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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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向日葵のかんざし

「ありゃーこりゃまた凄いねぇ」


 孤児院は町の外れの方に在り、看板にはイスル直営孤児院と書いてある。もう陽も暮れて街灯がついている中で門の前には恰幅の良い白髪交じりのおばさんが立っていた。その脇には若い女性と男性も立っていて二人を見つけるけるとお帰り、と優しく声を掛けてくれてホッとした。


僕はその二人と友達になったその記念に寄付をしたいと申し出ると快く受け取ってくれた。


「ありがとうございます。感謝しますがくれぐれも貴方たちの生活を壊したり無理に下げたりだけはしないでください。そんな状態で寄付していると何れ寄付される側にもなり兼ねません。今は竜神教(ランシャラ)の乱で孤児も増え経営も厳しいですが、何より孤児を増やさないのが私たちの願いですから」


 園長のリーズさんにそう言われて恥ずかしい気持ちになる。全て短慮の果てだ。上だけ見てその根を見ていない。今日も間でやってこれたのもウルド様始め皆の御蔭であるのは間違いない。僕はそうならない範囲で協力しますと答え孤児院を後にする。


「旦那はよくやったと思いますよ? 孤児が可哀相だからって構ったものの思うのと違って離れて行く人間も少なくない。ましてや寄付するなんてそれだけでも他の人間と比べたら天と地の差だ」


 ダンデムさんはそう僕を持ち上げてくれたけど、お店まで閉めさせて協力してくれた人間に気を使わせてるなんて僕はまだまだダメ人間だなぁと呆れて溜息が出てしまう。


「有難うダンデムさん。僕はまだまだ考えの足りないダメな人間です。でも少しでもマシになれるよう生きたいと思いましたし、今もこれまでも皆の支えられたからこそ生きていられるって今日分かって勉強になりました」


 そう答えるとダンデムさんは豪快に笑う。一頻り笑った後一息吐いて寂しそうに微笑みながら


「旦那はこの時代に相応しくないくらい真面目ですよ」


 と言い間髪入れずに僕の隣に座るミコトが不満そうな顔で


「そう思います純粋で騙されやすくて真面目で困ります」


 と皮肉交じりの同意をした。ミコトの言葉に僕らは声を上げて笑う。確かにこの時代のこの世界に相応しくないのかもしれない。その上異世界人で神様に託されたものがある人間。だからこそ異物にも出来る仕事があるんだろうな、とも思う。


ダンデムさんのお店に着き馬車を片付けつつ僕は何か手軽なものは無いか素早く見て回った。そして向日葵に似た花のかんざしがあり、ミコトに見つからないようダンデムさんにお会計をお願いする。最初ミコトにプレゼントなのを理解して御代は要らないと言われたので銀十置くと銅二十ですと慌てて値段を言ってくれた。


僕は今日の手間賃と感謝の気持ちだと言うとそれはさっきの御代に入ってるから銅二十、そこはこっちとしてもこれからの付き合いをしっかりしたいので譲らないしこれ以上やると彼女にバレますよと言われ折れて銅二十払う。やっぱ僕みたいな甘ちゃんではこの世界に暮らす人々にはまだ敵わない。何れ皆に上手く粋に返せるようになりたいなぁと考えつつ宿へと戻る。


「今日はお疲れ様でした」

「ええ本当に」


 相変わらずご機嫌が悪いミコト。まぁ僕の甘さに怒り心頭でも無理はない。でもここで謝ると更に油を注ぎそうなので、僕は夕食が来る前にテーブルで向かい合うミコトにそっとプレゼントだよと言ってさっきの向日葵のかんざしをそっと出した。


すると目を丸くして止まった後、僕とかんざしを交互に何度も見た。僕はどうぞと言うように両掌を上に向けてミコトに向ける。暫くしてからおっかなびっくり手を近付けて向日葵のかんざしを手に取り、左側に刺してみる。部屋には鏡があったので急いでその前に行くと最初はもじもじしていたけどやがてポーズを取り始めたり持っていた着物を合わせてみたりとせわしなく動き始めた。


それからはご機嫌が治って元気に夕食を食べ夜もこんなに嬉しいのは初めてかもしれないと興奮気味にその嬉しさを離れたベッドから語り掛けて来た。僕はそれを聞きつつ眠りに落ちる。


「悪いね来てもらって」


 翌朝もミコトはご機嫌が良くテンションが高い。僕は色々あって精神力が回復してないのか若干芯が重かったけど朝食を取って大分回復した。コーヒーを頂いていると部屋のドアがノックされ開けると兵士の人が二人立っていた。何でもデラックさんが呼んでいるから来て欲しいと。


僕らは直ぐに用意して宿を兵士の人たちと出る。が、何だか外の様子も兵士の人たちの様子も変だ。僕らの世界で言うところのパンダを見るみたいな感じの視線を感じる。兵士の人たちもにこやかだし何か賞でも頂いたのかこないだの鉱石が珍しいものだったのか。


「うーん違うね」


 屯所の部屋でデラックさんにそのまま尋ねると微笑みながらそう言われた。


「じゃあ何なんでしょう。町の人たちも兵士の人たちも何か変だし僕らに対して。僕何もしてないっすけど」

「何もしてないねぇ……」


 苦笑いをされてしまう。何だか何も思い当たる物が無いので気味が悪くて仕方ない。こういうのじらされるととても居心地が悪い。


「ミコトくんは分かるよね」

「思い当たる物は一つしかありませんが、それでこんな見世物みたいな状態なんでしょうか」


 僕ははてなマークを頭に浮かべながら二人の顔を交互に見る。溜息を吐かれるも良く分からない。


「まぁ君たちはまだこの国に来てから日が浅いから経済とかそういう部分が分からないと思うけど、乱の復興中でとても贅沢な感じではない。物価も以前より高いし皆自分の生活だけで精一杯。哀れに思ったとしても子供だから救ってあげたいと思っても出来ずに居た」


 そう言われて僕はやっとわかった。昨日の寄付の話だと。二人はまた僕の顔を見て溜息を吐く。


「鈍感なのも良いのか悪いのか分からんが苦労するなミコトくん」

「ええ全く」


 ……そりゃまぁ僕が鈍感なのは否定しないし鈍感な御蔭でこんな感じになったと言うか何と言うか。


「兎も角町としては君の行いに対して最大限の感謝と共に改めて君たちを歓迎するという話だよ。昨日まではただの客だったのだがね。まさかギルドで貢献する前に町の人間に貢献して認められるとは鈍感の良い部分なんだろうねここは」

「でしょうね。デラックさんがギルドを紹介しサスノさんの案内で依頼をこなさせたのはギルドへの貢献と実績で町に溶け込めるようにとの配慮でしたから」


 そう言われて僕はそうなの!? と驚いてしまう。今日は二人とも呼吸が浅いのか溜息が多いですね……。


「町の上の方でも今回の件に感謝して感謝状を贈りたいと言っている人間も居る。素晴らしいくらい上に高評価を早速得たな康久」

「ど、どうも……」


 そう答える以外何を言えば良いのか分からないのでそう答えて見た。デラックさんは首を竦めてやれやれって感じだった。


「無理せず善行を積んでくれ。但しギルドではシルバー帯の最底辺の位置だというのも忘れないように」

「そうですよ康久さん。私たちは町から宿も無料で借りてるんですから」


 ……配慮が足りない考えが足りない判断が遅い。素晴らしい酷さで僕は顔を手で覆い俯きながらすいませんと嘆く。


「今こうして理解したのだから今後はギルドへの貢献に精を出してくれ。この国はギルド主体だからそこでの貢献は国への貢献にも等しいし何よりそれが皆の評判を高める。何しろギルドへの依頼は町の困った問題などだからね」

「はい……ホントすいませんした……」


 有難いよなぁ苦言を呈してくれる人が居て。これデラックさんもミコトも居なかったらただのクソ地雷人間じゃん……いやデラウンでもひょっとしたらそうだったかもしれないと思うと僕はまた引きこもりたくなってきた。

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