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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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イスル南草原その二

翌朝もいつもの感じで過ごした後、一旦前の村に戻りオヤジさんとおかみさんに挨拶をする。二人はとても喜んでくれてまた顔を出してとも言ってくれた。ミコトをおかみさんとオヤジさんはとても大事そうに抱きしめていたのがとても印象に残った。


「親が居たらあのお二人のような方なら真っ直ぐ育つでしょうね」


 そうだねと僕も同意する。親と言えど一人の人間であるように子供もまた一人の人間で同じではない。だけどその土壌として人格に優れ器の大きい両親ならその子は明るい方へと延びて行きやすいんじゃないかと思っている。


その後ギルドに戻り依頼を探す。今のところ収支はプラスなのでどんどん伸ばしていきたいし、黒字が大きく成ればまた孤児院の皆に何か差し入れしたい。ただ今のところ最底辺なので依頼は大きなものが無い。どうしたものかファイルを見つつ考えていると、リュウリン女史が部屋から出て来て僕らの所に来てくれた。


「良いんですか? ギルド長が私たちばかりに目を掛けて」

「良いんじゃない? 貴方たちが町の任務でデラックたちに協力したり孤児院に寄付したりで町からすれば貢献度高いからね。僻むならそれなりにしてみろって話よ。本来ならシルバー最底辺じゃなくてもっと上でも良いんだけど、そこは貴方たちに対する僻みを減らす為の配慮って訳」


 リュウリン女史は他のラウンジに居る冒険者に聞こえるように大きな声で話すと場は静かになってしまう。注目集め過ぎじゃないかな。


「仮に僻んでみなさいよ、自分が見分だけでなく人としても下であるのを公言してるようなもんだからさ。私なら恥ずかしくて出来ないわよ? 冒険者なら伸びる芽もありませんて言ってるようなもんだし」

 咳払いが増える。それを聞いてどんだけ僕らは僻まれているのか心配になってきた。ミコトはくすくすと口元を隠して笑っていたけど僕は苦笑いしか出来ない。


「まぁそれだけ羨ましいって話なんだろうけどね。僻まれ妬まれるのも強者の証であり強者になれる芽でもあると私も思うわ」

「それは同意だな。君も駆け出しの頃は異端児として厄介者扱いされてたからな」


 不意に後ろから声が聞こえる。振り返るとデラックさんがギルドに来ていた。それを見て皆が席を立ち一礼するとそれに対して気にしないでと言うように小さく手を上げながらこちらに来た。


「あらデラック総隊長、今日は何用で?」

「つれないなリュウリンは。僕らと冒険して色んな珍しい物を発見した仲じゃないか。あ、申し訳ないがお茶を一つ頂けないだろうか」


 受付の人にそう声を掛けつつ席に着くデラックさん。リュウリンさんは面白くなさそうな顔をして頬杖を突く。


「お二人は共に冒険者として旅をしていたんですか?」

「そうなるわね形的には。私が行くところにコイツとサスノが付いて来ただけだけどね」


「懐かしい話だ。君とクシナの二人で森に迷った時の救出依頼が始まりだったね。ランク帯も同じだったし受ける依頼も一緒にこなせたから僕らも早くランクが上がって良かったよ。康久とミコトのコンビのような感じでは僕らは無かったからね」

「サスノにスケッチだの観察だのは不向きだしね。アンタもそう言うの苦手じゃない」


「残念ながら剣の腕すら道半ばなのでね」


 あの剣の腕で道半ばならこの世界のレベルは上の方は天井知らずなのかもしれない。やっぱりチート能力はそこかそれを凌駕するくらい貰えないとチートって言わないよなぁ。強い人山ほどいるんだものなぁ。


「そんな昔話をしに来た訳?」

「ああそうだ忘れてた。君たちに貸している宿について何だが」


「どうせやっかみで退去しろって話でしょ? 良いわようちで部屋貸すから。昨日の発見について私の評価がまた上がったから得しかなかったし」


 くだらないと言うように手をしっしと追い払う感じで振りながら言うリュウリン女史に対してデラックさんは苦笑いをして答える。昨日の発見と言うか報告はリュウリン女史の役に立ったらしい。


「気持ちは分からんでもないがそうなるとまたやっかまれる。私としては定住して欲しい」

「とは言え先立つものが無いじゃ話にならないでしょ? まさか宿無しで過ごせっての?」


「私は友人に路上生活を望むほど冷酷な人間ではない。ここはやはり正しい場所に居るべきだと考えて今日直接ギルド長殿に交渉に来た訳だ」


 デラックさんの言葉に今にも舌打ちしそうな顔をして睨むリュウリン女史。暫く経ってから気付いたのか大きな声を上げた。


「なるほどね確かに功績としたら十分か。町からの評価もあるし……てなると丁度それに当てたい依頼があるって話じゃないの? きったないわねアンタ」


 何を言ってるのかさっぱり分からない僕とミコトは顔を見合わせて首を傾げる。デラックさんに視線を向けると満足げに頷いていた。


「それやらせるならちゃんと報酬出しなさいよ?」

「勿論だとも。何しろ他の冒険者が嫌がって手を出さない案件だからね。康久とミコトには悪いけど一週間提示した後で君らにその依頼を回すから他の依頼をこなしていて欲しい。一週間あってそれを達成出来ずその後君らが達成したらそれで誰も文句は無いだろう。君らは贔屓ではないという証明も出来るし、私たちも君たちに大手を振って報酬を出せる」


 腰に手を当て胸を張って言うデラックさん。何の話かさっぱり分からないので僕とミコトは首を傾げる他無い。リュウリン女史もデラックさんの言葉を聞いてニヤリとした後、僕らに生態調査の依頼の紙を差し出しサインをさせた後急いで部屋に戻っていった。


「という訳で宿もその時まで使ってくれ。私からの感謝の気持ちと友人としての友好の証の切れ端にも満たないものだが」

「あ、いえとんでもないありがとうございます」


「こちらこそだ。それとさっきの話を忘れないように。一週間我慢して待っててくれれば良い。貸しが増えた分しっかり返せる依頼だと思うから」


 そう言った後ウインクしてその場を後にした。なんて言うかアメリカの映画に出てきそうなカッコいい人だよなぁデラックさんは。出来れば僕もああいう大人になりたかったし大人ってあんなイメージだったなぁと見送りながら思った。


その後僕らは依頼をこなすべくダンデムさんのお店に向かい必要なものを揃えてリールドさんのところで馬車を出してイスル南草原へと向かう。今日はなんだか森も平和な空気が流れていたし、草原に到着しても特に昨日のような凄い出来事は何もなかった。


なので僕らは地図を見つつ更に南の方へ足を延ばしてみた。イスル南草原を長い時間掛けて南に進むと先の方に長い塀が現れた。二人で地図を確認したけどどうやらあれが首都の壁らしい。塀の上に櫓があり兵士たちが見回りをしている。流石首都って感じがする。イスルも兵士の人が見回りはしているけどあんなに多くは無い。 


僕たちは今は首都に用事が無いので一旦引き返して辺りを調査して回る。植物や昆虫の巣だったりをスケッチしつつ、この日は鉱石が顔を出している部分があったので鍬で周りの土を掻きだしてみる。が、どうやら鉱石だけでなく根元にモグラのような生き物が居て目が合ってしまった。


戦闘になるかもと警戒したけど睨まれただけで何もなく、僕はこれじゃ取れないと思ってゆっくりと土を戻していくと”それで良い”と言わんばかりに目を閉じた。その様子をミコトはスケッチしつつくすくす笑っている。僕は何も無くてホッとしてるのに酷い話だ。


それ以降も草むらに何かいないかチェックに行くと初めて見る動物に出くわしたり大きめの昆虫が居たりと驚くばっかりで相変わらず僕のプラスポイントが何もなく夕暮れになって帰還する。

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