特殊能力発動
仰向けになっていた状態から反動をつけて起き上がり、ゆっくりと少女を下ろす。
「言葉が通じるんじゃないのか? 何故ここを……いや狙いはこの子だな?」
僕が問いかけると夜の暗闇よりも濃い黒を身に染める竜は、目を細めた後下顎だけ動かし口を開いた。
「お前には関係無いな」
「あ、やっぱり通じた。竜は頭の良い生き物だから言葉を話すだろうと思ったし、何よりここだけをピンポイントで狙ったのは変だったんだよね」
この町の上で旋回していたのは、余計な邪魔が入らないようにする為でその証拠にここ以外被害は無い。
「その娘を寄越せ、出なければ先に貴様を喰う」
「街の人間からならまだしも、竜までも御執心とは気になるじゃないか。出来れば訳を聞きたいなぁ。その理由によっては考えるよ」
これは意味無い問いかけで僕も竜も手を引くつもりは無い。あるとすれば相手の隙を作るとか時間を稼ぐとかだ。僕は勿論後者。彼は答えているのは前者の理由。
「良かろう教えてやる。そいつは竜だ。力があるが故、人に化けてこの町に住み謀って己の欲を、人を喰らうという欲望を満たして居たのだ」
「で、なんでお前がそれを邪魔するの? お前も同じようにしようとしてこの子の縄張りであるここを奪いに来たっていうなら無理があるけど」
「何故だ」
「だってそれならもっと安全な方法があったでしょ? 怪我してるのを知ってて来たんだろうし君も竜としてとても知性があるようだから人に化けられるんだろうしさ」
まぁ答えるのは難しいよね。何しろ目的はこの子を攫うというものであって人がどうこうはまた別の話だろうし。
「そうか分かった。最早問答無用だ」
「それは残念だ」
これ以上は時間を悪戯に僕に稼がせるだけだと判断した黒竜は身を屈め羽を大きく広げて威嚇する。ギルドに誰も居ないからこの騒ぎと巨体を見て人を引き連れて来てくれると思ったけど、目論見は外れた。どんだけここ嫌われてるんだ。
それは後にしてこの状況をどう切り抜けるか。アイツの目的は後ろの子だ。恐らく僕が避けると読んで突っ込み、そのままあの子のところまで行って掴み飛び上がる算段だろう。ボウガンを置いて打つ余裕は無い。かと言ってほかに持っているの物は何もない。この体一つでどうすれば……。
「隙有り!」
後ろでガラガラと音を立てたので体が動いてしまった。そして僕を突き飛ばし黒竜はあの子へと一直線に向かい掴もうとした。
――康久、力を与えよう――
頭の中に例の女神の声が響く。その言葉の後に僕の体は眩い光に包まれ更に体が締め付けられた。
「ああああああ!」
剣山のように細かい目の無数の針が僕の全身を軽く刺して来る。一体何をされているんだ!? 怖くて目を開けられない。暫く大人しくしていると急に強くなり皮膚に刺さった。あまりの痛さについ目を開けてしまう。
「な、なんだ貴様のその姿は……」
視界は元に戻った。だけど堪え切れなくて片膝を付いて肩で息をしてしまう。
「フン。そんな物になったところでどうという話ではない。この娘は頂いていくぞ?」
少し動揺しているように見えるが、それを隠しつつこの場をいち早く立ち去ろうと羽を羽ばたかせ始めた。不味いぞ流石に空を飛ばれたら勝ち目は無い。
――ならば動けば良い。風よりも早く。お前には今それが出来る――
疑っても意味が無い。僕は身を投げ出し黒竜へと突っ込んだ。
「なっ!?」
あっという間に僕と黒竜は二人揃って瓦礫の中へと突っ込んだ。というか僕が押し込んだようだ。凄すぎる。こんな能力があるなんて思ってもみなかった。これがミレーユさんの言ってた特殊能力か!?
「おりゃ!」
僕は試しに黒竜の腹を蹴り飛ばしてみる。すると黒竜は更に壁を突き破って飛んでいった。
「こりゃ凄い! なんてパワーだ!」
僕は自分自身の手を見てみる。それは真っ黒で節の部分とかがどっかで見たことあるような感じになってる。
「これ虫じゃね?」




