砂漠の夢
厳つい燐でもなければ毛がふさふさの肌でもない。若干硬そうな黒い色の皮だ。元になったデザインには少し不満はあるけど、生身で戦うよりはこのスーツぽいものは有り難い。
「おい、そのまま炎を吐いたら後ろまで行くぞ?」
何となくそう思ったので言ってから黒竜が飛んでいった方向を見る。するとやはり口を開いていた。少女はさっきの位置に居る。
「貴様何者だ? ただの人間ではあるまい!」
「そんなのは知らないよ! だけどお前を倒すのに十分だろ? それで良い!」
黒竜は口を開けた後、大地を蹴って空へと飛び上がる。僕は直ぐに建物から出て少女の元へと戻る。そして抱えて移動し物陰に寝かせようと足を止めたけど、それを狙って黒竜が降下してきた気がしてそのまま飛び上がる。
「忌々しい虫けらめ!」
元居た場所に突っ込み体制を崩す黒竜。何となくだけどお凸の辺りから頭を狙えるっていう気がして、それに従い落下の勢いと少女の重さを加えて蹴りを加えた。
「がっ……」
顔を地面に押し付け反動で再度飛び上がり、近くの屋根へと移る。黒竜は痙攣し白目を剥いている。だけどお凸の辺りは告げている、あれは……。
「おーいやったぞ!」
黒竜を見つけた人が声を上げる。そして続々と兵士なども集まって来た。不味い。
「おい! 危ないから近付くな!」
「俺が倒したんだ! 何度でも倒してやるさ!」
無精髭とぼさぼさ頭、歯が欠けているおっさんが黒竜の頭に足を乗せ剣をかざして僕に向かって怒鳴っている。皆もそうだそうだと何故か同調している。あれは有名人なのか?
「やっとダグサさんが蘇った!」
「これで我々は勝てるぞ!」
「アイツはダグサさんの手柄を横取りしようとしたぞ!」
「どっか行け余所者め!」
何故か知らないけど石まで投げられ始める。当たらないけど恐怖は感じる。この町は教団だの元英雄だの縋りたいものが多すぎじゃないか? 苛酷な環境だからそうなのかな。
「それより英雄の帰還だ! あの教団も消えたし万々歳だ!」
ご丁寧に説明してくれた感じになってるけど、黒竜の周りでお祭り騒ぎしてるだけだった。何があっても人の死を喜ぶような集まりに加わりたくないのでバックステップしながら下がる。
「グォオオオアアアア!」
街の入り口付近の塀の櫓まで下がったところで黒竜の鳴き声が響き渡る。そして続く人々の悲鳴に夜を照らす程の炎が上がる。死んだわけじゃないくらい分からなかったんだろうか。それくらいあのダグサとかいう人を信じてるんだろうなぁ。
「康久!」
下からミレーユさんの声がする。何で僕だと分かるんだろ。抱えている子の件もあるから一旦降りよう。
「悪いけど竜を何とかして貰えるかしら」
「分かりました。でも良いんですか? あのダグサとか言う人が」
そう言うとミレーユさんは苦笑いをして
「あの人はね、昔はこの町の夢そのものだったのよ。英雄だった頃はこの町も栄えていたし。でもそれももう昔の話。でもね、皆夢を見続けたいのよ」
そう寂しそうに髪を耳に掛けながら言った。夢と共に去りぬって感じなのかな。
「この子お願い出来ますか? 倒せるかどうか分かりませんけど撃退してみます。それと報酬は馬と次の町へ行くまで持つ食料と水で」
「分かったわ」
了承を得たので少女をミレーユさんにお願いして僕は黒竜のところまで屋根に上り飛び移りながら戻った。
「あらら」
さっきまで歓喜の声をあげ僕に向かって石を投げていた人達は見るも耐えない状態で物体となっていた。
「た、助けてぇええええ! 誰か! 男の人!」
……どうやらあのおっさんは元気らしい。悪運が強いっていうか流石英雄って言うか。
「おーい黒竜お待たせ!」
両手を挙げて左右に振りながら大声を出す。黒竜は直ぐにそれに気付いておっさんを追い掛けるのを止めてこちらに戻ってきた。
「グォオオオオ!」
飛び掛かってきたものの、別の屋根へ飛び移りながら避ける。町の中に居ると邪魔が入りそうなので、そのまま外へと引っ張っていく。
「こ、こっちへ来るな!」
町から逃げ出した集団が先に居て、あっちへ行けと怒号とアクションで伝えてくる。全く勝手な連中だ。よくこれで町に帰れるな。
「はいはいっと」
特に知り合いでもないから無視して突っ込んでも良いけど、後で面倒になりそうなので方向を変える。
「参ったなぁ振り出しに戻ったわ」
おじいさんが無くなった辺りまで来てしまった。肩身のボウガンも置いてきちゃったし。
「まぁ弔い合戦ぽい感じでやりますか」
折角力を与えてもらったので、有効に使うべく黒竜と対峙する。




