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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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不可侵領域での日々

「まぁ見ての通りの人物です。姉上と同じ師を仰いでいるようで」


 そうアーキさんが説明すると彼らから感嘆の声が上がる。師匠何したんだろうここで。気の遠くなるような修行を重ねて”一撃”と言う二つ名を貰うほどの達人となったのだからこの地方に居ても可笑しくは無い。師匠なら原生林で修行してたと言われても納得するししてるなこの感じだと確実に。


クレモナさんも象の獣人とは言え筋骨隆々で隙が無い。それ以外の人たちも一流の戦士であるのは相対していれば分かる。こういう人たちから尊敬される人が師匠かと思うとホント恐縮していまう。しかも変身して倒したんだから肩身が狭い。


「ショウ様は御健在だろうか。何故か好んでカイビャクのギルド長になられたと聞いていたが」

「とても元気でした。自分も暫く離れているのですが」


 カンカンさんが目を輝かせて師匠を様付で呼んだので驚きつつそう答えるとうんうんと力強く頷いた。今の言い方からすると獣族からもカイビャクは評判悪いんだなぁ……。まぁカイテンの国での乱が獣族に無かったとは考え辛いからそうなるのも仕方は無いか。


竜神教(ランシャラ)ってそんなに悪い宗教だとは思えなかった。別に拝もうとも思わないけどダルマの町とか思い出しても悪い雰囲気は無かった。カーマは物凄く変だったけど。あそこで何が行われていたかもう少し分かったら良かったんだけど今となっては変だったとしか言えないのが口惜しい。


「ショウ様は分け隔てなく公平に見られる御方。あんな国に居ては生きるのも辛かろう……」

「師匠はそれでも弟子の僕らを育てつつ町と国を護ろうと奮闘されていました。他の町に友人も多いようですから大丈夫だと思っています」


 カンカンさんがもう激しく同意と言わんばかりにヘドバンするレベルの頷きをしていたのが気になるけど、師匠は何処に居ても今の師匠だと信じている過去は分からないけど。


ただカーマの件を考えると悠長な気分ではいられない。チーさんも感じていた嫌な予感がまだ解消された訳じゃないどころかここへ来てから強まった気さえする。離れて知るカイビャクの別の面。国の中では穏便に布教してたのかもしれないけど、まさかここまでとは思っていなかった。


師匠は信じようと信じまいと平等であるべきだと説く人だからそういう人がいつまで無事でいられるか分からない。何しろ僕も突然居なくなったからその責任を取らされたりしないかと気をもんだりもしている。


「康久君たちの面倒は私が見ましょう」

「そうかなら頼もう。私たちは周辺の復旧作業があるのでこれで」


 クレモナさんたちが去って行くとカンカンさんは表情を和らげ満面の笑みになった。あまりの変わりように驚く……てか驚きっぱなしだ。最初の印象と大分違うんだけど。


「改めて自己紹介を。私はカンカン、ショウ様のパンダ族唯一の弟子であり君の兄弟子に当たる。これから宜しく頼む」

「こ、こちらこそ宜しくお願い致します」


 掌に拳を当てて丁寧にお辞儀し合う。そして終わるとミコトとも握手をしてくれた。


「正直どんな奴があの恐竜を退けたのか、武人として興味があったのだ。だが弟弟子と聞いて私は鼻が高いし師匠の育成の素晴らしさを思うと感激しかない。私にとってこれほど嬉しいものはない。例え他の者が拒否しようと私は君たちに全面的に協力すると約束しよう」


 圧が凄い……その笑みと声の力強さで吹き飛ばされそうになりそうだ。ミコトは素早く僕の後ろに隠れて難を逃れて偉い。


「実は僕らは師匠の様子も気になってなるべく早くデラウンに戻りたいと思ってまして」


 そう話すとカンカンさんは表情を曇らせ言い辛そうな感じになってしまった。喜怒哀楽がハッキリしてるなぁ。


「僕が説明しよう。君がどうやってここまでこれたかは分からないけど、現在例の竜神教(ランシャラ)の乱によって国交は無くなっているから難しいよ」

「アーキの言う通りだ……私としても全面的に協力するがなかなか……ってアーキなんでここに居るんだ」


「そりゃ僕の姉上の弟弟子なんだから僕も面倒見るでしょ?」


 クレモナさんたちと去らずに残っていたアーキさんにカンカンさんが突っ込みを入れる。当たり前だと主張するアーキさんに対して溜息を吐いて空を仰ぐ。


「まぁ良い好きにしろ。康久が師匠を思ってデラウンに戻りたいのは分かったしその為の協力もするが、どうすれば良いかと言われると中々難しいんだ」


 デラウンはここから北北東の位置にあり間には原生林と砂漠と荒れ地というこの星の難易度の高い場所が間にあって容易には辿り着けないようだ。一番楽なルートは関所が点在していて現在は国軍が守りを固めているとの話だ。


「そうなると一番楽且つ確実に辿り着く方法はただ一つ、国軍に協力するしかない」

「ちなみにシルバーランクなんて御呼びじゃないよ?」


 アーキさんの言葉に苦笑いで答える。そりゃそうだろうねカイビャクでも国を守護している竜神教(ランシャラ)竜騎士団(セフィロト)は一人ひとりゴールド帯と五部の戦力がある集団だ。この国がそれに劣る人間を国軍として揃える訳が無い。


「ちなみにクレモナ殿も国軍の幹部の一人で獣族の代表でもある」

「ゴールド帯筆頭でもあるね」


 強いなんてもんじゃないな……僕程度なら即殺されそうな気さえする。可笑しいよなぁやっぱ。なんでチート能力持ってるはずの僕が下から数えた方が早いんだろうねこの星凄いわ。


「故に依頼を重ねつつ修行も重ね隙あらばアピールせねばならん。かなり忙しくなるだろうが応援する」

「ちなみにカンカン殿はゴールド帯にギリギリいる。僕もだけど」


 それを聞いて僕はゲンナリする。アーキさんは確実に手を抜いてここに僕たちを連れてくる為にわざとやったんだ。ジト目で見ると視線を逸らしたから間違いない。


「まぁでもアーキの演技の御蔭で我々も君を認めた訳だしそんなにガッカリしなくても大丈夫だ。何より早く強くなる為には強い人間と共に居て修行を積むのが一番だ。と言う訳で調査中は私が君を徹底的に絞るので頑張る様に」

「僕もそうするよ」


 ああ……何だか怪しげな笑みを浮かべる二人を見ているとやっぱ嵌められたんだ間違いないと確信した。ミコトを見るととても嬉しそうな顔をしている酷い。


こうして僕らはここで調査しつつ修行を送る日々が始まる。ミコトは獣族の女性の方々と周囲の植物や動物たちのスケッチをし、僕は鬼軍曹たちと共に岩を砕いたり土を耕し種を蒔いたりと肉体労働を専門でやっている。


夜もテントで休むけど筋肉痛が酷くて寝たんだか寝てないんだか分からない内に夜が明けた。で、二日目から凄まじく不味いドリンクを飲まされ食欲も無くなる。体に良いと言われる獣族の伝統ドリンクらしい。


師匠も愛飲したというのが嘘っぽいしゲロ不味いのが堪らない……。唯一匂いはしないのが救いだ。これで下水道みたいな匂いがしてたらただの拷問でしかない。そんなレベルの不味さだ。


「康久さん、起きてください朝ですよ」

「うぇ……?」


 ゲロ不味ドリンクを飲んで作業をし諸々終えて就寝したところ気付いたら起こされた。どうやら死んだように眠っていてミコトは随分心配したらしい。起き上がってみると体の調子がとても良い……。良薬口に苦しって感じなのかな?


「あれって何が入ってるんですか?」


 ミコトがカンカンさんとアーキさんに尋ねると、二人は僕から離れたところにミコトを連れて行きひそひそと話した後戻って来てミコトは切ない顔をして僕を見る最悪だ。絶対に変なもんが混ぜられてんだ決まってるよ間違いない! これで体が良くなってなかったらブチギレてるところだ。


僕は敢えて中身を聞かず今日もそれを飲み干すと、ミコトたちから歓声が上がる畜生覚えてろ……! いつの日か復讐を誓いつつその日もボロ雑巾になるまで搾り上げられ床に就く。

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