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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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207/675

不可侵領域付近にて

「流石に気付かれたか」


 遠回りして森から入り迫ったものの気付かれたようで、自分の何処に落ち度があったか分からないけど甘さと悔しさから吐き捨てる。その影は背後から忍び寄ってきて僕が反転したところをナイフで突かれるもギリギリで避けて腕を取りそのまま放り投げ僕は一目散に元来たところへ戻る。


ミコトが心配だ。相手もこちらに気付いた可能性が高いから直ぐに距離を取らないといけない。全力で走るも後ろからさっき放り投げた者と同じ気配が近付いてくる。身体能力の高さからして奴らかもしれない。となるとコイツだけでもやるしかない。


もう一度反転し同じように放り投げて間合いを取り今度は逃げずに迎撃する為足を止め構える。さっき投げた時本気でもない気を感じたけど攻撃を止めはしないようだ。こちらからは攻めずに少し様子を見る。相手は動き回って自らを捉えさせないようにし始めた。


目で追えないならばと目を閉じ気を追おうとするも、それも追えない……森の中でこれだけ俊敏に動くのに気配すら消せるなんてどういう人物だ? 元々の身体能力が高く自然に動き回れる人物って考えるとこの近くなら獣族しかいないけど全身をローブで覆っていたので正体が分からない。


ただ相手はこちらに攻撃を仕掛けて来たから戦う意思はあるんだろう。なら手を抜ける相手じゃ無いしやられる訳にはいかない。正体は一旦置いておくとして対処しないと……とは思うけどどうしたら正確に捉えられるのか。


――動かないで相手の敵意っていうかー攻撃する意思に対してのみ反応出来るように体と心をリラックス、師匠的に言うなら無になれば出来るよ――


 不意にチーさんと依頼をこなした時に言われた言葉を思い出す。すばしっこい珍しい猿を捉えて欲しいという依頼でこれが目でなんてとても追えないし気は小さいしで捉えきれなかった。悪戦苦闘していた僕に一緒に依頼を受けたチーさんがアドバイスしてくれチャレンジしたものの出来ず、チーさんがお手本を見せてくれた。


逃げ回る猿を追わずに餌のリンゴを頭の上に乗せ目を瞑りだらんと力を抜いて立ち始め、暫くそのまま待っているとお腹を空かせた猿が周囲をうろつき始めた。僕は手を出さずジッと見ているとやがて我慢しきれなくなったのと相手が寝ているようだと分かったのか木を伝って迂回した後リンゴに飛びついた。


流れるようにチーさんの手は飛び掛かってきた猿を右手に持っていた袋の中にすぽっと入れてしまう。そこに敵意とか気を発してとかなく自然な流れてスッと入れてしまった。簡単でしょ? って言われたけど見た目ほど簡単でないのは僕でもわかる。


やるなら今を置いて他に無い。この状況を打破する為にチーさんのそっくりそのまま真似てやってみよう。僕は覚悟を決めてフッと息を吐いた後力を抜いてその場に立つ。相手はそれでも動きを止めない。まぁ変に動きを止めたら不味いから止めないんだろうけど、少し距離を離したり近くしたりと動きを変えては来た。


こうして気を貼らずに立っていると相手の動きや小さな気も随分大きく見える。だけど早いのはそのまま。この際分からないんだから相手の動きは無視して頭を空にしてみる。ブンブン五月蠅いけどどうしようもないと思い続けていると構わなくなってきた。そうすると気持ちも楽になる。


「よっ」


 案外早く相手はこちらに飛び掛かってきた。次第に大きくなる気を感じて目を開いてしまったものの何とかナイフを避けて腕を掴みそのまま後ろに回って動かない様地面に押し付けた。チーさんだったら目を開けずに捉えたんだろうなぁと思いつつ何とか相手を捕獲で来たので及第点くらいはくれるだろうと思いつつ開いている手で相手のフードを取ってみる。


「あれ」

「よう」


 見覚えのある人だった。チーさんの弟であり武術会で会ったアーキさんだ。その顔に一瞬ホッとするも気を取り直す。組織の人間だったらこのままでは済ませない。それを問い質さなければ。


「何故こんな真似を」

「武術会では当たれなかったからさ。是非とも実力を知りたくてね。及第点レベルだけど姉上に近い感覚を持ってるのは分かった。それにこのやり方は姉上のやり方そのものだ」


「そんな理由でちょっと知ってるくらいの人間にナイフを向けたんですか?」

「姉上の近くに居て気に入られていた人間が弱い相手じゃ話にならないからだ」


 言葉に少しの殺意が混ざった。一体これは何だ? 僕にも姉弟が居たような気がするけどそんなレベルだからこういう感情を抱いた覚えが無いけどそういうものなのだろうか。


「君は僕らを狙って襲撃したわけじゃないのか?」

「さっきいった通りだ。イスルの町から獣族に申請は出ているから調査に関しては問題ない。ただ他の連中が入ってこないように見張るのも一応僕らの仕事だから見回りをしていたら君に出会ったって訳さ」


 嘘は言ってないように聞こえる。ただ全面的に信じる訳にはいかない。僕が君たちのテントに案内するよう頼むとあっさり受け入れた。ミコトが心配なので戻るとミコトはのんびりと鉄で作られた水筒のお茶を飲んで待っていたのでホッとする。


「あらお久し振りです」

「どうも。どうやら君の相棒は警戒心が僕らより強いらしい」


「そりゃそうですよ貴方たちはただでさえ僕らより身体能力が上なのに油断なんてしないですよ普通」


 僕の言葉に二人はハモりつつ確かにと同意してくれた。そしてそのまま馬車に乗り例のテントの場所まで行く。そのテントの前には豹族じゃなく二本足で立つ象さんやパンダが軽鎧ぽいのを着て立っていた。どうやら彼の話は本当みたいなので手を放す。


「良かったよ殺される前に納得させられて。これでチャラにしよう」

「お互い分かりあえて良かったですね」


 お互いにニッコリしながら握手を交わす。向こうが仕掛けて来たのとこちらが警戒して怪しい動きをしてしまったのもこの握手で流す。そしてテントの前で馬車を止めて皆で降りた後、僕とミコトは名乗って今回の用件を伝えると、獣族の人はがははと笑った。別に嘲笑されている感じじゃないけどなんだろか。


「いやすまんな私は象族のクレモナ、こちらはパンダ族のカンカン。この付近の警備隊の指揮を執っている者だ以後宜しく」


 大きな手だなぁと思いつつ手を僕も差し出すと、指二つで僕の手を掴んで握手した。それでギリギリだったし、ミコトは人差し指だけで丁度良いくらいだった。カンカンさんは掌に拳を当てて僕らに一礼しただけで御終いだったので、それを真似て一礼する。


「君とアーキの戦いはとても見ものだったぞ。流石調査にくるだけの人間だ。我々は喜んで協力しよう」


 バレてるー。苦笑いしながらアーキさんを見ると一緒になってガハハと笑っていた。笑って済ませて良いのか分からないけど無しにしようと言って握手をした以上この件では拘らない。


「イスルの町の冒険者共が梃子摺っていた恐竜を一日で倒して道まで整備した強者とはどんな人物かと思って実のところ戦々恐々としていたが、少しホッとしている」


 それは良かったと答えつつも与しやすいように見えるからだろうなと思う。見た目的に威圧するような感じでも無ければ美的なもんでも無いし平凡そのものだ。そういう意味では安心安全で有難い。


「勿論ながら油断はしないが君らとは戦争状態ではないから刺々しくするつもりもない。私の言葉から察したと思うが、例の輸送路の件は我々の方でも問題になっていて君が対応しなかったらうちから人間を出していた。その前段階の調査がてら例の武術会にアーキを派遣したという次第だ。両陣営に波風が立たなくて私はホッとしているよ。カンカンは残念そうだったけどね」


 クレモナさんの言葉に他の獣族の人たちは声を上げて笑う。陽気な感じの人たちだなぁと思いつつもカンカンさんだけが憮然としていたのが気に掛かる。

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