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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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襲撃

お湯が沸いた後お風呂に入り寝間着に着替えてソファで横になる。僕の場合師匠に頂いた篭手は御風呂とか水仕事以外の時は常時付けている。これの良いところは殴る際は骨をガードし指は自由に動かせる点だ。


師匠は篭手などは付けていないのにこういう発明が出来るのが凄い。昔は何でも構わず殴り続けて平気だったけど一度中手骨にヒビが入って困ったと言う。その経験から弟子たちが苦労しない様制作を始めたと言う。


師匠は篭手なんて付けなくても強いけど付けたら鬼に金棒なんじゃないかな。そう言えばハオさんも付けて無かった気がする。


色々と考えつつ思い出しつつしているとウトウトして来たのでランタンの灯を消して眠りに就く。いつもならこれでミコトに声を掛けられて目が覚めるんだけど今日は違った。何か気配がうちに二つくらい近付いてくる。


時間的には真夜中だろう。その二つの足音が聞こえるほど周りは静かだ。家を間違えたとか飲んで酔っ払っているとかではないようで、こちらに真っ直ぐ近付いてくる。僕はそのままゆっくり音を立てずに気配を殺しつつ体を起こす。


敷地内に入って来たのは二つ。僕もその足音に合わせて入り口の脇近くに移動する。シルバー帯の家に強盗に入ろうなんて人間は並みの冒険者ではないだろうしそうなると同じランク帯か。なら手加減なんてしてる場合じゃない。


「……るのか」

「る……ろう……行……」


 本当に小さな灯りが窓のガラスに映って直ぐ消え声も消えた。直ぐにはつっこんでこないだろうけど間を開けてくるだろう。即気を開放して一撃で仕留める、そう念じ片膝を着き息を整える。


ガチャガチャと小さくドアノブを動かした後、鍵穴を弄る音がする。間違いなく強盗だ。暫くしてガチャっと鍵が開いた音がする。少し間を開けてゆっくりとドアノブが周り始めた。


ドアノブが周りドアがゆっくりと開く。暗くて良く見えないけど得物と装備さえ見えれば後は十分。月明りもあり彼らの持っている小さなランタンらしきもので装備は見えた。鉄の軽鎧に短剣とロングソードを構え盾は無し。見たことも無い人物の顔だったので心置きなく出来る。


 勝負は一瞬。


 焦りなどの感情を抑え込み冷静に軽鎧の隙間の肉体へ拳を叩き込み一つ。


「ど!」


 言葉は続けさせずすぐ後ろに居た人物に気を失った人物を押し付け外へと押し出す。月明りは意外に周囲を照らしていて良く見える。男は仲間を押し退けて逃げようとしたけど慌てて上手く行かない。地面を藻掻いているところへ近付き首筋に手刀を叩き込むと静かになる。


僕は一旦中へと戻り気配を探るけどあの二人以外不審な気配はしなかった。二人は寝たままのようで良かったと思いつつ家の前の階段に腰掛け見回りの兵士の人が来るのを待つ。


ただこれが中々現れない。普段なら一定間隔で見回っているのに。流石に家を離れる訳にはいかないのでこのまま座って待つ。気温は低くは無いので外に居ても風邪を引いたりはしないだろう。月を見上げながらのんびりした後転寝をする。


暫くしてから兵士の人が来たけど様子が可笑しいので隊長を呼ぶよう告げるも渋ったので、隊長でなければ引き渡さないから帰るよう言うとそれも渋々下がっていく。その後騒ぎを周りも聞きつけて通報していたのかデラックさんが直々に来てくれた。


「すまんなこちらの方がこちらで詰めておく」


 それだけ言い残して二人の人間を連れて引き上げていった。周りはそれを見届けると家に入ってまた静寂を取り戻し僕もソファでゆっくりと眠りに就いた。


だけど時間を大分食った所為であっさり朝を迎え、カーテン越しの薄い陽の光に目が覚めてしまった。興奮状態だったのもあってか覚醒も早い。寝不足って体にも頭にも良くないよなぁと思いつつ、二度寝しても直ぐ賑やかになると考えて外に出て朝の空気を吸う。


「おはようございます。昨夜はご苦労様でした」

「康久殿、有難うございます」


 二人は起きてきてそう僕の顔を見ると労いの言葉を掛けてくれた。なるべく音を立てないように解決したつもりだけど、周りの家が気付くくらいだから二人も当然気付くよなぁ。僕は一応事件の話を二人に伝えつつ朝食の用意を手伝う。


「まさかシルバー帯の家に強盗とは……」

「治安が良くないと言うより……」


 と華さんが言い掛けて止める。そう、治安が良くないにしてもシルバー帯のしかも最高位の家に襲撃なんてまともな思考をしていたらやらない。上位はやる必要が無いし同位も評判を下げるだけだし。


ひょっとしたら裏ギルド見たいなものがあってその依頼、なんてのは考え過ぎだろうか。兎に角連行された人間たちの操作はデラックさんたちに任せたし解決するのを待つだけだ。それで僕らの依頼を停滞させて良い訳が無いので今日も依頼の場所へ赴く準備を食事の後にし始める。


「あれ」


 三人で後片付けをして支度をし家を出ると目の前に兵士の人たちが立っていた。僕らを見て敬礼をしてくれたのでそのまま返す。その後用件を尋ねると今日の深夜の件で警護するよう言われたようだ。


留守中に何かあったら困るのでお願いしようと言う話になり僕らはそのまま荷物を持ってリールドさんの鍛冶屋へ赴く。


「よう有名人」

「良くない意味での有名人なんで嬉しくは無いですけどね」


 それを聞いてリールドさんはがははと笑う。どうやら昨日の騒動は商売してる人たちの耳にも入っているようだ。その後防犯グッズを幾つか紹介されるも、トラバサミみたいなものが多く自分が引っ掛かりそうなので断ると残念な顔をされてしまう。


ミコトと華さんはウンザリしながら聞いていたのを見てリールドさんは家の防犯は必要だと力説するも確実性が無いと却下されて打ちひしがれてしまう。まぁトラバサミはこの時代にしたら画期的な防犯なのかもしれないけど家には合わないなぁ。


「まぁそれなら使用人を雇うか警護を雇うか……後はペットを飼うってのもありだな。他の家を見れば分かると思うけどこのうちのどれかが家にいる。勿論家主の稼ぎに因るし降格ともなれば解雇したりペットを誰かに預けるなりしなきゃならない。このうち気軽なのは使用人と警護だな。ギルドを通した派遣になるから先払いだし雇止めにあってもペットと違って直ぐに別の仕事が入る可能性はある」

「ペットは誰かに気軽に渡す者じゃないですからね。家族だから最後まで面倒見る気概がなきゃ」


 その言葉に頷くリールドさん。良い話をしたのに引き出しからペットカタログを出してきたのでツッコミを入れようとしたんだけどミコトと華さんがそれに食いついてしまい暫く時間が飛んでいく。二人はカタログを堪能し明るい気持ちで馬車に乗り込み町の入り口へと向かう。



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