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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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檻の中と新しい家

「いやぁ先程聞いたんですが何でもあのショウ様の弟子だとか」


 佇まいがパッとみ穏和そうなんだけど何だろうこの凄み。師匠はそれを抑えて抑えてって感じだけどこの人は生命力が強い所為なのか抑えきれず溢れてる。それに当てられて危機感からなのか手汗が凄いし全神経が尖がって来ている気がして抑えるのに必死だ。


「康久さん」


 ミコトに声を掛けられ視線を向けると彼女はいつも通りで慌てて体裁を保とうと咳払いして笑顔でそうですと答える。心配した彼女は落ち着かせるように僕の膝に手を置いた。それで少し冷静さを取り戻した気がしてホッとした。


「うんうん流石と言おうか貴方の戦績は中々素晴らしい。最初に恐竜を退治してその後竜を撃退。デラウンから冒険者業を初めて地道に依頼をこなしシルバーランクへ昇格。デラウンでは恐竜襲撃に参戦しその後首都へ向け出発。ダルマを経てカーマに辿り着きそこで竜神教(ランシャラ)及び竜騎士団(セフィロト)と対立そして消息を絶ちここに来た、と」


 胸元から取り出した手帳をソファに体を預けながらゆったりとした姿勢でめくる。その手の動き一つ一つから目が離せない。いつその指が目の前に迫ってくるか気が気じゃないんだよな何なんだこの人。


「私の発言に何か間違いがあるでしょうか?」

「あ、えーと間違いないっす」


 ほぼ会話の内容が入ってこない……虎の檻に閉じ込められた気分っていうのはこういう感じなのかもしれない。襲い掛かる気はなくてもその気になればいつでもこちらを始末出来る能力と力があるのが僕にも分かっているからなのか余計な動きや発言は出来ない。


その結果自己防衛本能が話を聞かないという選択肢を選んだのかもしれないと後になって思った。こういう状況になったのは初めてで敵じゃ無かったから無事済んだけど、敵やこちらを出し抜こうとする人物相手には不味い。


「康久さん凄い活躍をしてるんですねデラウンで」

「え? デラウン? なんで? ……ああ何でその話をご存じで」


 あまりのビビリ具合に自分でも驚く。それを目の前の紳士は微笑んで見ているそれがまた怖い。ミコトが僕の状態を察して促してくれなきゃすっかりスルーしているところだ。何故この紳士は僕の経歴を知ってるんだろう特に最初に恐竜を撃退したなんて話は知ってる人は限られているはずだ。


師匠を知ってるというならそっちでの繋がりだとは思うけど、まさか竜神教(ランシャラ)じゃないだろうな……そうだとしたら困るどころの騒ぎじゃない。こんな凄い人がこの国で竜神教(ランシャラ)と繋がっていたとしたらそれは紛れも無く敵だ。


「ふふ……怯えて竦んでいるのかと思いきや恐らく私が動けば貴方も合わせて動けるよう体を細かく反応させているのが分かりますよ」


 分かってないですよただビビッてるだけなんでと言いたいところだけど言える筈も無い。敵ではない言う確証は無いしそれどころかちょっと怪しく思えて来たところだ。正直反応し過ぎてこっちが先に手を出さない様気を付けてるくらいポンコツな状態だ。


「あまりおからかいにならないで頂きたいんですけど。彼は臆病でネガティブ気味の人なので」

「それは素晴らしい。世の中能天気で前向きな向こう見ずほど怖い者は無い。戦いにおいてそれは全滅を招く要因にもなり兼ねない。仮に上手く行ったとしたらその人間の天命以外の何物でもない。私はそんな不確かなものは求めていないのですよ」


 目が怖いなぁ戦いって言葉を出した瞬間体から青白い気が炎のように溢れて来たのが見えた。間違いなく武人ではあるんだろうけど、この高潔さと狡猾さは地べたに居る人じゃない。


「何が仰りたいのか良く分かりません」

「そうですね失礼。今日は顔合わせをしに来ただけです。また必ずお会いしましょう。いやぁ今日は最後の方にとても良い出会いがあり私はとても満足です有難う貴方がたと幸運に感謝しますそれでは」


 言いたいだけ言って僕らの手を強引に握って去って行った。僕の手を取ったその動きに全く付いて行けず部屋を出て行った後視界が真っ暗になる。


「と、言う訳でして」


 目を開けるとテーブルが立てになっていてその先に高そうな白いズボンの足が見えた。一つ息を吐いて目を閉じる。あの凄い気配はもう微塵も無く消えていて安心する。だけど何やら左頬に柔らかい感触がするし頭の右側面に手が乗っている気がする。


「ん」

「あ、起きましたか?」


 手が退いたようなので体を起こすと目の前にはデラックさんがお茶を飲みながら僕を見ていた。


「あ、す、すいません」

「いや良いんだよ。それにしてもその御仁一体何者なんだろうね」


 笑顔で言うデラックさんに違和感を感じつつ分かりませんと答えるのが精一杯だ。あの佇まいに気、そして笑顔の合間に見えた鷹のような目を思い出せばそれに縛られて動きが鈍くなる気さえする。


「まぁそれはそれとして、君たちの住まいの相談だったね」

「はい。すっかり依頼をこなす方に頭が行ってしまって今のところ宿無しです」


「僕があの依頼を頼む時リュウリンにも言ったけど君たちにはそれ相応の報酬を払うと約束したのを覚えているかい?」

「ええ。そう言えば色々あって具体的な内容を聞いても居ませんでした」


 僕としてはそんなものがあるとは思ってなかった。依頼は達成したけど悪い点が多く誰にも褒められるどころか叱責されたんだから無いなと考えて次の依頼を受けたくらいだし。


「まぁ君を叱ったが他の冒険者の手前あれは必要な対処だったと思う。ただここではハッキリ言うがイスルの冒険者がだらしないのは我々の責任であって君の責任は一切ない。気にはなるが君の性質を咎める必要も無い。それを妬んだり恨んだりするような流れを排除する為とは言え申し訳なかった」

「いえ問題ありません。分を弁えるのは必要だと思いますから」


 デラックさんが分かってくれているならそれで良いし何より今は家の問題を解決してゆっくり休みたい……疲れが半端じゃなく襲い掛かって来てゆっくりしたら秒で寝れる自信があるレベルだ。


「これをミコトくんに渡しておく。今君は相当お疲れのようだからね」


 デラックさんが一枚の豪勢な紙に文字が掛かれたものとカギを渡して来た。ミコトはそれを受け取り読むと満面の笑みを浮かべる。


「これなら申し分ありませんわ」

「良かったよお許し頂けて。今回の調査の件も先程ギルドの掲示板に通達が出たしこれで君たちを避難できるような人間は居なくなった訳だ」


「それほど厄介な問題だったんですか?」

「申し訳ない話イスルの冒険者の質が低下していると言われたら反論しようも無い。それに関しては別方面からも梃入れをするよう言われている。近日中に新しく加入してもらって活性化を図るつもりだ。シルバー帯の冒険者たちは君たちに厄介なものを押し付けられてホッとしているだろうし、その分寛容にもなるだろう」


「面倒な話ですね……」

「体面が大事なんだよ一応ね。僕にはそれは分からないけど上に立つ者としてなるべく上手く行くように頭を働かせて行動しないといけないから。君たちにはそれで割を食わせたのは間違いない。前の問題もそうだが借りが大きくて困る。そのうち色を付けて倍返しくらいはしたいと思っているから期待してくれ」


 僕は疲労で話は一応聞いていたけどほぼ入ってこないので笑顔で頷いただけだった。その後僕らは屯所を出て兵士の人たちに案内されて住宅街を進んでいく。そしてある灯りの付いていない一軒の家の前に着いた。そんなに大きくは無い軽井沢にありそうな小さめのロッジって感じだ。


「ここがそうなんですか?」

「はい。小さくはありますが作りは丁寧で頑強です。表札の方も出しておりますので今後は配達物もここに届きますのでお忘れなきよう。それでは今後とも御活躍を楽しみにさせて頂きます!」


 綺麗に敬礼する兵士の人たちに最後の気力を振り絞り敬礼して返して見送る。疲れてなきゃもっと喜べたけどもう瞼は落ちたくて落ちたくて仕方ないと言うように迫って来ていた。


「康久さん、取り合えず急いで中に」


 カギを使ってミコトが中に入ると最低限の家具が揃っていて、僕は近場にあったソファに顔からダイブしミコトにごめんねと呟きながら気を失う。

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