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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カイテン導入編
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今いる国の話を少し

「いやぁ実に見事だったね」


 テントの前に例の金色のロングソードの人が笑顔で拍手をしながら立っていた。今の僕からすると嫌味にしか思えないけど小さく深呼吸して笑顔で


「とんでもない運が良かっただけですよ」


 と答える。まぁ冗談抜きにミコトが居なかったら死んではいなくても確実に深手を負わされていたのは間違いない。運が良かったという以外に当てはまらないような勝ち方だ。師匠が見たら苦笑いするだろうこんな気の抜けた勝利は。


「そうだなそこは敢えて同意しよう。君におべっかを使ったところで意味は無いし私と当たる為にというより自分自身の感覚を研ぎ澄ませるのに注視するようだから」


 見透かしたように言うので乾いた笑いが出てしまった僕に対しても笑顔を崩さない。中々視線を潜り抜けて来ている人のようだ。相手が自分をどう思おうがそれに対して反応したりはしない。反応すればそれは冷静さにおいて相手より不利になる。勢いは大事だけどそれで周りを見失い相手を見落としていたら必ず負ける。


そう言う意味では僕はカーマでも失敗したしこないだの敵の本拠地襲撃でも失敗している。思い直せば連戦連敗だったのでこの油断は今回の負けの続きだ。命があっただけマシってレベルの。


「まぁそう落ち込む必要は無いだろう。何においても命あっての物種だ。生きていれば何でも出来るさ」


 妹が居なかったバージョンのリュクスさんみたいな人だなぁと思いつつ話を聞いていると、会話が止まり彼は視線を空へと投げる。そして手をぽんと叩き視線が戻る。


「すまない私は当たり前のように挨拶もせず君に説教じみた話をしてしまった。とんでもない失礼な人間だな私は。申し遅れた私の名前はデラック・アルバーン。カイテンの国の冒険者だ。以後宜しく」


 右手を差し出されたので僕も差し出し握手をしつつ自己紹介をした。その後このカイテンの国について教えてもらう。この国はカイビャクの隣に位置し冒険者ギルドと協力して周辺の安全を護っている。何よりこの国の王になった人は冒険者出身で婿養子になったので余計繋がりが強い。宗教に関しては基本自由ではあるものの国政等には幹部たちは参加出来ず、国政に対して反対などがある場合宗教での繋がりが疑われれば即座に却下されるなどとても敏感な状況にある。


それもつい五年程前竜神教(ランシャラ)による併呑運動が活発化し暴徒となって反乱が起こり鎮圧する騒ぎとなったのが原因という話だ。人が生きているのは竜神様の御蔭。ならばそれを基礎として運営し崇め奉らなければならないというのがその時のスローガン。なのでこの国では隣から来たと言えば真っ先にそれを疑われる。


反乱では教徒だけでなくそれに類する者や疑われた者も含めて多くの血が流れた。結果国力が弱り人々の心に影の身を残す結果となる。それが今日まで続いており誰一人として油断していない結果、露店での状態になったんだと分かり納得した。


「君の話は私も耳にしてね。君が教徒でないのは分かるがそれでも、と思ってしまっても仕方がない。君に声を掛けて来た者たちには私が話をしておいた。私の知る限りの情報をね」


 その言葉に少し疑問を感じつつも礼を言うと


「なに、君の為ではないんだ。そういう疑いがある人間が居るというだけで荒れる。折角のお祭りが重たいものになってしまうからね。五年しか経っていないから」


 そう言われてまた間の悪い時に来たなぁとゲンナリしてしまう。と言うかあの童顔ヤンキーは何時かとっちめて吐かせなければならない。何故僕をあそこに放り込んだのか。


「君がこの辺りの有名人である初戦の相手を倒したのは気にするな。町の人間もそうだと思っていたけれど誰も口にしなかった。彼の指揮能力等は疑いようが無いしね。寧ろ中には君と対戦してあの結果になって良かったこれから止めやすくなったと喜んで居た者もいる位だ」


 そう聞いてホッとするただでさえ色々面倒になってるのにこれ以上面倒になったら辛すぎる。ていうかそう言う人なら皆で説得して欲しかったなぁ。僕じゃなきゃ死んでたと思うけど。


「私も頑張るから是非決勝で会おう。対戦を楽しみにしているよ。ではお連れの方もまた」


 颯爽と去っていくデラックさん。カッコいいねぇやっぱ男前は映えるよなぁと感心しているとミコトに袖を引っ張られてテントに入り二人でお茶をしながら軽食を食べる。今日は日も良いのでこうしているとピクニックみたいで良い感じだ。風も気持ち良いし周りは兵士の人が警護してくれてるから問題ないし。


「やはり康久さんはもっと気合を入れるべきです」

「そうは思うんだけどね、張り詰めた感じが好きじゃないっていうか……そういう状態だとどこからか空気が抜けた瞬間全部ダメになりそうで。だからこう水のように形に捉われない状態で居たいなっていう」


 師匠にも硬くなるなと言われていたのもあった。そよ風のように流れられるところへ流れてゆくのが理想だと。がっちり受け止めたり線を無視して斬ろうとすれば必ず仕損じる。上位者ほどがっちり受け止めたように見えて余裕があり、無視して斬ったように見えてその実体の流れを見て斬っているからそれを忘れないようにと。


「なら感覚を研ぎ澄ませる為に瞑想してみてはどうでしょうか」

「ミコトは瞑想知ってるの?」


「勿論です。座禅も知ってます。やりますか!?」


 ミコトは目を輝かせてトランクを引っ張ってきて中から平たく長い板を取り出した。


「あれそれって」

「警策って言います。集中が乱れたらこれで叩きます!」


 笑顔で嬉しそうにそう言うミコト。僕を叩けるのが嬉しいのかそれとも自分も叩かれてたから叩ける側になれて嬉しいのか謎だ。


「やりませんか? やりましょう! やりますね! 決まりです!」

「え、やりませんよ?」


 捲し立てるように言いながら顔を近付けるミコトに対し冷静にお断りをする僕。笑顔で首を傾げられても無理なものは無理なので僕も首を傾げる。暫く見合うと


「ではここに胡坐をかいてください」

「聞いてる?」


「私のお手製のマットがあるのでこれに」

「あれ可笑しい聞こえてない」


 ミコトはトランクから赤をベースとしてチェック柄のマットを引いてここに座るよう促してくる。勿論僕は首を横に振り拒否するも首根っこを掴まれて引きずられて胡坐をかかされた。それから手を膝の上にのせて掌を上に向けて目を閉じた。


風が気持ちよく緊張がほぐれたのもあって一瞬寝かけてしまうとビシッと右肩を叩かれた。痛さに目を開けて後ろを見ると嬉しそうな顔をしてるミコト。それに気付き直ぐに真顔に戻し咳ばらいをし


「修行が足りない」


 と低い声で言われる。これ絶対前にやられてるよな自分が。勿論寝かけた僕も悪いけれども、だ。この調子でいくとマジで叩かれ続けるから集中しないと。そう思いながらやりはしたものの環境が最高過ぎて眠りを誘い過ぎ、結局次の試合まで何度もシバかれる羽目になった。

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