僕らはその日は外出を禁じられてしまった。これ以上騒ぎを大きくしないような措置らしい。アジスキをリールドさんの所に預け僕らは家に戻る。ミコトはとても落ち着いているように見えるけど怒っているような気がする。連れ去られた自分が情けないの? と尋ねるとそれはそうですけどと言葉を濁した。


その日はその後何事も無かったかのようにゆったりと過ごし就寝した。僕はソファに横になりながら考える。あれは一体何だったのか。あの感覚は今まで感じた覚えが無いものだった。冷静にあの時頭を過った場面を振り返っても胃が痛くなるけど思い出してみると共通するのは強烈な後悔と自責の念だけだ。


竜騎士団(セフィロト)にも怖気付き月読命一派には変身しても大切な者を失ってしまった。僕は繰り返さない為に、いやあの場面での失態を取り返したくなって似たシチュエーションに体と心が反応しあの力が出たのだろうか。


僕は寝れる感じではないので音を立てず外に出て月を見上げる。この世界にも月はあり元の世界と似ている部分が大きいから落ち着くのだろう。全く違う環境だったら慣れるまで大変だったろうな。


「今日は月が綺麗ですね」


 家の敷地の手前から声が掛かる。そうですねと暢気に返したいところだけどそんな相手じゃない。ゆっくりと歩きつつもその歩いた後に気の痕跡が残ってるんじゃないかとすら思える程強烈な気を発しながらこちらへ近付いてくる。


「どうされましたか? こんな夜分に」

「丁度他の町に出向いた帰りにこちらに寄りましてね。気になる話を聞いたものですから。それに月も綺麗なので」


 気になる話としたら騒ぎの中心にいる僕以外ないだろう。なるべく平静を装いながら階段に腰掛けて溜息を吐く。


「困ったものです。急に全方向から人気が出てしまって」

「人を押し退けて目的の為に上に行くならそのくらい当然では?」


 その鷹のような鋭い目は脇の甘さを指摘するように僕を見る。これまで皆に守られてきた甘さをこっちに来てから痛感するばかりだ。だけどこれを乗り越えて守ってくれた人たちを護る為、僕は立ち止まれないというのを分からせてくれたように思えた。


「理解したようで何より。貴方には臆病になって怯えている暇も権利も無いのだから頑張ってください」

「一つお尋ねしても宜しいでしょうか筋違いかもしれませんが」


 僕がそう切り出すと、紳士は答えられる範囲であればと応じてくれた。何でかこないだ感じたような恐怖心のようなものは小さく、二人で庭のベンチに腰掛けて改めて質問する。今日あった出来事の話をしその際に現れた力は何なのか心当たりが無いかと。


「なるほどそれは難しい質問ですね」

「すいませんほぼ初対面なのにふわふわした質問で」


「いや構いませんよ。私に何かあると思っての質問でしょうし嬉しく思います。武人であるという事実は服を着飾ったところで隠しようがありませんし、隠そうともしてません。こういう格好をする方が相手は少しリラックス出来るかなと思っただけですし」


 リラックス……その言葉を聞いて僕は面白くて吹き出してしまった。紳士もそれを見て小さく微笑む。


「さてご質問の件ですが、私も似たような技に覚えがあります。確か東の方の国の出身者が使っていたような」

「技、ですか」


「ええ。人間と言うのは自分の肉体を護る為リミッターを常に掛けています。鍛えているのはそのリミッターまでの幅を広げる為で、リミッターは掛ったままです。何しろ骨などは鍛えようもありませんし砕けてしまえば二度と元には戻りませんからね」


 それを聞いて僕はまだまだこの世界とのズレが残ってるなぁと思う。自分の特性が蘇りなもんだから概念的にも忘れていたのかもしれない。この世界には魔法も無ければ代用できる物も医療技術も無い。


「で、その東の国の人物は一瞬そのリミッターの全てを外すと言う技を使っていました。獲物は刀。なので拳を砕いたりはしませんでしたが肉体に負荷が掛かり過ぎて翌日は動けなくなっていましたよ」


 笑いながら語る紳士。笑えないんだけどなぁそれ。僕明日動けるだろうか。


「その人物はその後刀を捨て格闘に道を見出したと聞きます。技に磨きを掛けリミッターを解除しつつ上手く戦う術を見出したとか」

「それは凄いですね……」


 となるとリミッターを外しても折れない様加減をしたのだろうか。刀から格闘にってのも理由が分からないなぁ。


「貴方の風神拳なんて良いヒントになるんじゃないですか?」

「風神拳、ですか」


「そう、あれは私たちからすると貴方たちだけが倍速で動いている用に見える」


 風神拳を出す時確かに相手の間合いに飛び込み且つ素早くしかし力強く拳を叩き込んでいる。何となくやってたけどそう言われればそうかもしれない。不意を突かれただけじゃない何かがあるから確実に叩き込めた訳だし。


「手始めに風神拳。その方はひょっとするとその技に隠れた何かを教えたくてそれを貴方に伝えたのかもしれませんよ?」


 そう言いながら紳士はベンチから立ち上がり敷地から出て行こうとする。僕はありがとうございましたと大きな声で言って頭を下げる。かなり大きなヒントを貰ってしまった。師匠からの宿題は風神拳を使いこなしてから見えてくるものがあるっていうものだったのかもしれない。


……ていうかその東の国の人って師匠なのかな……師匠どっから来たんだ一体。それに何であの人はそれを知ってるんだろう。年は師匠より下だと思うんだけどな。謎が謎を呼ぶばかりだ。

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