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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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シルバーランクを駆け上がる

「良し! 今日もちゃんと来れて偉いわね!」


 次の日ギルドに行くと相変わらずリュウリン女史が待ち構えていた。仁王立ちしつつ腹から声を出しているので眠気も覚める。


「別に康久さんは何も言わずいつも通りですよ」

「……良く分からないわね。肝が据わってるようなタイプじゃないのに。神経細やかじゃないけど細くて弱っちそうにしか見えないんだけど」


「冒険者としてここまで色々あったんですよ、ね?」


 ミコトの問い掛けに苦笑いしながら頷く。この世界に来て最初からあんなだったし吹っ切れたと思ったんだけど、過保護にされてまた放されるとぶり返してしまいそうだった。これじゃダメだと思って昨日寝ながらそれまでの日々を振り返り足りないものに気付く。


ミコトが目覚める前にそっと起きて着替えて恐竜のお墓に出向き線香代わりに枝に火を点けたものを刺して祈った後、そこで師匠との修行を思い出しながら始めた。この世界に腕時計など無いので陽の上がり方とかで判断するしかないから、陽に向かって拳を突き出したりして見計らい宿に戻った。


御蔭で少し精神的に落ち着いた。修行は体を鍛えるものではあるけど心を鍛えるものでもあるなぁと思う。心も太るっていうのを実感した。軟弱さが顔を出してただのダメ人間に逆戻りするところだった。


「まぁ良いわ安定してないのは確か見たいだし。萎える前に依頼を探すと良いわ」


 どうせ長く続きはしないと言わんばかりの口調で言いつつファイルを差し出して近くのテーブルに座ったので、僕らもそこへ着く。ファイルの表紙には”シルバーランク上位者依頼”と書かれていて僕とミコトは顔を見合い目を丸くする。


「非常に不本意ではあるけど仕方ないわ。うちのシルバー帯の連中がだらしないのもあるけどどっかの誰かが一日で依頼をこなした挙句に道まで綺麗にしてお墓まで作って朝拝みに行くもんだから町も五月蠅くてね。皆人情に弱いらしいわこの世の中で珍しい」


 朝開門前にこっそり抜け出したのに何でバレてるんだ!? 内心驚愕しつつ笑顔で避ける。ただ二人も笑顔でとても辛い……。こういう場合はどうしたら良いのか分からないので笑っておく。


「兎に角今日からこれで探して頂戴。これより下は見れないからそのつもりで。さ、どうぞ」


 前の話が無ければとても素敵な笑顔なんだけどただ怖い。差し出された開かれたファイルを覗き込み表情が固まってしまう。探せと聞いたけど聞き間違いだろうか。思いっきり赤でぐるぐると囲うように丸がされている。見方を変えればホラーでしかない。


僕は別の依頼に目を動かそうとするとファイルも動く不思議。全自動追尾システムでも搭載してるのかな? このやり取りを暫くした後でついにはその紙のみを突き出される始末。選択肢が無い。


「あら今日は不可侵領域付近への生態調査ですね」

「そうよあの辺りは何かが起きて地面が抉られて大きな穴が開いた後、雨やらで水が何でか溜まって湖になったみたいなのよ。ちょっとそれを調査してきて欲しい訳。本来は協定で入れないけど調査なら良いって許可を貰ってるわ。ひょっとすると獣族も居るかもしれないけど気にしないで」


 気にしないでって言われても気にするでしょ。しかも僕らはあそこに色々あって行き辛いのに。僕はミコトを見ると澄ました顔をしている。だけどこっちを不安そうな顔で見るなという気を感じるので視線を逸らす。


「では用意して出掛けてきますね」

「行ってらっしゃい」


 ミコトがサインしリュウリン女史がそれを受け取り調査時記入するノートも貰って席を立つ。


「だ、大丈夫かな今あそこに戻って」

「問題ありませんよ。何だったらあそこは今は私の領域でもあるので寧ろ彼らが近付けないかと」


 それを聞いてホッとする。またあの状況になればウルド様を失った時の再現になってしまうからそれだけは避けなければならない。今の僕では月読命一派には太刀打ちできない。心も体も強くして出来れば一派と戦う人たちを集めて戦わないと無理だと言うのはこないだので痛いほどわかった。


具体的に如何すればいいかなんてまだ分からないけど先ずは地道、一歩ずつ依頼をこなすしかない。


「そう怯えないでください。間違いなくウルド様は彼らに決定的なダメージを与えました。組織は半壊というか全滅に等しく研究資料も水の泡。あの土地に貴方がたを呼び寄せたのが誰かは知りませんけど予測不可能な襲撃で何の準備もしてませんでしたから私も逃げる用意なんてしてませんでしたし」


 そう言われて最初に会った時を思い出す。荷造りして担いで逃げて何とか無事村に辿り着いたっけ。そんなに時間が経ってる訳じゃないのになんだか懐かしい。


「安心してくださいその点に関しては。但し他の種族がどういう捉え方をしてどう思ってるかは実際見てみないと分かりませんけど」


 獣族もそうだけど他にもあそこを聖地としているところがあるようだし慎重に調査はしないといけない。気を引き締めつつダンデムさんのお店で果物やキャンプ用品、それにツルハシやスコップを購入する。前に使ったのは僕が加減をしないで使ったのでダメになってしまい、リールドさんから直せないから買い直すよう言われていた。


準備を終えてリールドさんのところで馬車を出して調査へと向かう。町を歩く際にも僕らを見る目が人によって違うのが何とも言えない気分になる。冒険者以外の人はほぼ好意的に見てくれて挨拶もしてくれるし世間話もしてくれた。兵士の人たちは通る度に敬礼してくれるので、こちらも敬礼して返す。


ただ冒険者の人たちは恐らくシルバー帯と思しき人は苦笑いで微妙な反応、ブロンズ帯だという冒険者の人は憧れの眼差しを向けられて眩しい。ブロンズ帯の人たちはこの町のシルバー帯に対してあまりいいイメージを持ってないというか言い方が悪いけど腰抜けって感じで見ているのが、声を掛けてくれた僕より年下のブロンズ帯の子から感じ取れた。


「康久さんが英雄に見えるのかもしれませんよ?」

「喜べないなぁ」


 そうなった件が件だけに全く嬉しさは無い。何より僕は恐竜の寿命が近かったのと変身して解決をしたという負い目がある。個人としての力では全くない。正に運が良かっただけだ。変身しなくても勝てるようになりたい。正々堂々生身の身で。


元引き籠りが何を言ってんだと言われるかもしれないけど、この世界に来てここまで生きて来たのは僕自身の生きる力もアップしたからだと思っている。もっと修行を積んで鍛えて行けば辿り着けると信じる事にした。


「良い感じですね。是非持続して欲しいものです」

「頑張ります……」


 ミコトには全くもって頭が上がらない。ズバッと言ってくれるだけでなくフォローもしっかりしていて尊敬する。そう言う相棒の為にも頑張ろうと思う。まだまだ道は遥か彼方にある。



暫く草原から森へ入りのんびりとその中を進んでいくと、焦げたような匂いが少し漂ってくる。やがて森は薄くなり大地がむき出しになって来て更に湖が現れる。あの時戦い失った場所だ。その時を思い出すと未だに悔しさと憎しみと絶望感に捉われそうになる。


「康久さん、あれ」


 僕はミコトの言葉にハッとなりいつの間にか立ち上がっていたのに気付いて座り彼女を見ると指を刺していたのでその方向を見る。すると右の先にテントが複数あり焚火をしているのか煙も複数上がっていた。僕の中で緊張が走る。ひょっとすると研究資料やらが無いか探しに来ているんじゃないか。


「僕が様子を見てくるよ」

「お願いします」


 ミコトは素直に受け入れてくれたので僕は馬車を降りてテントがある場所までゆっくりと気配と音を消して近付く。完全な無には成れなくても最小限には抑え込める。こうすれば相手が無防備に気を発していれば一瞬で気付ける筈だ。


周囲を警戒しつつ少しずつ距離を詰めていく。何かあれば変身して一気に片を付ける。覚悟を決めてゆっくりと音を立てずに草むらを移動し木に隠れる。


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