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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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現れる華

「と言う訳でギルドに私から依頼をちゃんと出すから受けて貰えると助かるよ。シルバー帯は長く人材不足が続いていたからこういう事態になってしまったのは仕方ない。弛緩していた彼らには悪いが町としてもこれ以上放置してはおけない。その対策の一つとして明日にも首都から複数名シルバー帯が来る」

「首都から、ですか」


「そうだ。君たちにとっても良い刺激になってくれると良いと思っている。ただ過度な期待はしないでくれ。あくまでもシルバー帯だ。君たちのように上に王手を掛けようとしている人材とは違う」


 王手を掛けている気なんて更々無いけど僕たちは改めてお礼を言って屯所を後にし、その足でギルドへ赴く。暫くラウンジでお茶とお菓子を頂いていると、リュウリン女史が部屋から一枚の紙を持って出て来た。


「来てたわね。ていうかデラックから話を聞いて来たって感じよね。なら話は早いわこれにサインして頂戴」


 僕らは紙を受け取るとその中身を見る。間伐はオヤジさんたちの村から少し離れたところにある森で木が多くなり過ぎて視界が悪く、肉食動物が領域を広げてしまう恐れがある場所になってしまったようだ。この間のように狼が出てくる可能性もあるので依頼料は高め。


間伐した木材に関しては町の依頼というのもあって町に収める。但し僕らもその木を二割程度分けて貰えるらしく、ミコトと二人で目を輝かせた。家具を見ているとき木製の良い商品は軒並み高く、ミコトが欲しそうにしていた化粧台は今のお財布を考えると厳しい値段だった。


上手く木を売ったり出来れば買える可能性も出てくるかも。


「何だか嬉しそうにしてるけど気を付けなさいよ」

「というと?」


 ミコトが笑顔で尋ねると溜息を吐くリュウリン女史。


「暢気なのは顔だけにしておきなさい? 分かってると思うけど町や一般の人たちはこの依頼の経緯もそうだけど貴方たちに期待しているし眩しさを感じている。その眩しさの陰になった人間たちがどういう行動に出るか予想出来ないわ。ギルドとしても警戒しているけど」

「それはギルドで制御する問題では? 私たちは当て馬にしてくれと言われた訳ではありませんし、この町のシルバー帯を甘やかした覚えもありません。依頼料から引かれている分のお仕事はして頂かないと」


 笑顔でド正論を口にするミコト様。そりゃそうなんだけどね。自分がだらしないのは人の所為じゃないしそれを良しとしてた方にも問題がある訳で。僕らは狙ってそれをした訳でも知らない人間に嫌がらせをしようとして依頼を受けた覚えも無い。


 依頼料からは保険料の他に運営費も引かれている。依頼の仲介役としての分は別に引かれているし、依頼主からの全額を見ている訳じゃないけど三割は持って行ってるはずだ。この国の王様はなるべく不満なく税金を広く集めるのが上手いなぁと感心している。


冒険者ギルドは国営とは明示されていないけど、組織図を見ればほぼ国営に等しい。町の兵士に関しては冒険者にはなれない物を税金で雇い配置。国では高位冒険者をそのまま軍に転用し国防を担っていたりする。


なので輪から外れた依頼やら紛争を起こせば王様直々に裁可が下るしこの国で生きていくのは無理ゲーになる。運営費はルールを守り監視する為の料金だし、無視する者犯すものを処分する為の料金でもあると思っている。でなければ不平不満が出て来て崩れる要因ともなるだろう。


「そう言われると立つ瀬が無いわね。中々容赦が無くて宜しい。私としても見逃す気は無いしそれ相応の罰を下す為の裁可を得ているから躊躇なく実行する。その為のギルド長だもの」


 リュウリン女史は切ない顔をしてそう言う。見知った相手を処罰するというのは気分の良いものではないのは分かる。けどその為の位であるのも承知しているだろうから下手な同情は悲しみを増すだけだろうと何も言わずにいる。


「貴方たちも覚えておきなさい。上に行くって言うのは裕福になるだけじゃない大きな責任も伴うのよ。時には見ず知らずの人の好さそうな人間すら斬らなければならない。人間なんて全体から見れば少なく弱い方なのにね」


 それでも人と人は争い合う。生態学が専門のリュウリン女史にとって辛く哀しい話だなと思う。だけどそれも現実。そんな中で何とかやっていこうというのがこの国なんじゃないかなと思っている。移民も受け入れ且つ分け隔てなく扱うからこそ国に対する大事さを抱けるんじゃないだろうか。


「それでも生きなければなりません。私たちが死んだところで救われるものどころか救われない泥沼に嵌るかもしれないのです。楽をして罪を許し合えば誰も一生懸命正しく生きようとしなくなる。そうしない方が簡単なんですから。それを許す為に嘆いているようにしか思えませんがそれどうします? 真っ直ぐ直向きに生きる人々を踏み躙るのには目を向けず罪を犯す者のみに焦点を絞るなど愚の骨頂」

「ミ、ミコト落ち着いて」


 神様としての部分が顔を出してしまったのか激してしまうミコト。まぁ言ってるのは最もで何故罪を犯した人間の身を守りたいみたいな発言をするのかは理解出来ない。上に居るからこそ正しく直向きに生きる人々に報いる術がある。


ただそればっかりじゃないだろうし、上には上のドロドロしたものがあるだろうからと思ってミコトを止めに入った。ミコトは僕を見た後咳払いしてすみませんと言いながら頭を下げる。


「良いの。上に立つ者としてじゃなく一人の人間として人間の命を奪いたくないっていう私の個人的な感情の話よ。そんなの皆一緒だと思いたいけどそうじゃないから争いが起こる。中には喜んで奪う者すらいる。そういう人間から守るのが上に立つ者の務めよね」

「迷えば刃が鈍り自らを刺す。そう言う話です」


 急に別の方から声が入る。振り返ると細い赤の紐を使い後ろで髪を結わいている、巫女さんの服に豪華な装飾を施したような物を着た女性が居て、腰には凄く長い刀を佩いていた。


「貴女何時こっちに」

「貴女との無駄話は結構。貴方が康久殿ですね御噂は予予。ミコト様もお初にお目に掛かりますが以後宜しう。不躾ながら今の御話を聞かせて頂き感嘆するばかり。悪しきに与して善を敷くなど生き様として虫唾が走る……そのお言葉に私は全面的に賛同致す。良い方々に出会えるとはここに来たかいがあったと言うもの」


 リュウリン女史の問い掛けをズバッと切り、彼女に向けた冷たい視線とは百八十度違う笑顔で僕とミコトと握手を交わす少女。握手をした瞬間その手の豆が潰れた後の硬くなった場所の数が凄すぎてこの人物が只者ではないのが直ぐに分かって一瞬身構えてしまった。


「剣士故に握手の際気を遣わねばなりませんでしたお許しを。ですが康久殿の手も今までの艱難辛苦を乗り越えたのを感じましたのでお相子ですね」


 僕は自分の掌を見るけど良く分からなかった。最近槍の練習をしてるのでその豆が潰れたところはあっても掌は綺麗なものだし。ミコトも気になって僕の手を取りジッと見てみたけど首を傾げ、分からないのが気に入らないのか手を放り投げられた痛い。


「申し遅れました、私はカイテンから参りました華と申します剣士です。冒険者業を生業としておりますので以後お見知りおきそして是非懇意にして頂きたく」

「僕は康久、こちらは相棒のミコトです」


 互いに礼をし合う。リュウリン女史は居ずらそうな感じで暫く僕らのやり取りをみていたものの、その場を去ってしまった。この華って子と何かあったんだろうか。


「ギルド長とはお知り合いで?」

「知り合いたくも無いですがおっしゃる通りです。ですが個人的事情故ご容赦を」


 そう言われては僕らとしてはそれ以上突っ込めない。まだ懇意になった訳でもないのに立ち入った話はし辛い。

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