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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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不可侵領域での日々その二

寝て起きて作業の繰り返しが続く。この依頼は上級依頼なので制限が設けられていない。長期間になるならそれなりの成果を求められるし、短期間でもそれ相応の成果を求められる。そこに達しなければ減点になり積み重ねていくとランクが下がるという具合だ。


個人的にはミコトが楽しそうに獣族の人たちと会話をしながら作業をしているのを見て良かったと思っている。夜も楽しそうにその話をしてくれるしそれが唯一の救いと言えた。


「何を考」


 真っ白な拳の直撃を受け僕は空を飛んで落下する。一週間は基礎体力をチェックし伸ばす期間だったらしく、今それを終えて組手も入れた本格的な稽古が始まった。パンダだからなのか手加減が全く無く岩石を投げつけているかのような拳が容赦なく襲い掛かってくる。


毎回それを受けている訳じゃないけど毎回避けれる筈も無く。当たれば場外ホームラン並みに吹っ飛ばされた。正直よく生きてるなと思う。死ぬダメージでも体も心もダメージはあるけど死にはしない僕だけど死んでないのは分かる。


「体が頑強故の油断かそれとも慣れか甘えかは知らんが油断してると死ぬぞ」

「単純に疲れてるだけじゃないすか?」


 何とか身を引きずり戻ると仁王立ちしているカンカンさんに目を座らせながら言われ、アーキさんがそれに突っ込む。リベリさんの時もそうだけどゴールド帯の攻撃速度だったりパワーだったり恐竜より質が悪い。


「恐竜を退けて良い気になっているのかも知らんが、我々はあの程度の恐竜はあっさり倒せるのだ。それを忘れるな」

「康久はそう言うタイプじゃないと思うんだけど」


 返事をするのもしんどくて頷きながら構える。その意気や良し! と叫びカンカンさんは構えた。想像してみて欲しい。デカイ着ぐるみのパンダがCGよろしく飛ぶように襲い掛かって来るのを。そんな世界線に来たのは初めて何で脳が理解するまでに時間が掛かる。


その上間合いもめちゃくちゃで範囲もデカけりゃ速度も速い。ほぼダメージを受けて覚える他無い。てか痛みに対して強くなる方が先かもしんないなこれ……。勘で避けて良く避けられてるなぁと感心するレベルだよ。


「今日はこれまで! 作業に戻る!」


 冗談に聞こえたかもしれないけどまだお昼過ぎ位なんだよなぁこれ。夕方まで土ならしがまた始まる。これをまた暫く続けるようだ。ミコト曰く例の件で大分地形が変わっていて生態系がずれたりしているのか見かけない動物なども出て来ているので調査に時間が掛かると言われる。


どっちにしろデラウンに帰る為には是が非でもゴールド帯まで上がらないといけないんだし伸ばせるところまで伸ばして行こうと思う。そう思わないとやってられないし。


筋肉痛も打撲も気味が悪いほど翌日にはドリンクと特製の湿布の御蔭か消えている。けど夜には元通りを繰り返しながら更に一週間が過ぎる。


「多少マシくらいにはなったな」


 地面に倒れ仰向けになっている僕に向かってそう言うカンカンさん。一応素直な攻撃を避けれるようになっただけでフェイントだったり崩しを複数やられたら元通りだ。マシになったとは思えないのが辛い。


「今だったら体力さえあればそのままでもあの恐竜と持久戦でやって勝てるよ」


 アーキさんの言葉に引っ掛かる物があり身を起こして尋ねようとしたけど、体がまだ無理だと起き上がるのを拒否し地面に背を再度預ける。


「何らかの裏技を使ったのは誰でも分かる。そういうモノは我々のランク帯であれば当たり前のように持っているものだから気にするな。寧ろそれが無いでゴールド帯になれたら大したものだよ」


 それを聞いて一気に力が抜ける。ゴールド帯は魔境そのものだというのは理解した。まさかその程度のモノという認識をされているとは思わなかった……僕が気にし過ぎたのかもしれないのかな。


「それは兎も角持久戦で勝てる等と言う博打染みた戦いをしていては命が幾つあっても足りないし、我が流派がそんな戦い方を旨とすると思われては叶わない。是が非でもそれ以上にはなってもらう」


 ああ空が青いなぁ……いい景色だわホント。僕は諦めて気を取り直し立ち上がり稽古を再開する。避けられたところで仕掛けられないならアーキさんが言うように持久戦に持ち込む他無い。それも戦い方ではあるけど毎回そんな時間を掛けられる訳でもないのだからほぼ最終手段に等しいと思っておかないとダメだと思う。


上級依頼をこなし上に行くには正確さと精密さ、それに速度が必要になる。頭は勿論だけど体の強さも求められるだろう。特にミコトとのコンビでは僕が体力面を担っているのだからバッチリこなせるようになっておかないと。


「良し! 地ならしの時間だ!」


 僕らは鍬を持ち荒れた場所の土をならしてく。二週間かけた甲斐あって大分マシになった。これくらい整備出来れば交通の面でも大丈夫だろうし、植物も前の記録を見ながらその場所に植えて居るので完全に元通りとはいかなくても少し違うくらいには出来るだろうとの話だ。


「良し良し!」


 更に一週間繰り返し、復旧や調査も一段落との話が出た次の日。僕らはクレモナさんに頼まれた書類をリュウリン女史に渡し記録も提出する為一旦引き上げる。その前に稽古を付けようとカンカンさんに言われて稽古を始める。


大分その動き自体に慣れてきて動きは終えるし驚いて体が竦むとかも無い。意外な動きをしても範囲が分かれば避けようもある。後は隙を突いて攻撃に転じるだけ。


だけど隙を突いても一撃入れたと思ったものが受け止められて放り投げられる。そこからラッシュで叩き込んだりとは繋がらない。アーキさん曰く直線的で崩しも無いのに入れられる訳が無いとアドバイスを頂きフェイントなどを入れてみるもあっさりぶっ飛ばされる。


その上での良し良し! だからまた更に良く分からない。ほぼ子供だましのようなフェイントであっさり見破られてカウンターを打たれてる辺り酷いもので目も当てられないと思うんだけど。


「今までのを思えば進歩と進化を感じて宜しい。慣れも重要だが慣れに甘んじていては先は無い。自分でもなってないと言うのは理解しているだろうから、そこを成ったとなるまでしっかり崩しを経験で学ぶように。また必ず会おう」


 お昼前に稽古の終了が告げられて握手を交わす。そしてクレモナさんたちから送別を兼ねてお昼ご飯を御馳走になった。野菜や果物、それに魚のお鍋など凄いボリュームの量が目の前に現れ僕とミコトは驚く。


味もまた新鮮で瑞々しく歯応えもバッチリ。味付けもさっぱり気味で後を引かないのが良い。体全体に染みわたる自然の美味しさって感じだ。


名残惜しいものの僕らは調査隊のテントを後にする。思えばかなり長い間ここに居たけど振り返るとあっという間だ。何しろやってる作業は同じで景色が少し変わる程度。ミコトは毎日新しい発見があったようでそれを聞く時が安らぎの時間だった。


「あらやっと帰ってきた」


 ギルドへ行き調査書類と頼まれたものをカウンターに提出し暫くラウンジで久し振りのお茶を二人で楽しんでいると、リュウリン女史が奥の部屋から出て来てお茶を持って僕らの所まで来た。


「お久し振りですギルド長」

「お久し振りねミコトさん。髪の毛大分傷んだんじゃない? 調査隊のお風呂と言えばヒノキ風呂だけど相手が獣族だから髪質とか肌質があの人たち頑強だし洗剤とか大丈夫?」


 と女子トークが始まる。僕はその間お茶をゆっくりと楽しみながらテントでの日々、というかカンカンさんとの稽古の日々を思い返す。あれがゴールド帯の凄さか。僕が倒したあの恐竜をあの程度と言えるだけの実力をこの身で知った。


何処の町でも自分の所からゴールド帯を出したいと言うのが分かる気がする。あんな凄い人たちが自分の身内だったらどれだけ心強いか。僕は師匠の御蔭で運良くカンカンさんに面倒を見て貰えたけど他の人はそうはいかないだろう。


自力でゴールド帯に上がる人ってどんな人なんだろう。とても興味が湧いて来た。

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