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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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次の日の朝

「あらお大臣の御登場じゃない」


とぼとぼと屯所を出てギルドへ行くと待ち構えていたかのようにリュウリン女史が仁王立ちしていた。開口一番精密射撃で急所を狙い撃ちとは容赦がない……。


「おはようございますギルド長さん」

「おはようミコト。貴方も大変ねこんなネガティブなのと一緒で」


 僕を上から見下ろす様に見るリュウリン女史の前に出て挨拶をするミコト。


「まぁ良いところもあるんですよ?」

「無かったら大変だわ」


 しょんぼりしつつカウンターへ向かう二人の後に付いて行く。現実は厳しいなぁ……でも今は仕方ない。これまで引き籠ってたしこれからよく学んで考えて動かないと一生なじられる可能性が高いぞ。頑張らねば……。


「お二人ともおはようございます。今日は依頼をお探しですか?」


 受付の人は普通に対応してくれて一安心だ。カウンターの下から僕らが受けられそうな依頼が集まっているファイルを渡してくれたのでラウンジでお茶をしながら探す。シルバー帯の最底辺とは言えシルバー帯なのでお茶も無料になっている。但しこれにもランクがあり上の人たちはとても良い香りのするお茶とお茶請けが出ていた。お金を出せば買えるけど今は我慢我慢。


「で、次は何をするの?」

「それを今から探します」


 何でか知らんけどリュウリン女史までテーブルに着いた。ギルド長が僕らにかまけてて良いのだろうか。僕らも変に注目を集めたくないんだけどなぁ。


「個人的な意見だけどこの町の周辺の依頼を受けるのをお勧めするわ。貴方たちこの周辺の地理とかさっぱりでしょ?」

「そうですね……確かにギルド長さんの言う通りかも」


 僕もそれに頷く。変な意見を出して突かれると面倒なので黙っておく。


「ならこれとかお勧めよ」


 リュウリン女史がファイルの中の紙を数枚めくって出て来たのはイスルの町の南にある草原の生態調査だった。今カイテンは冬から春に移るところらしく、冬眠を開けた動植物やモンスターの動向を知りたいようだ。何より南には遠いけど首都がありこの草原は物資運輸道路の一つとして簡易的にではあるけど整備された場所だと言う。


「早速行ってみましょうか。銀十ですけど良いですか?」


 僕はそれに頷いて答える。それを見てリュウリン女史が溜息をまた吐く。舌打ちしないだけまだマシなのかもしれない。


「ミコトのスケッチとても良かったわよ? 今回も量が多くて質が良ければプラスアルファ出すから是非頑張って頂戴ね。後そこのも何か珍しい物を見つけてきたら追加してあげるから頑張りなさい」


 僕たちはカウンターで手続するとそのまま馬車へ向かうべくリュウリン女史に見送られながらギルドを出る。


「康久さんはリュウリンギルド長が苦手なんですね」

「いやぁ今のところどう逆立ちしても勝ち目が無いからさ、喋って気分悪くさせてもなんだし」


「良いじゃないですか別に。わざと悪くさせようとしてない上に気を付けているのであれば後は相手の問題です。最大限努力してどうにもならなければそういうものだと受け入れて成長すれば良いんですよ人間ですから。神様じゃないですから何でも出来ないんですよ?」

「そうだね……なまじウルド様から能力を与えられている所為か自己評価が高くて自己肯定が低いのが悪化してる気もするなぁ」


 父親は大学教授で御爺ちゃんと同じ研究をしていた。子供の頃から字に対して厳しいのを初め優しかった点が微塵も無かった。母親は記憶にないし姉か弟か居た気がするけど、婆ちゃんに優しく厳しく育てて貰った記憶しか後は無い。嫌な話しか思い出さないのであまり思い出したくないけど、リュウリン女史のあの僕の父親みたいな振る舞いの影響かもしれない。


「ダメな部分を受け入れるところからしてみましょう。それにリュウリン女史は悪い人じゃないですよ? 元々ああいう人なんです。それも認めて良い感じに付き合っていきましょうよ」

「はい……」


「ようお大臣今日も一段とテンションが低いね!」


 リールドさんまで僕を煽ってくるけどこれ位の方が良いのかもしれないと今思った。変に遠巻きにするより茶化してくれた方がこっちも気が楽だ。そう考えるとリュウリン女史も女史なりにしてくれたのかと思うと申し訳ない気持ちになってきた。


「なんだなんだまたテンションが下がったぞ?」

「今日はそういう日なんですよ。誰でもあるでしょ? 機嫌が悪くて”お前の価値観を押し付けるなよ? ここは俺たちの国だ”とか言っちゃう日とか」


「え、あ、す、すいません……」

「どういたしまして。それより馬車を使いますけど良いですか?」


「どうぞ……」


 ミコトは笑顔でリールドさんを言葉でノックアウトしテンションだだ下がりの僕らを尻目に準備を始めた。僕はミコトに渡されたメモを片手にダンデムさんのお店に急行。


「康久の旦那! おはようございます今日も買い物ですか!」


 ダンデムさんの明るさが眩し過ぎて僕は灰になりそうになるも堪えてミコトのメモを渡す。僕の格好に首を傾げつつメモを受け取り素早く集め始めてくれた。手伝おうと思ったけどダンデムさんのお店だし商売だから彼の邪魔になると思って店先でボーッと突っ立っていると、何やら両足に重りが付いた。


「おーおはよう二人とも。今日も悪戯か?」


 見なくても気配で分かる。二人とも手を繋いだり抱っこしたので。今日は昨日よりも気が明るく感じる。見ると着ている者は変わらないものの顔は綺麗だし髪も梳かして整っていた。まだ遊ぶ前らしい。


「おはようおじちゃん!」


 ……おじちゃん……まだおじちゃんていう年ではない筈だ冴えない顔しているだろうけども。僕はそのまま地面に突っ伏した。二人は足から素早く離れ両脇に移動する。


「ダメだよミオミ、この人はお兄ちゃん。おじちゃんはサスノみたいなのを言うのよ?」

「そうなのミカちゃん。ごめんねおじちゃん」


 何回も言わなくていいんだ何回もおじちゃんて。想像以上にダメージが通る。防壁貫通するオプションがあの言葉にはあるのだろうか。


「これから何処行くの?」

「散歩」


「なら付いて行く!」

「ダメ」


 突っ伏したまま会話をしていると二人は両脇から引っ付きつつ人の背中をトントンし始めた。何の遊び何だこれは。子供のやるものは既存の物を知らないので自分たちが楽しそうな行為行動を探しているから大人には理解出来ない物が多いと聞いた覚えがあるそういうものだろうか。


「はい旦那。準備出来ました。チビ共に懐かれちまってまぁ」

「こんちわおじさん。私たちこれからお散歩行くの」


「そうなのか? 気をつけてな」

「いや行かないから……今から依頼なんだよ遊びじゃないのさ……」


「旦那あんまり遊んでるとミコトさんに怒られますよ?」


 そう言われてハッとなりゆっくりと立ち上がる。そして懐から小銭袋を取り出し代金を支払うと、子供二人を孤児院に送り届けて鍛冶屋に戻る。まぁ案の定遅いと怒られたのでご機嫌取りに飴を献上し馬車に乗り込む。


「よう」

「なんすか」


「お前凄い奴だな。別に金持ちでも無いのに孤児院に寄付なんてよ」

「身の程知らずなだけすよ」


「それでもしただけ凄い。俺たちの誰もが裕福だったりそうでなくとも満足な家庭で育った人間なんて数少ないんだ。だからそういう行いをしただけで皆の目が変わる。そういう人が居てくれたら良いなと俺たちも思っていた時期もあったし、今はならなきゃいけない側なんだけどな……どうしても上手く出来ない。兎に角この町の人間として、何より一人の人間として感謝する。それを言いたかった。気を付けてな」


 出発寸前でそう言われて朝から町の視線の一部を理解した気がする。元の世界の日本を基準に考えがちだけどそんな国は多くない。この世界なら猶更だ。


「恨みや妬み嫉みもあるでしょうけど、それ以上に感謝と感激もあるでしょう。負の部分に目を向けないで良い部分の思いに目を向け考えて行くと幸せになれると思います」

「そうかもね」


 つい負の感情の方が強いから目を向けがちだけど、そうじゃない方をしっかりと見つめて考えて行こうかなと思う。直ぐには上手くいかないだろうけど。

 

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