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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
イスル編

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依頼の森

「残念ながら康久さんにはそう言うのはありませんよ。彼は元々記憶が無くてデラウンの近くに居たというだけの冒険者です。デラックさんもご存じですが彼は竜神教(ランシャラ)から狙われていますし何とかしようと考えている人ですから」


 ミコトは空気を無視してズバリ言い放つ。こういうところが彼女の強いところだし尊敬する部分でもある。本当の意味で相手を気遣ってハッキリ物を言うっていうのは僕はとても苦手だ。どうしても相手の気分を害さないかある程度考えて言わずにおいてしまう。


そうして距離を取って関わらないようにしてしまった結果、元の世界の状況になったのだから少しでも改善したいなとは思うけど中々難しいし勇気が要るなと感じている。


「そうなのか。それはそれで厄介だな。俺も少し言い過ぎたが言うべき話はしたつもりだ。これ以上は何もない。寧ろ理解が深まって良かったよ。後で出てくる方が余程問題を大きくするからな」

「そうですね。私たちがそうではないと言うのを具体的には今は御話出来ませんが、この国の味方かどうかよりカイビャクの竜神教(ランシャラ)とは敵対関係であるとはっきり言えますのでそれは覚えておいてください。そして私たちは異種族に対して何か思ったりもしません。人種ではなく人としての中身で判断します。貴方はハッキリ主張出来るからしたんでしょうけど、事情があって言えない人も居るのを理解すべきです」


 啖呵を切るミコトさんかっけぇ……それをするのは僕の役目なんだろうけど元の世界に居た時も国柄でそう言うの言い辛い空気があったし今はまだ出来ずにいる。


「……確かにお前の言う通りだ。人其々事情があるし俺にも勿論ある。しかも初めて会った人間で記憶喪失の人間に対して言う言葉じゃないな。知らなかったとは言え聞こうともせずあんな話をした俺が一番過敏になっていたのかもしれない申し訳ない」


 リールドさんはヘアバンドを取りしっかりと気を付けをした後頭を下げた。僕は直ぐに気にしないでくださいそれだけ自分の思いがあるんでしょうからと言うと、


「ダメだ。相手を不当に弾圧してしかも間違っていたのなら謝罪し許しを請わなければ俺も声のデカいだけの連中と同じになってしまう。ダークエルフだから仕方ないなどと言われる元にもなる。それではダメなんだ」


 そう言われてしまい僕はそれ以上何も言えずその姿を見るしか出来なかった。暫くしてミコトから”康久さんが許すと言えばそれで御終いです”と言われたので許しますから頭を上げてくださいと伝えると、ありがとうと言いながら頭を上げてくれた。


それから間髪を入れずミコトは交渉に入る。馬車の値段が幾らになるのかや整備費それに駐車する場所などを矢継ぎ早に質問する。リールドさんは慌てて細かい値段と整備費や注射の場所はこの店の裏の空き地で管理費も掛かると教えてくれた。


「当然割引もありますよね?」

「も、勿論だ。月々頂くし整備もうちで見させてくれるなら購入費は勉強する」


「どれくらい?」


 ここからさっきまでの感じが吹き飛ぶほどミコトのつめつめの交渉が始まる。リールドさんもかなり勉強してくれて安くしてくれたけどミコトはもっとどうにか出来ないか私たちが有名になればこのお店も有名になる武具の整備もと言うとリールドさんは一瞬喜んだ顔をした後急いで計算しなおし更に整備費も出してくれた。


何か段々こっちが申し訳なくなってきたのでミコトにあまり無理を言わない方がと割って入ったけど、ああそう言えば先ほどの無礼の分はどこにと言い出し藪蛇になってしまいリールドさんが余計頭を抱えてしまった。僕は大人しく馬車を見て回りながらその交渉が終わるのを待っていた。


「ま、毎度あり……」

「いいえ取り合えず乗って試してですからお構いなく」


 あまり時間が掛かると依頼が難しくなるからと伝えると仕方ないとミコトは切り上げそのまま馬車に乗って依頼の場所まで急いで行く。特に時間は書いていないけどそんなに時間を掛ける依頼では無いし何より夜になると生き物が活発になって依頼の妨げになる。


「ミコト有難うね」

「いいえこういうのはお互い様でしょう? 私は戦闘は全く出来ませんし。出来る方がやれば良いのですそれが二人組の良いところかと」


 ミコトは手綱を握って馬車を走らせつつ笑顔でそう言い僕も笑顔で返す。これは肉体労働を頑張って少しでも稼ぎを良くしておかないと。後はこれが終わったら町に出て何かお礼の品を手に入れてプレゼントしたいから頑張ろう! と考え僕は一人気合を入れ直す。


 夜盗から拝借した馬、ミコトはこの馬をアジスキと命名しこれから面倒を見るけど良いかと聞かれたので勿論良いよと答えた。それが分かったからなのかとても速いスピードで目的地に到着し早速依頼書を見ながら作業を始めた。アジスキは疲れた様子もなく走り足りない感じだったけどやる仕事が無いと分かるとその場に身を屈めて体を休めた。


ミコトは周りの動植物で特徴的なものをチョイスし簡単ながらスケッチを始めた。そして僕は森の中にあった水晶の丘と言うか起伏した地面の上側一面が水晶のようなものが突起した場所を採掘する。何か爆発したりしないかと心配したけど特になし。


ただとても硬いのですんなりとは取れない。根元の方を削りつつ何とか一つゲットした。手に取ると中々の重量がある。これを十個採取するのだから中々骨が折れそうだ。


「康久さん!」


 ミコトの声で手を止め素早く振り返るとそこには狼が数匹こちらを覗き見ていた。僕らに反応したのかそれともアジスキに反応したのかは分からないけど獲物の匂いを感じたのは間違いない。日も段々と落ちてきている。ここはどうすべきか……。


「ちょっと動かないでね」


 ミコトはリュックの中から何かを取り出すとその狼たちに向けてそれを放り投げた。狼たちはそれを奪い合うように取り合い噛みついた。その間にミコトは彼らのスケッチを始める。あれは何か尋ねるとどうやら狼を大人しくさせる現代で言うならほねっこのようなものらしい。簡単には食べきれず時間が掛かるけど美味しいみたいな。


ていうかこういうのを上げていると犬の祖先みたいな感じで人と共生していくんじゃないのかなとか思ってしまう。だけどミコト曰く森にも食べ物は沢山あるし困ってはいないのでそうはならないでしょうと言われた。ただ森火事もあって一時的に少なくなったのもあるだろうとも。


今回はその影響を調べる意味での依頼なのかもしれないとも付け加えた。僕は色々あってすっかり山火事の件を忘れていたけどそう考えればそうだなと納得し、急ピッチで水晶の採掘に取り掛かる。何とか全力を出して終わらせ日が暮れる前には森を出られた。


狼たちはまだ競うように噛みついていてそのうち仲間も現れ取り合いになった。それを見つつ僕らはその場を後にする。お互いに何も無ければそれで良い。

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