一歩進んでまた戻る
僕は嫌々ながらも何にしてもここから移動しないとまたあのサディストの言う通りになるのは間違いないと思い武器があった場所の更に先へ足を進める。
恐らく武器が僕の中へ消えたのも何かのヒントなのだろうけど一体この先どうなっていくのか。酷い苦痛を味わって絶命したにも関わらずまた生き返らなければならない。
この地獄の先に何が待っているのか元の世界へ帰れるのか……そう思った自分に驚き小さく笑う。死にたがってたのにまさか帰りたいなんて考えが浮かんでくるのが可笑しかった。
武器の側にあった小袋を拾っておいたので中身を見ると青い液体の瓶1つと干し肉がそのまま突っ込まれている。不潔だ……ジップロックくらい無いのかよ。
この先も思いやられるなぁ絶対トイレもあったところで絶対汚いし下手すると飲み水すら泥が混じってそうだ。腹痛とかで死んだりするのだろうか……盲腸になったらどうするんだろう。
麻酔とか無かったら激痛で死ぬ自信ある……恐怖以外の何ものでもない。
足取り重く砂漠を進む。砂漠は夜はとても寒く凍え死にそうだ。そしてそれを象徴するかのように生き物が見当たらないし生命の息吹すら感じない。
あるとすればそれは満天の星空。無数に散らばる星の海のどこかに僕の居た地球はあるのだろうか……。
思うにあんなサディスト女神が居るくらいだからこの星の文明はそう高くないだろう。下手をすると恐竜ぐらいいるんじゃないか。
それにしてもあんなしょぼい武器でどうやって戦うのだろう。僕は冗談ぽく右手を突き出し柄を握り地面から引き抜く動きをしてみると玄関ドア位の長さの剣が現れ暫く硬直する。
刃幅は僕の腕位でゲームでよくあるトゥーハンドソードだろう。大剣というには余りにも頼りない感じがするんだよな装飾は豪華だけど。
なんか頭の中で初心者の武器で無名って浮かんだけど僕が初心者だからそう出た気がする。僕の腕がそんなに太くないので頼りない気がするけど研ぎ澄まされた雰囲気を感じる。
それに明らかにサイズに合わない軽さ。切れ味がどうなのか気になるところではあるけど普通の剣とは違うんだなと僕でも分かる。
剣を振り回しながらしばらく進むとようやく目の前に林と大きな山脈が見えてきた。ただ遠くに見えるだけでまだまだ先は長そうだ。そして嫌な物が視界に入る。
何か走ってくる……しかも夜でも映えるエメラルドグリーンの巨体を躍動させながら。
「ガァアアアアア!」
咆哮は闇を切り裂きながら僕を目掛けて走ってくる! それは以前図鑑で見た恐竜のフクイラプトルだと思ったんだけどなんか違う……眉間に角が生えてる。
僕の近くに来るとフクイラプトルの間合いなのか足を止めて二本脚を体の幅くらいに広げた。そして前足を広げ顔を上にあげ
「ギャアオオアアアアアア!」
と下ろす時に口を開いて咆哮を繰り出してきた。僕は意識が飛ぶ。
グチャ。
「おぉ死んでしまうとは想定内」
激痛なんてもんじゃない。心がよく無事でいると感心する。
「アンタまだ理解してないようだな。もう一度言うが、何度死んだところでやり直すだけだ。激痛は無くなる事も慣れる事もなく繰り返し続ける」
目の前の赤いショートカットのサディスト女神は嬉しそうに語る。だが解りやすい。心が死のうが脳が死のうが関係ないのか。
「別にアタシの暇つぶしになる。何度でも死んでくれ。アンタにこの状況を吹っ切れるとは期待していないがアタシを楽しませてくれ」
くっくっくと笑う。ヴェルダンディってこんな人だったっけか? 何かの有名なマンガだと慈愛の女神ぽかったけど。
「そんなものぁそっちの都合だ。この世界じゃそんな暢気な生き方してたら人は生き残れない。世界と時代が違う」
身も蓋もない。
「身も蓋もあるようなお上品な世界じゃない事をさっさと理解して飲み込むべきだとは思うがね。進まないよ話が」
どうでも好さそうに大事な事を言う。
「……帰る方法は……」
「は?」
「帰る方法はって言ってるんだ!」
そう言うと切れ長の目をうっとうしそうに細め
「知るか馬鹿。アタシはなんでも屋じゃないんだ。知りたきゃ生き抜いて先に進むよりほかないね。こんなところで永遠に死に続けてたら何もないが」
と吐き捨てるように言った。神様って何さ。
「ま、兎に角何年何十年掛かるか知らないが、頑張ってみれば? 次はどんな死に方をするのか楽しみにしてるよ!」
そう言った後、僕の顔面を殴りつけた。
・
「またか……」
満天の星空。何故死ぬ事を許されないのだろう。こっちはもう死んで終了で良いっていってるのにクソ忌々しい女神の言う通りこのままじゃ何度でも痛い思いをして死んでやり直して。一歩も進まないままだ。
ニートしてた日常ですら月日は経ったのに。今は自分で何とかしなきゃ進められないなんて最悪だ! 駄々をこねても無駄な事は解っている頭では……だけど納得いかない! 何もアイテムが無い状態であんな化け物どうすりゃいいんだ!
僕は何か叩きつけられる物が無いか探したが、砂漠にはそんなものありはしない。爆発しそうな気分で浮かんだのが斧だった。
右手をだして斧を握るイメージを浮かべると現れたのはさっきのトゥーハンドソード位の長さで、僕の体の幅よりも大きな両刃の斧が出てきた。
僕はそれを握り砂漠の地面にたたきつけると当然砂が風圧で舞い上がる。感触は何もない。イライラが募っていく。僕は精神の均衡が取れず何度も何度も叩きつける。
が、暫くして妙な感触に当たる。次の瞬間、振動と共に砂が盛り上がってきた。天に届くかと思うような高さまでそれは上がり、砂が落ちてきて現れたのはミミズに甲殻が付いたような薄気味悪い奴だった。
それは勢いをつけて、僕へ突進してきた。
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